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第三部 最終章

第41話 平和な日々-客であふれるハイゼル家

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 里から帰り、のんびりとした日々を過ごしていたある日、マリラが大喜びの表情でノエルに駆け寄っていった。

「ノエル様、できました、できたんです、娘に子供が、私の孫が!」
 ノエルは意味がわからず、キョトンとした。

「ん?、なんだっけ……?」
「ほら、一度診ていただいた……」
「ああ……、あの娘さんだな。そうか、それは良かった」
 ノエルも我がことのようにうれしいという笑顔を浮かべた。

「それで、その話を聞いた私の友人が娘を連れてきたり、勤める屋敷の奥様だったり、本人だったりが、診て欲しいと言うことで来ておりまして……」

 ノエルはマリラに連れられてリビングに行くと、そこには十数人の女性が集まっていた。
「はは、これは大勢いるな……」
「よろしいでしょうか……?」
 ノエルはニコッと笑う。
「もちろんだ。わたしにできることはやってみるから」

 評判が評判を呼び、ノエルを訪ねる女性が日に日に増えていった。

 子供を欲しいという女性だけでなく、フローラが健康になったということから、子供から年寄りまで健康について不安を持っている人たちが屋敷に列をなすほどになっていった。
 

 ある日、早めに帰宅したクラウスは人であふれた屋敷の光景に驚いた。
「なんだこりゃ……」

 フローラが行列の整理をしている。
「みなさーん、並んで下さーい、一番後ろはここでーす!」

 その時、クラウスは外から部屋に入ってきた一人の立派な身なりをした中年の男に気づいた。
「これは、マイヤー殿、内務大臣の貴殿が私の家にとは、どうされたのですか?」
「おお、クラウス。奥方はおるか?」
「ノエルですか?、奥方にはまだ早いのですが……」

 クラウスは少し照れながら、不思議そうな顔をしつつ、マイヤーを診察が一段落していたノエルのところに連れて行った。

 マイヤーはノエルを見るや駆け寄って、その手を両手で握った。

「あなたがノエル殿か。できたのじゃ、家内に子供が。もう、とっくに諦めていたのだが、できたんじゃ!、ノエル殿のおかげじゃ!」
「えーと……?」

 ノエルはそれが誰かわからず、首をひねるがマリラが近寄って説明する。
「私の娘を診ていただいた後、メイド仲間の古い友人が連れてきて診ていただいたご婦人の、あの方のご主人です」

 ノエルは合点がいったように、うなずいた。

「それは良かった、おめでとうございます。つわりがひどいようなら、また来て下さい。診てみますから」
「何か、望みはないか?、お礼にワシにできることなら、なんでもするぞ」

 ノエルはクラウスを見るが、クラウスは特に無いというように首を横に振った。
 ノエルは少し考えて言う。
「そうですね……、では、お子様が生まれたら、一番に教えて下さい。クラウスと二人でお祝いに行きますから」
「そんなことは、たやすいことじゃ!」

 ニコニコしながら帰るマイヤーがクラウスに話しかけた。
「お前は、ホントに良い嫁をもらったのー」
 クラウスの頬がポッと赤くなった。

 クラウスとノエルはにこやかにマイヤーを見送るが、クラウスがごった返す人の群れを見て、ノエルに言う。
「これ、このまま続けるのか?」
「うむ……、どうしたものか……」


 ノエルはフローラに案内してもらい、孤児院にやってきた。
「あたしは二年ぶりです。それまでは、時々、来てたんですよ」
「へー、なにしに?」
「院長先生に、お母様のことを聞くのがすきなんです」

 門から庭に入ると、ノエルは友達と遊んでいるパメラに気づいて手を振った。

「パメラ!」
「あっ、ノエル!」
 パメラはノエルに駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「院長に会いたいのだが」

 パメラは二人を院長室に案内した。

 部屋に入ると、フローラが院長に挨拶する。
「院長先生、お久しぶりです」

 院長はフローラを見て、アッと息を飲んだ。
「まあ……」
 フローラは不思議そうな顔をして院長を見る。
「フローラ、フィオナの……、お母さんの若い頃にそっくりよ」

 院長はフローラの後ろに立つノエルに気づき、フローラがノエルを紹介する。
「院長先生、こちら、ノエルさん、兄のフィアンセです」
 ノエルはまだフィアンセと紹介されるのに慣れていないように頬を染めて、ぺこりとお辞儀をした。

 三人は、ソファーに座って話し始めた。

「フィオナは、五十年前ぐらいに、この孤児院の前に捨てられていたんです。ちょうど、勤め始めた私が門の前で見つけました」

 院長は昔を懐かしむように語る。

「産着とかが立派で、どこか高貴な方のわけありの赤ちゃんなのかと、みんなで話したものです」

「二十歳を過ぎた頃でしょうか、領主のハイゼル様が見学に来られて、見そめられて……」

 ノエルはフローラの方を見る。
「お父さんって、どんな人だったの?」
「そうですねえ……、兄に似て、あんまりしゃべらなくて、ぶっきらぼうな人でした」
「ああ……、無骨な武人、みたいな?」
 院長がクスッと笑った。
「そうそう、そんな感じです」

「結婚ついては、身分が違うとかで、みんな、大反対でした。私もそうだったんですけど」
 院長は昔を懐かしむように笑った。
「それでも、ハイゼル様は結婚されて、クラウスさんも生まれて、それはそれは幸せな家庭でした」
 フローラはうつむき始めた。

「フローラを産むことも反対する人はいたのですが、なにがなんでも産む、と聞かれませんでした」
 フローラは涙ぐみ始めた。
「フローラも、こんなに大きくなって、クラウスさんも結婚。フィオナも喜んでるわよ」

 ノエルはフローラを見て言う。
「だから、強く生きるんだよ。お母様の命だ」
 フローラはコクッと強くうなずいた。

 院長は改めてノエルの方を向く。
「ノエルさん、それで、今日はどんなご用で?」
「うむ、相談なのだが」

 ノエルは身を乗り出して、院長を見つめる。
「わたしと、商売をしてみないか?」
「えっ?、商売……ですか?」
「そう、商売だ」
 ノエルはニヤッと笑った。
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