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piece4 新たな綻び

交差点で待ってる

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ヒリヒリとした沈黙が、2人の間を漂う。
身体が、心が、痛みに震えた。


わかっている。
彩奈は、自分を心から心配してくれている。
でも。

カンナに撮られた、あの大量の写真。

言いたくない。知られたくない。
あれを、剛士に相談する勇気は、悠里にはない……


わかっている。
彩奈は、何も悪くない。
自分は彼女に、八つ当たりをしてしまった――

痛烈な悔恨に全身を貫かれ、悠里は目の前にいる親友の顔を、見ることができなかった。


息詰まる苦しい空気を、先に動かしたのは、彩奈だった。

「……ごめん。悠里を待たずに、私から連絡したのは、悪かった」
震える唇を噛み締めたままの悠里に向かい、彩奈は静かな声で言った。

悠里は目を伏せ、小さく首を横に振る。
「私こそ……ごめんなさい……」


そのとき、悠里の鞄に入っていたスマートフォンが振動した。
ぎくしゃくと、歪に軋んだ空気の流れ。
それがようやく断ち切られたような気がして、2人は思わず息を吐く。

ごめんね、と悠里はひと声かけて、スマートフォンを取り出した。
震えて光る画面は、剛士からの着信を告げていた。

「ゴウさんからだ……」
「あ……きっと私が、連絡したからだね」
すまなそうな声で、彩奈が答える。

悠里はもう一度、首を横に振ってみせた。
「出てみるね」
そう言って、悠里は応答した。


『悠里。……大丈夫か?』
「う、うん。あの……ごめんなさい。大丈夫、だから……」

彩奈からの連絡を受けて、心配して掛けてきてくれたのだと思った。
悠里は、しどろもどろに弁解をしようとする。
しかしそれを遮るように、剛士が言った。
『いまから、みんなで集まろう』
「え……?」

悠里は、教室の時計を見上げる。
時刻はまだ、17時前だ。
「ゴウさん……でも、部活は……」
『いいから』

硬い声音だった。
『交差点で待ってる』


いつもの剛士とは、違う。
悠里に話す余地を与えない、話の運び方。
ゾクゾクと、心に不安が這い上ってくる。

「……はい」
悠里は、短く返事をするのが精一杯だった。


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