#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

piece4 新たな綻び

きっと自分は、間違っている

悠里は涙に詰まりながらも、小さな声で答えた。
「はい……すみませんでした」

担任の皆川が、そっと悠里の背に手を当て、生活指導教諭に訴える。

「先生。確かにこのような写真を撮らせてしまったことは、良くないことでした。しかし橘さんも反省していることですし、今後このようなことがないように、指導致しますから……」

理由を話せない自分を、必死になって庇ってくれる皆川。
彼女の手の温もりを背に感じていると、ますます涙が堪えられなくなった。


きっと自分は、間違っていると思う。
もっと上手なやり方があったと思う。
自分は悪戯に、周りの人々に心配させ、迷惑をかけている……


自責の念が、悠里の心を押し潰す。
悠里は溢れる涙を、必死に拭った。

教諭は嘆息をつき、悠里に語りかけた。
「もうこのような軽率な行動はしないと。このような交友関係は断ち切ると。この場で、誓っていただけますね？」

「はい……本当に、すみませんでした……」
悠里は涙に掠れた声で答え、深々と頭を下げた。


生活指導室を辞した後、皆川は担任と共に廊下を歩いていた。
外はだんだんと、暗闇に染まりつつあった。
指導室には、３０分程度しかいなかったとは思うが――
悠里は気持ちを立て直すために、小さな息を吐き出す。

「……大丈夫？ 橘さん」
皆川が、気遣うように声をかけてくれる。
極度の緊張から解放され、ようやく悠里の涙は止まった。
悠里は泣き腫らした真っ赤な目を上げ、無理やりに微笑んだ。
「はい……先生、ごめんなさい……」

「……あの写真に関わる人たちとは、自分で、縁を切れる？」
皆川は、真摯な瞳で悠里を見つめる。
「もし難しかったら、先生が、間に入るわよ」
何とか悠里に寄り添おうとする、本当に優しい声だった。

「……ありがとうございます」
悠里は彼女を見上げ、答えた。
「大丈夫です。あの会を開いた方とは、もともと連絡先も交換していないんです。それに、もう卒業されたので、お会いすることもないと思います」

「……そうなの」
皆川は、少し驚いたように目を丸くした。
「もしかして、会を開いた人というのは……うちの、卒業生？」
「あ……」

優しい担任の前で、気が抜けてしまっていた。
口を滑らせた悠里は、思わずバツの悪そうな顔をする。
そんな彼女の表情を見て、皆川は、ふっと笑みを零した。