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第三部 最終章
第44話 剣王レオンハルト
しおりを挟むいよいよ、結婚式当日となった。
白を基調としたウェディングドレスを着終えたノエルが鏡を見ている。髪もアップにまとめ、きれいなティアラが髪を飾る。
着付けを手伝ったアレットやフローラが満足そうに隣にいる。
フローラはきれいなドレスを着るが、裏方に徹するアレットは動きやすい白のスーツっぽいスラックス姿。
そばに立つクラウスは着飾ったノエルの美しさに目を見張った。
「きれいだ……」
ノエルは照れくさそうにうつむく。
「こんなドレスを着る日が来るとは思ってもみなかった……」
やはりウエディングドレスを着たサンドラ王女が現れた。
「まず、私たち。その後で、ノエルたち。こんなきれいなお嫁さんが先だったら、わたしがかすんじゃうからね」
ノエルはアレットに心配そうに話しかける。
「母上はまだ着かないのか?」
「もう、そろそろ、着くはずなのですが……」
廊下がバタバタと慌ただしくなり、イエルクが礼装で駆け込んできた。
「蛮族の反乱だ!、街が襲われてる。今城にいる兵は直接出る!」
クラウスは驚く。
「蛮族の反乱?、なんでこんな突然に?」
「たいした規模じゃない。あっという間に片付けて、夜の晩餐会には戻ってこれるさ!」
イエルクはフローラにウィンクして走り去った。
「蛮族の反乱?」
ノエルは不思議そうにクラウスに尋ねた。
「ああ、十年前にも同じように突然、この近くの街を襲ってきた……。そうだ、ちょうど先王が殺された日のことだ」
ノエルはクラウスの説明を不安げに聞いていた。
王宮の大聖堂。
地上から数メートルの高さにきれいなステンドガラスの窓が並ぶ。
壁に沿って、金の甲冑の近衛騎士団が配置され、腰に剣を下げて立っている。
正面で行われるサンドラ王女とルーク王子の誓いの儀式をクラウスとノエルが見ている。
「次は俺たちだぞ。緊張するな……」
ノエルが周囲の状況を見回している。
「どうした?」
「突然の蛮族の反乱で王宮の兵は全てそっちに向かって、守りは手薄。偶然か?、今、襲われたらどうなる?、結婚式だ、誰も剣など持ってないぞ」
クラウスはフッと笑った。
「ここには三十人の近衛騎士団の警護があるし、なによりも……」
正面の壁際に大剣を背負って仁王立ちするレオンハルトを指差す。
「剣王がいる」
ノエルはじっとレオンハルトを観察する。
「剣王、大剣のレオンハルト。強いのか?」
「俺とイエルクの二人がかりでも勝てなかった」
クラウスはレオンハルトの背にある大剣を指差した。
「あの大きな剣が、イエルクやツェン・ロンの剣と同じ速さで動くと想像してみてくれ」
ノエルは驚きの表情を浮かべる。
「それは、すご……」
キ――ン!、突然、高い大きな金属音が広間中に響き渡った。
「なんだ?」
クラウスは音の出所を探すように会場の来賓達の方を見た。
ノエルはレオンハルトの手が大剣を握り、足がサンドラの方に踏み出されるのに気づき、その動きから漂う異様な雰囲気を感じた。
レオンハルトがサンドラの方に向かおうとした瞬間、同時に、ノエルは床を蹴ってサンドラに向かう。
「アレット!」
「承知!」
後ろに控えていたアレットもサンドラに向かって走り出す。
レオンハルトは背中の大剣を抜いて手に持ち、サンドラに向かって走り、大剣を振りかぶる。
サンドラは向かってくる剣に気づく。しかし、恐怖に目を見開くだけで全く動けない。
大剣は容赦なく振り下ろされるが、ノエルが割って入り、両手で握ったヌンチャクの金属棒二本でガシッ、と振り下ろされる大剣を受け止めた。
