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piece5 がんばろうよ

剛士の言葉

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「……今日、部室の俺のロッカーに入れられてた」

剛士が自分を、真っ直ぐに見つめているのがわかった。
悠里は、膝に置いた手を一層強く握り締め、何とか心の震えを抑え込む。

「悠里。これは、いつの写真?」
静かに問いかける声が耳に届くが、頭にうまく入ってこない。
剛士の声からは、何の感情も読み取れない。
いや、読み取るのが、怖かった。


悠里の頭の中を、ぐるぐると声が駆け巡る。

『随分と親しげで、楽しそうに笑っておられますね』
『この写真の貴女からは、随分と乱れた、ふしだらな印象を受けます』

写真を見た生活指導教諭は、厳しい声で言った。


そんなふうに見える写真なのだ。
男子生徒に囲まれ、肩を抱かれ、髪に触れられ、笑っている自分は。

剛士の目にもきっと、そう映っただろう――


恐怖に近い、冷たい汗が、悠里の背を伝う。

この写真に対して、自分は、何を釈明できるだろう。
何を言っても、きっと言い訳にしか聞こえない。
浮気。いや、もっと、酷いものだ。
そう見える写真を、自分は撮られてしまっていたのだ……


『ビッチの悠里ちゃん』

自分を嘲る冷たい笑い声が、頭の中で鮮明に蘇った。

悠里と剛士を、引き裂く。
カンナは、この写真を使って、目的を果たしたというわけだ――


「悠里」
剛士が、自分を呼んだ。
胸が、痛みに竦む。

怒られる?
罵られる?
呆れられる?

次に耳に届く剛士の言葉が、怖かった。


向かいに座っていた剛士が、静かに立ち上がった。
ズキリと、胸が痛んだ。

――帰ってしまう?
怒ってすら、くれない?
このまま、突き放されてしまう……?

怖い。怖い。
悠里は、固く目を閉じる。
震えが止まらず、彼女は背を丸めてしまった。


冷たい背にそっと、大きな手が触れた。
ビクッと悠里は身体を強張らせる。

「悠里……」
温かい手が、ぎゅっと、悠里の震えた両手を包み込んだ。
「怖かったよな」

「……え?」
恐る恐る目を開けると、傍に屈んで彼女の顔を見つめる、優しい切れ長の瞳があった。

悠里と視線が合うと、彼の目が悲しげに揺れる。
「ごめん……ごめんな。俺、お前がこんな目に遭ってたこと、気付いてあげられなくて」
悠里の手を握る剛士の手に、更に力が込もる。
「ごめん……」


覚悟した言葉とは、まったく違う。
剛士の優しい目と声、そして手の温もり。
凍えていた悠里の心が、動き出す。

「どう、して……」
「……ん?」
悠里の掠れた声に寄り添うように、剛士は優しく続きを促す。

悠里は、怯えた目で、剛士を見た。
「私……笑ってるのに……」
「笑ってないよ」
剛士が、淀みのない声で言う。
「無理して口だけ笑ってるけど、泣きそうな目で、カメラを見てる……明らかに脅されてるだろ」

彼の言葉を聞き、ぼろっと、悠里の片目から涙が零れ落ちた。

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