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piece3 初めまして!

部活紹介動画

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「何?姉ちゃん観たことねえの? ウソでしょ?」
仕方ねえなあ、と悠人はスマートフォンを取り出す。

弟への怒りは後回しにし、悠里は思わず前のめりになって画面を見つめる。
興味津々といった体で、母も一緒に覗き込んできた。


悠人は、皆が見えやすい位置でスマートフォンを持ち、ボリュームを上げていく。
「はい。じゃあ行くよ?」

部活紹介にあるバスケットボール部の文字をタップすると、すぐに動画が始まる。

アップテンポな曲が流れ、逆光の中、バスケットボールのゴールが映し出された。
不意に、人影が飛び込んでくる。
バンッという豪快な音を立て、人影がダンクシュートを決めた。

「わあ」
思わず悠里は声を上げる。
大迫力の幕開けに、一気に引き摺り込まれた。

キュッ、キュッというバッシュと床の擦れる音と、ボールの弾む音。
鋭いパス回しが始まり、手元がクローズアップされていく。

ボールが、1人の選手の手に渡った。
カメラが引き、その選手の顔が映る。

剛士だ。
ハッと悠里は熱い息を飲む。

切れ長の鋭い瞳が、ボールからゴールへと移動した。
流れるような動きで、彼の腕が上がる。

カメラが切り替わり、シュートを放った剛士の後ろ姿越しに、美しい弧を描くボールと、ゴールが観えた。

ゴールネットのアップ。
パサッという滑らかな音。
ゴールに吸い込まれていくボール。
大歓声。

ダダダダダッ、という効果音が走り、画面にレギュラー選手らしき5人の顔写真が、順番に並んでいく。
中央は、剛士だ。

シュッと5人の写真が消え、部員全員で円陣を組んだ背中が、上からのカメラ映像で流される。
「おお!」という円陣からの雄叫びと共に「勇誠学園 籠球部」の文字が浮かび上がった。


「まあ、素敵」
パチパチと、母が小さく手を叩いた。

「映像が速くて、お顔はよく見えなかったけれど、シュートをしていたのが、柴崎くん?」
「そう! あと最後の5人の写真で、真ん中にいたよ!」
カッコいいっしょ?と、何故か悠人が誇らしげに胸を張っている。


ものの1分程度の動画だった。
けれど、ドキドキが収まらない。
悠里は、きゅっと胸を押さえる。

――かっこいい……

もう1回観たい――何度でも。
そう思わずにはいられなかった。


「ちょっと姉ちゃん? 柴崎さんがカッコいいからって、呆けないでよ」
ニヤニヤと、悠人が小突いてくる。
「な、何よ」
慌てて悠里は弟を押し返す。

「姉ちゃん、ありがとうは?」
「え?」
「柴崎さんの動画! 教えてくれてありがとう、は?」
「も、もう。うるさいなあ」
ペチン、と悠人のおでこを叩き、悠里は立ち上がった。

「お母さん、私お風呂入るね!」
これ以上、揶揄われてはたまらない。
悠里は慌ただしく席をたった。
「はーい、ゆっくりね」
母は、ニコニコと手を振ってきた。

「あ、」
悠里は、パッと顔を赤らめる。
「じゃあ……土曜日、よろしくね」
「ええ。楽しみにしてる!」
母の軽やかな声が、心地よく耳に届いた。

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