しかし、打撃の力で押し込まれ顔をゆがめる。
「ぐっ……」
アレットがノエルの背後から、シュッ、シュッと針をレオンハルトの顔めがけて投げるが、かわされる。
しかし、大剣を押さえる力は緩んだ。
ノエルは剣を押し返し、そのすきに左手をスカートの中に突っ込み、もう一つのヌンチャクを取ってアレットに投げた。
受け取ったアレットは左から、ノエルは右から、それぞれヌンチャクを振り上げて飛びかかってレオンハルトの頭を狙う。
しかし、ブンと高速で振り回される大剣に阻まれて近づけず、後ろに飛んで着地する。
「くそっ……、近づけん!」
クラウスはノエルの戦いをボウ然と見る。
「なんで、結婚式にあんなもん持ってんだ……」
ノエルは着ていたウエディングドレスを片手で剥ぎ取った。
「こんなもん、ジャマだ!」
下着とコルセット、ガーターという姿になって、ヌンチャクを振り回しながら、レオンハルトに向かう。
クラウスはあぜん。
「ノエル……」
しかし、剣を抜く近衛兵にハッと我に返って叫ぶ。
「戦える者は椅子でも花ビンでも何でも持って戦え!、来賓を守れ!、剣を奪え!」
自らも近くの椅子を持って構える。
「クソ!、剣があれば!」
外に出ようとする者達は、閉められたドアの前に立つ近衛兵に阻まれ、部屋を出ることができない。
ノエルはアレットと二人がかりで、レオンハルトの周囲を飛び跳ねながらヌンチャクで打ち続け、振り下ろされる大剣に応戦する。
しかし、ヌンチャクでは所詮、大剣の相手にはならず、サンドラに近づけないようにするのが精一杯。
タイミングを見て放たれるアレットの針も、かわされ、大剣の腹でさえぎられる。
高速で振り回される大剣に、近付くこともできない。
ついに、大剣が肩に当たって、アレットが倒れ込む。
「アレット!」
ノエルは形勢の不利を改めて感じたように唇をかみしめた。
椅子で近衛兵の剣を相手に応戦するクラウスも分が悪い。周囲から剣に斬られた悲鳴も聞こえてきた。
「まずい、このままじゃ……」
クラウスの表情に悲壮感が表れ始めた。しかし、あらためてレオンハルトや近衛兵の様子を見る。
(みんなおかしい、表情もなく、剣を振るう。まるで操られているように……)
「時を稼げ!」
ノエルの叫び声が響いた。
「助けは必ず来る!,もう少しだけ辛抱しろ!」
クラウスはノエルの叫び声を聞きながら思う。
(助け?、誰が来るんだ?、騎士団も兵も戻ってくる時間は無いぞ……)
ノエルは一方的な大剣の打撃を両手で握るヌンチャクで必死で受け続ける。
「まだか、母上!」
パリーンと音が聞こえ、床からはるか上にあるステンドグラスが破られた。
そこから、長槍を持った母デボラが降ってきた。
デボラは着地して、ノエルを見て頬を赤らめる。
「おやまあ、ガリアンのウエディングドレスはセクシーだね」
パリーン、パリーン、さらにステンドグラスを破って今度はセリアとクロエが槍を手に降ってきて着地、ノエルを見る。
「姉上!、なんたる格好を……」
「恥ずかしいです……」
ノエルはそんな三人を一喝して叫ぶ。
「そんなこといいから、早く、クラウスを!」
その時、ドゴーンという大音響と共に、閉じられていたドアが外から打ち込まれた巨大な鉄球で近衛兵もろとも吹き飛び、壁に大穴が開いた。
「修理代はノエルに付けとけよー、招待しといて入れねえ方がわりーんだからなー」
穴から矛を担いだホン・ランメイが現れた。
「ケーキ、あるよねー?」
巨大な斧を手に鉄球を引きずってチャン・ダーウェイが現れた。
「アニキー、剣持ってきたぞー、どこだー?」
クラウスの剣を手に、ツェン・ロンが現れた。
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