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piece1 花のような笑顔
明るい兆し
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剛士が、誕生日にくれた言葉を思い返す。
『もう少しだけ、俺のこと、待っててくれる?』
『あまり、待たせないようにする』
その通りに、彼は動いてくれているのだと感じた。
まだ剛士は何も言わないし、悠里からも何も聞いてはいない。
けれど、今日感じたエリカからの優しい空気は、2人の話し合いが良い方向に進んでいる兆しに感じられた。
悠里はもう一度、エリカの華やかな微笑を思い出す。
彼女との突然の再会を、ひとつひとつ思い返す。
バサバサと宙に舞った書類。
思わず飛び出してしまった自分。
悠里を庇うために身体を捩って、思い切り転んでしまったエリカ。
助けに行ったつもりが、逆に守られてしまった。
邪魔をしてしまったなあと、悠里は苦笑する。
『……ごめん。嫌だよね、私に名前で呼ばれるの』
その言葉から伝わってきた、悠里への配慮。
書類整理を手伝っているときも、しきりに悠里を気遣う言葉を投げかけた。
本来なら、悠里が踏み込むべき場所ではない、バスケ部に関することも。
エリカは率直に、気持ちを答えてくれた。
辛い顔をしても、おかしくない状況だったと思う。
書類を押しつけられる様子は、彼女への風当たりの強さを物語っていた。
バスケ部におけるエリカは、苦しい立場だ。
その様子を悠里に見られたことも、彼女にとっては、決して嬉しいことではなかっただろう。
けれどエリカは、明るい声と微笑みを崩さなかった。
それは、場に居合わせてしまった悠里に、気を遣わせないための配慮でもあったし、バスケ部に対する贖罪の気持ちの表れだった。
エリカの明るい声、華やかな微笑、気配りは、悠里の心を惹きつけてやまなかった。
素敵な人だったなあと、悠里は思い返す。
少しだけ、胸が痛い。
と同時に、嬉しくもあった。
――ゴウさんが、好きになった人だもん。
素敵な人に決まってるよね……
嫉妬の熱が、チリチリと胸の端を焼く痛みも、確かに感じる。
けれど等身大、大輪の華が咲くような、笑顔のエリカを知ることができた。
剛士の元恋人は、素敵な人だった。
それを嬉しく思う気持ちもまた、悠里の中で本当だった。
『もう少しだけ、俺のこと、待っててくれる?』
『あまり、待たせないようにする』
その通りに、彼は動いてくれているのだと感じた。
まだ剛士は何も言わないし、悠里からも何も聞いてはいない。
けれど、今日感じたエリカからの優しい空気は、2人の話し合いが良い方向に進んでいる兆しに感じられた。
悠里はもう一度、エリカの華やかな微笑を思い出す。
彼女との突然の再会を、ひとつひとつ思い返す。
バサバサと宙に舞った書類。
思わず飛び出してしまった自分。
悠里を庇うために身体を捩って、思い切り転んでしまったエリカ。
助けに行ったつもりが、逆に守られてしまった。
邪魔をしてしまったなあと、悠里は苦笑する。
『……ごめん。嫌だよね、私に名前で呼ばれるの』
その言葉から伝わってきた、悠里への配慮。
書類整理を手伝っているときも、しきりに悠里を気遣う言葉を投げかけた。
本来なら、悠里が踏み込むべき場所ではない、バスケ部に関することも。
エリカは率直に、気持ちを答えてくれた。
辛い顔をしても、おかしくない状況だったと思う。
書類を押しつけられる様子は、彼女への風当たりの強さを物語っていた。
バスケ部におけるエリカは、苦しい立場だ。
その様子を悠里に見られたことも、彼女にとっては、決して嬉しいことではなかっただろう。
けれどエリカは、明るい声と微笑みを崩さなかった。
それは、場に居合わせてしまった悠里に、気を遣わせないための配慮でもあったし、バスケ部に対する贖罪の気持ちの表れだった。
エリカの明るい声、華やかな微笑、気配りは、悠里の心を惹きつけてやまなかった。
素敵な人だったなあと、悠里は思い返す。
少しだけ、胸が痛い。
と同時に、嬉しくもあった。
――ゴウさんが、好きになった人だもん。
素敵な人に決まってるよね……
嫉妬の熱が、チリチリと胸の端を焼く痛みも、確かに感じる。
けれど等身大、大輪の華が咲くような、笑顔のエリカを知ることができた。
剛士の元恋人は、素敵な人だった。
それを嬉しく思う気持ちもまた、悠里の中で本当だった。
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