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piece8 ずっと話したかった

お似合い

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「というかね。初めてカラオケボックスで会ったときね、剛士と並んでる悠里ちゃんを見て、すごいお似合いだなあって思ったんだよ。正直、嫉妬しちゃった!」
「そ、そんな」
悠里は真っ赤になり、慌てて答えた。
「私こそ、そう思いました……」


ズキリ、と胸が痛む。
悠里の胸をよぎったのは、カンナから渡されたフォトブックに収められた2人だ。

バスケ部のジャージ。
寄り添って、しっかりと手を繋いで、微笑む剛士とエリカ。
鮮烈に目に焼き付いた、幸せな2人の姿――


「エリカさんと、ゴウさんが並んでいる姿は、とても、お似合いでした……」
悠里は無意識のうちに、唇を噛んでいた。

エリカが笑い混じりに答えた。
「え? 悠里ちゃんは、私と剛士が並んでるとこなんて、見たことないでしょ?」
「あ……」

フォトブックのことを、話すわけにはいかない。
自分たちの写真が、悠里への嫌がらせに使われたなどと知れば、エリカも剛士も、とても悲しむだろう。


悠里は、微苦笑を浮かべて答えた。
「あ、あの。いろいろ、想像しちゃって……同じバスケ部だし、きっと、すごくお似合いだったんだろうなって……」

「あはは、悠里ちゃんて、想像力豊かな人なんだね」
過去の写真を悠里が目にしたとは、露ほども思わなかっただろう。
エリカは軽く笑い、受け流してくれた。

そうして彼女は、柔らかな声音で応えた。
「まあでも、バスケ部かどうかは、関係ないんじゃない?」
「え?」


エリカの優しい笑顔とは対照的な、カンナの蔑むような目つきがよぎり、悠里の胸は凍りつく。
悠里は、小さな声でエリカに問いかけた。
「で、でも、バスケ部同士なら、わかり合えることも沢山あるのでは……」
「んーどうだろ?」
笑いながら、エリカは首を傾げた。

「そういうこともあるかも知れないけど。少なくとも私と剛士は、2人でいるときに、バスケの話はしなかったよ?」
「そうなんですか?」
悠里は大きな目を丸くして、エリカを見つめた。

その驚きようが可笑しかったのか、エリカは笑い出す。
「彼氏彼女なら、むしろ他の話をしたいでしょ。部活の話なら、普通に部員とするよ」
「そ、そうですか……」
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