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piece5 カレーパーティー
剛士の異変
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「すっげえ!」
洒落た白い皿に盛り付けられた手作りカレーに、拓真が目を輝かせる。
剛士も、嬉しそうに微笑んだ。
「うまそう」
「ふふ、お口に合うといいのですが」
サラダをテーブルの中央に置きながら、イタズラっぽく悠里も微笑んだ。
「いっただっきまー……うっま!!」
食前の挨拶もそこそこに、拓真が声を上げた。
「超うまい!すげえ、お店!?」
続いて剛士も、感心して頷く。
「……うん。これは毎日食べたい」
「わかる!!」
彩奈と拓真が、剛士の心からの呟きに声を揃えて賛同した。
「良かったあ。いっぱい食べてね!」
「やったあ! いっぱい食べるー!」
ホッとしたように微笑んだ悠里に対して、手を上げたのは彩奈だ。
ダイニングが笑い声に包まれた。
鍋いっぱいのカレーは、たくさんの幸せを運んだ。
「美味しかったー!」
「お腹いっぱい!」
しこたまカレーを食べ、満たされた空間のなか、4人で他愛のない話に興じる。
「……なんか、不思議だよね」
拓真が言った。
「オレたち、ほんの2カ月前までは、他人同士だったのにね?」
悠里も、まったく同じことを考えていた。
あの雨の日に、剛士とぶつからなければ。
あのストーカー事件がなければ。
悠里たちが、勇誠学園に押しかけなければ。
どの要素が欠けても、今はあり得なかった。
まるで、数年来の友人同士のように仲の良い4人。
悠里は 、隣の剛士をそっと見上げる。
目が合い、優しい微笑を交わす。
あれから、いつも傍にいてくれる剛士。
皆で帰るとき。椅子に座るとき。2人は自然と、いつでも隣同士だった。
こんな日々がこれからも、穏やかに続きますように。
皆と……剛士と、ずっと一緒にいられますように。
悠里はそっと願いをかけた。
彩奈と拓真が、対戦ゲームに興じている。
白熱したゲーム展開と舌戦に笑いながら、悠里と剛士は後ろで見守っていた。
ーーもう少ししたら、お茶でも淹れようかな。
「お皿を片付けてくるね」
悠里は、剛士だけにそっと声をかけ、席を立った。
すると、剛士も立ち上がり皿を手に取る。
「手伝うよ」
「そんな、大丈夫だよ」
慌てて止めようとする悠里に、剛士は微笑みかけた。
「すっげえ美味しかった。ごちそうさま」
心のこもった囁きに、胸がいっぱいになる。
悠里は彼を見上げ、微笑み返した。
「ゴウさんに食べてもらえて、嬉しい……ありがとう」
2人は照れ隠しに笑みを深めると、連れ立ってキッチンに向かった。
さあっと蛇口から流れる水の音。
「俺が洗うよ」
腕まくりをしながらの剛士の優しい申し出に、悠里は微笑んで応える。
「大丈夫!食洗機に入れる前に、予洗いするだけなの」
「そうか」
洗い流した皿を食洗機にセットする悠里に皿を渡しながら、剛士は感心したように呟く。
「手際いいな……さすが」
「ふふ、ありがと。うちはほら、両親が海外出張してることも多いから、自然と慣れちゃったの」
「……そうか」
彼女のストーカー被害のことが頭をよぎったのか。
剛士は小さく頷き、悠里の頭に触れた。
悠里の胸が柔らかく高鳴る。
「……あれからもう、怖いことはないか?」
剛士の声と、手の温もりが心地好い。
「……うん」
甘えてしまいたくて、悠里は少しだけ剛士の方に頭を傾げる。
応えるように彼の大きな手が、そっと髪を撫でてくれた。
「ゴウさん……ありがとう」
心配してくれて。助けてくれて。
そして今も、傍にいてくれて。
「……俺の方こそ」
優しい笑顔を浮かべ、剛士は悠里の目を覗きこんだ。
「悠里、あのさ。明日……」
その言葉を遮るように、剛士のスマートフォンが強く震えた。
途端に剛士の優しい笑顔は消え失せ、唇が硬く引き結ばれる。
彼の急激な変化に、悠里の胸にも緊張が走った。
剛士は、パンツのポケット越しにスマートフォンに触れた。
しかし、それを取り出して画面を見ようとはしなかった。
バイブレーションはすぐに止んだので、おそらく電話ではなく、メッセージの類いだったのだろうが――
「あ……スマホ、大丈夫?」
悠里は努めて軽い調子で、聞いてみる。
私のことは気にしないでね、という意味を込めて微笑む。
「……うん。いい」
剛士は彼女から目線を外し、ぎこちなく首を横に振った。
話すときに目を合わせないのは、彼には珍しいことだった。
いつも、透き通るような黒の瞳で、悠里を見つめて話してくれるのに――
言い知れぬ不安が忍び寄るのを感じた。
けれど悠里は、「そっか」と明るく微笑み、洗い物を再開する。
剛士が、触れられたくない、話せないと思っているのがわかるから、鈍感なふりをした。
意識して口角を上げ、悠里は鼻歌混じりに作業を進める。
そうして剛士に言った。
「洗い物すぐに終わるから、お茶淹れるね」
こう言えば、彼は自然にリビングに戻ることができるだろう。
もう一度、何も気にしていないというように、悠里は彼を見上げてにっこりと微笑んだ。
「……ん、わかった」
心なしか、ほっとした顔になっただろうか。
剛士は小さく笑い返すと、リビングに向かって歩き始めた。
離れていく背中。
