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piece6 密室の恐怖

勇誠の生徒

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「じゃあ次は、ツーショットね?」
両脇に座っていた男子が、交互に悠里の肩を抱き、写真に収まる。

次は勇誠学園の2人の方に行けと言われ、悠里は機械的に応じる。
勇誠学園の生徒たちは、無理に悠里に触れようとはせず、ただ一緒に写真を撮っただけだった。


「悠里ちゃーん、戻っておいでー?」
共学校の男子2人が、自分たちの間のスペースを叩き、悠里を呼んだ。
悠里は首を横に振り、勇誠学園の男子の間に留まる。

「おーい!ズルいってー!」
不満げに共学の男子が声を上げる。
悠里はもう一度かぶりを振り、そっと勇誠学園の1人の袖を握った。

こちらの2人の方が安全だ。
本能的に判断していた。

悠里は助けを求め、勇誠学園の生徒たちを見つめる。
カンナが写真を撮っているのがわかったが、今の悠里に、それを気にする余裕はなかった。

「いやいや、ズルいのはお前らの方だって」
悠里に袖を握られた生徒が、冗談めかして答える。
「さっきまでずっと悠里ちゃんを囲んでただろーが」
「そうそう。次はオレたちの番な!」

そう言いながらも、彼らは悠里に触れてはこない。
場の雰囲気を壊さずに、何とか悠里を庇おうとする気遣いが感じられた。


共学校側の男子は、軽く舌打ちして悪態をつく。
「お前ら、勇誠行ってからノリ悪くなったよなー」
「中学ん頃は、一緒にバカやった仲じゃねーかよ」
「ちげーよ、紳士になったって言え」

悠里を隠すように、勇誠の男子が身を乗り出して答える。
「男子たるもの、勇ましく誠実であれ!ってのが、勇誠なわけ」
校名の由来を持ち出し、彼は微笑んだ。

「はっ、ダッセェ!」
共学の男子は悪態をついたが、いったん悠里の奪還を諦めたようだ。

「もういいよ。じゃあ10分経ったら、悠里ちゃんコッチに寄越せよ」
「モノじゃねえんだから、そんな言い方すんなって」
「うるせえ、悠里ちゃんに触れもしねえヘタレがよ。やっぱ男子校行くと、女子に耐性なくなってダメだよなあ」
「紳士って言えってば」

険悪な物言いをする共学の男子とは対照的に、勇誠側は一貫して穏やかな声音で話すため、言い争いの空気にはならなかった。


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