上 下
29 / 68
piece3 初めまして!

大成功

しおりを挟む
「今日はお時間をいただいて、本当にありがとうございました」
剛士、そして拓真が、玄関で頭を下げる。

「こちらこそ、来てくれてありがとう」
「また、いつでも遊びにいらっしゃいね」
父と母が、ニコニコと答えた。

悠人も両親の後ろから、必死に声を掛けてくる。
「柴崎さん、ありがとうございました!またお願いします!」
剛士だけしか見ていないことを、もはや隠す気もないようだ。

「おう。またな」
剛士が、ふっと笑い、弟に向かって軽く手を振った。

友人たちに続き、悠里も靴を履く。
「私、みんなを駅まで送ってくるね!」
「ふふ、いってらっしゃい」
母が微笑んで頷いてくれる。

両親の笑顔に手を振り、悠里は外に出て玄関を閉めた。


悠里と剛士、そして彩奈と拓真、4人で顔を見合わせ、思わず笑ってしまう。
今日の両親への紹介は、まさしく大成功だ。

「みんな、本当にありがとう」
湧き上がる感謝を胸に抱え、悠里は3人の顔を見た。
「俺たちの方こそ、ありがとな」
剛士の大きな手が、柔らかく悠里の頭を撫でてくれる。


駅までの道すがら、待ちかねていたように2人は手を繋ぐ。
剛士の暖かくて大きな手が心地よくて、悠里は、きゅっと力を込めた。
剛士の長い指が、応えるように悠里を包み込んでくれる。

「それにしても、2人が制服だったから、ビックリしたよ」
悠里は微笑んで、剛士を見上げた。
「はは、ごめんな。驚かせて」
剛士は笑いながら、悠里の頭を撫でる。

「昔からある校則でな。今は廃れてはいるんだけど、」
優しい切れ長の瞳が、真っ直ぐに悠里に笑いかけた。
「ちゃんとして、悠里のご両親に、本気な気持ちを見て貰えたらと思ったんだ」
「ゴウさん……」

剛士が拓真とも顔を見合わせ、悪戯っぽく付け加える。
「本当は、制服着て生徒手帳を見せて挨拶する、っていうのが正式なんだけど。さすがにそこまでやると、パフォーマンスじみてるかなと思って、やめた」
「ふふっ」

悠里は思わず吹き出したが、改めて感謝の気持ちを伝える。
「ゴウさん、拓真さん。本当にありがとう。お土産の、紅茶とチョコも」

「いいってことよ!」
拓真が片目を瞑り、親指を立ててみせる。
「一緒に買い物行ったんだけどさ。ゴウが、すっごい熱心に店員さんにリサーチしたんだよ」
「余計なこと言うな」
剛士が腕を伸ばし、拓真の頭を小突いた。

それを見た彩奈が、手を叩いて笑い出す。
「いやーでもホント、シバさんの本気、めちゃめちゃ伝わってきたよ!」
「……まあ、そりゃあな」
剛士が照れ笑いを浮かべ、悠里と繋いだ手に力を込めた。

「悠里のご両親には、気に入られたいから」
頬を赤らめる悠里を見つめ、剛士が、ふわりと優しく微笑んだ。
「緊張した」

「ゴ、ゴウさん……」
ますます色づいてしまう悠里の代わりに、彩奈が満足げに答える。

「もう、バッチリでしたよシバさん! パパさんもママさんも、シバさんと拓真くんのこと、いい子だって褒めてたし!悠里の彼はシバさんだって、しっかり認識してたし!」
「あ、彩奈!」

たまらず悠里は、親友の口を塞ごうとした。
しかし彩奈は、ひらりと悠里の恥じらいをかわし、剛士に笑いかける。

「私も、嬉しいです! シバさんが、悠里のこと大切にしてくれて。ホントに、ありがとうございます」
彩奈の言葉は、皆の顔に笑みを呼び込んだ。
暖かな空気が、4人を包み込む。

剛士が、優しい微笑で応えた。
「俺の方こそ、ありがとな。彩奈と拓真がいてくれて、すげえ助かったよ」
悠里も頷き、親友たちに頭を下げた。
「うん、本当に……ありがとう」

彩奈と拓真が顔を見合わせて、笑う。
「私たちにできることなら、何でもするって!」
「そうだよ! 大船に乗ったつもりで!」


4人一緒に、笑い出す。
楽しかった。幸せだった。
悠里の心に影を落とした密告メールの不安は、すっかりと消え失せた。

剛士としっかり手を繋ぎ、微笑み合う。
この先に何があっても、剛士と、彩奈と拓真と一緒に、乗り越えられる。
そう思えた。

駅に着き、別れの挨拶をする。
悠里は晴れ晴れとした気持ちで、皆を見送ったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

window
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

今夜妻が隣の男とヤるらしい

ヘロディア
恋愛
妻の浮気を確信した主人公。 今夜、なんと隣の家の男性と妻がヤるというので、妻を尾行する。 ひたすら喘ぎ声を聞いた後、ふらふらと出てきた妻に問い詰めるが…

殿下!婚姻を無かった事にして下さい

ねむ太朗
恋愛
ミレリアが第一王子クロヴィスと結婚をして半年が経った。 最後に会ったのは二月前。今だに白い結婚のまま。 とうとうミレリアは婚姻の無効が成立するように奮闘することにした。 しかし、婚姻の無効が成立してから真実が明らかになり、ミレリアは後悔するのだった。

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...