悠里は、そっと見送る。
ついさっきまで、すぐ傍に感じていたはずの、彼の温もりを。
洒落た白い皿に盛り付けられた手作りカレーに、拓真が目を輝かせる。
剛士も、嬉しそうに微笑んだ。
「うまそう」
「ふふ、お口に合うといいのですが」
サラダをテーブルの中央に置きながら、イタズラっぽく悠里も微笑んだ。
「いっただっきまー……うっま!!」
食前の挨拶もそこそこに、拓真が声を上げた。
「超うまい!すげえ、お店!?」
続いて剛士も、感心して頷く。
「……うん。これは毎日食べたい」
「わかる!!」
彩奈と拓真が、剛士の心からの呟きに声を揃えて賛同した。
「良かったあ。いっぱい食べてね!」
「やったあ! いっぱい食べるー!」
ホッとしたように微笑んだ悠里に対して、手を上げたのは彩奈だ。
ダイニングが笑い声に包まれた。
鍋いっぱいのカレーは、たくさんの幸せを運んだ。
「美味しかったー!」
「お腹いっぱい!」
しこたまカレーを食べ、満たされた空間のなか、4人で他愛のない話に興じる。
「……なんか、不思議だよね」
拓真が言った。
「オレたち、ほんの2カ月前までは、他人同士だったのにね?」
悠里も、まったく同じことを考えていた。
あの雨の日に、剛士とぶつからなければ。
あのストーカー事件がなければ。
悠里たちが、勇誠学園に押しかけなければ。
どの要素が欠けても、今はあり得なかった。
まるで、数年来の友人同士のように仲の良い4人。
悠里は 、隣の剛士をそっと見上げる。
目が合い、優しい微笑を交わす。
あれから、いつも傍にいてくれる剛士。
皆で帰るとき。椅子に座るとき。2人は自然と、いつでも隣同士だった。
こんな日々がこれからも、穏やかに続きますように。
皆と……剛士と、ずっと一緒にいられますように。
悠里はそっと願いをかけた。
彩奈と拓真が、対戦ゲームに興じている。
白熱したゲーム展開と舌戦に笑いながら、悠里と剛士は後ろで見守っていた。
ーーもう少ししたら、お茶でも淹れようかな。
「お皿を片付けてくるね」
悠里は、剛士だけにそっと声をかけ、席を立った。
すると、剛士も立ち上がり皿を手に取る。
「手伝うよ」
「そんな、大丈夫だよ」
慌てて止めようとする悠里に、剛士は微笑みかけた。
「すっげえ美味しかった。ごちそうさま」
心のこもった囁きに、胸がいっぱいになる。
悠里は彼を見上げ、微笑み返した。
「ゴウさんに食べてもらえて、嬉しい……ありがとう」
2人は照れ隠しに笑みを深めると、連れ立ってキッチンに向かった。
さあっと蛇口から流れる水の音。
「俺が洗うよ」
腕まくりをしながらの剛士の優しい申し出に、悠里は微笑んで応える。
「大丈夫!食洗機に入れる前に、予洗いするだけなの」
「そうか」
洗い流した皿を食洗機にセットする悠里に皿を渡しながら、剛士は感心したように呟く。
「手際いいな……さすが」
「ふふ、ありがと。うちはほら、両親が海外出張してることも多いから、自然と慣れちゃったの」
「……そうか」
彼女のストーカー被害のことが頭をよぎったのか。
剛士は小さく頷き、悠里の頭に触れた。
悠里の胸が柔らかく高鳴る。
「……あれからもう、怖いことはないか?」
剛士の声と、手の温もりが心地好い。
「……うん」
甘えてしまいたくて、悠里は少しだけ剛士の方に頭を傾げる。
応えるように彼の大きな手が、そっと髪を撫でてくれた。
「ゴウさん……ありがとう」
心配してくれて。助けてくれて。
そして今も、傍にいてくれて。
「……俺の方こそ」
優しい笑顔を浮かべ、剛士は悠里の目を覗きこんだ。
「悠里、あのさ。明日……」
その言葉を遮るように、剛士のスマートフォンが強く震えた。
途端に剛士の優しい笑顔は消え失せ、唇が硬く引き結ばれる。
彼の急激な変化に、悠里の胸にも緊張が走った。
剛士は、パンツのポケット越しにスマートフォンに触れた。
しかし、それを取り出して画面を見ようとはしなかった。
バイブレーションはすぐに止んだので、おそらく電話ではなく、メッセージの類いだったのだろうが――
「あ……スマホ、大丈夫?」
悠里は努めて軽い調子で、聞いてみる。
私のことは気にしないでね、という意味を込めて微笑む。
「……うん。いい」
剛士は彼女から目線を外し、ぎこちなく首を横に振った。
話すときに目を合わせないのは、彼には珍しいことだった。
いつも、透き通るような黒の瞳で、悠里を見つめて話してくれるのに――
言い知れぬ不安が忍び寄るのを感じた。
けれど悠里は、「そっか」と明るく微笑み、洗い物を再開する。
剛士が、触れられたくない、話せないと思っているのがわかるから、鈍感なふりをした。
意識して口角を上げ、悠里は鼻歌混じりに作業を進める。
そうして剛士に言った。
「洗い物すぐに終わるから、お茶淹れるね」
こう言えば、彼は自然にリビングに戻ることができるだろう。
もう一度、何も気にしていないというように、悠里は彼を見上げてにっこりと微笑んだ。
「……ん、わかった」
心なしか、ほっとした顔になっただろうか。
剛士は小さく笑い返すと、リビングに向かって歩き始めた。
離れていく背中。
悠里は、そっと見送る。
ついさっきまで、すぐ傍に感じていたはずの、彼の温もりを。
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