41 / 47
第三部 最終章
第41話 平和な日々-客であふれるハイゼル家
しおりを挟む里から帰り、のんびりとした日々を過ごしていたある日、マリラが大喜びの表情でノエルに駆け寄っていった。
「ノエル様、できました、できたんです、娘に子供が、私の孫が!」
ノエルは意味がわからず、キョトンとした。
「ん?、なんだっけ……?」
「ほら、一度診ていただいた……」
「ああ……、あの娘さんだな。そうか、それは良かった」
ノエルも我がことのようにうれしいという笑顔を浮かべた。
「それで、その話を聞いた私の友人が娘を連れてきたり、勤める屋敷の奥様だったり、本人だったりが、診て欲しいと言うことで来ておりまして……」
ノエルはマリラに連れられてリビングに行くと、そこには十数人の女性が集まっていた。
「はは、これは大勢いるな……」
「よろしいでしょうか……?」
ノエルはニコッと笑う。
「もちろんだ。わたしにできることはやってみるから」
評判が評判を呼び、ノエルを訪ねる女性が日に日に増えていった。
子供を欲しいという女性だけでなく、フローラが健康になったということから、子供から年寄りまで健康について不安を持っている人たちが屋敷に列をなすほどになっていった。
ある日、早めに帰宅したクラウスは人であふれた屋敷の光景に驚いた。
「なんだこりゃ……」
フローラが行列の整理をしている。
「みなさーん、並んで下さーい、一番後ろはここでーす!」
その時、クラウスは外から部屋に入ってきた一人の立派な身なりをした中年の男に気づいた。
「これは、マイヤー殿、内務大臣の貴殿が私の家にとは、どうされたのですか?」
「おお、クラウス。奥方はおるか?」
「ノエルですか?、奥方にはまだ早いのですが……」
クラウスは少し照れながら、不思議そうな顔をしつつ、マイヤーを診察が一段落していたノエルのところに連れて行った。
マイヤーはノエルを見るや駆け寄って、その手を両手で握った。
「あなたがノエル殿か。できたのじゃ、家内に子供が。もう、とっくに諦めていたのだが、できたんじゃ!、ノエル殿のおかげじゃ!」
「えーと……?」
ノエルはそれが誰かわからず、首をひねるがマリラが近寄って説明する。
「私の娘を診ていただいた後、メイド仲間の古い友人が連れてきて診ていただいたご婦人の、あの方のご主人です」
ノエルは合点がいったように、うなずいた。
「それは良かった、おめでとうございます。つわりがひどいようなら、また来て下さい。診てみますから」
「何か、望みはないか?、お礼にワシにできることなら、なんでもするぞ」
ノエルはクラウスを見るが、クラウスは特に無いというように首を横に振った。
ノエルは少し考えて言う。
「そうですね……、では、お子様が生まれたら、一番に教えて下さい。クラウスと二人でお祝いに行きますから」
「そんなことは、たやすいことじゃ!」
ニコニコしながら帰るマイヤーがクラウスに話しかけた。
「お前は、ホントに良い嫁をもらったのー」
クラウスの頬がポッと赤くなった。
クラウスとノエルはにこやかにマイヤーを見送るが、クラウスがごった返す人の群れを見て、ノエルに言う。
「これ、このまま続けるのか?」
「うむ……、どうしたものか……」
ノエルはフローラに案内してもらい、孤児院にやってきた。
「あたしは二年ぶりです。それまでは、時々、来てたんですよ」
「へー、なにしに?」
「院長先生に、お母様のことを聞くのがすきなんです」
門から庭に入ると、ノエルは友達と遊んでいるパメラに気づいて手を振った。
「パメラ!」
「あっ、ノエル!」
パメラはノエルに駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「院長に会いたいのだが」
パメラは二人を院長室に案内した。
部屋に入ると、フローラが院長に挨拶する。
「院長先生、お久しぶりです」
院長はフローラを見て、アッと息を飲んだ。
「まあ……」
フローラは不思議そうな顔をして院長を見る。
「フローラ、フィオナの……、お母さんの若い頃にそっくりよ」
院長はフローラの後ろに立つノエルに気づき、フローラがノエルを紹介する。
「院長先生、こちら、ノエルさん、兄のフィアンセです」
ノエルはまだフィアンセと紹介されるのに慣れていないように頬を染めて、ぺこりとお辞儀をした。
三人は、ソファーに座って話し始めた。
「フィオナは、五十年前ぐらいに、この孤児院の前に捨てられていたんです。ちょうど、勤め始めた私が門の前で見つけました」
院長は昔を懐かしむように語る。
「産着とかが立派で、どこか高貴な方のわけありの赤ちゃんなのかと、みんなで話したものです」
「二十歳を過ぎた頃でしょうか、領主のハイゼル様が見学に来られて、見そめられて……」
ノエルはフローラの方を見る。
「お父さんって、どんな人だったの?」
「そうですねえ……、兄に似て、あんまりしゃべらなくて、ぶっきらぼうな人でした」
「ああ……、無骨な武人、みたいな?」
院長がクスッと笑った。
「そうそう、そんな感じです」
「結婚ついては、身分が違うとかで、みんな、大反対でした。私もそうだったんですけど」
院長は昔を懐かしむように笑った。
「それでも、ハイゼル様は結婚されて、クラウスさんも生まれて、それはそれは幸せな家庭でした」
フローラはうつむき始めた。
「フローラを産むことも反対する人はいたのですが、なにがなんでも産む、と聞かれませんでした」
フローラは涙ぐみ始めた。
「フローラも、こんなに大きくなって、クラウスさんも結婚。フィオナも喜んでるわよ」
ノエルはフローラを見て言う。
「だから、強く生きるんだよ。お母様の命だ」
フローラはコクッと強くうなずいた。
院長は改めてノエルの方を向く。
「ノエルさん、それで、今日はどんなご用で?」
「うむ、相談なのだが」
ノエルは身を乗り出して、院長を見つめる。
「わたしと、商売をしてみないか?」
「えっ?、商売……ですか?」
「そう、商売だ」
ノエルはニヤッと笑った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?
不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ
ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。
賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!?
フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。
タイトル変えました。
旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~
※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。
あまりシリアスにするつもりもありません。
またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。
感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします。
想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。
※カクヨムさんでも連載はじめました。
スカートの中を覗きたい騎士団員達
白木 白亜
ファンタジー
超美人で噂の新米騎士、クレナ。
彼女が騎士団に入団すると決まったとき、騎士団には女性用の制服がなく、クレナ専用にわざわざデザインされた。
しかし、それは黒く、短くてしかも横にスリットの入ったタイトスカートで……
そんな中で、いろんな団員が偶然を装ったり連携したりして必死にパンチラを狙う下品な話。
※この物語はスライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話のスピンオフ的作品となります。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる