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piece3 初めまして!

母と紅茶

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帰宅した母は、いつにも増してニコニコ笑っていた。
理由は、わかる。
気恥ずかしくはあるが、母が喜んでいること自体は、嬉しい。
悠里は紅茶を淹れ、テーブルを挟んで母と向き合っていた。

「ありがとうね、悠里」
「うん。お母さん、お疲れさま」
母が帰宅した後、こうして向かい合ってお茶を飲むのは、日課のようなものだ。
2人はゆっくりと、紅茶の香りと温もりを楽しみながら、お喋りをした。

学校のこと、仕事の話、今後の家族の予定など。
時に笑いを挟んで、穏やかに会話は流れていく。

母が、そうそう、と手を打った。
「土曜日の件、お父さんにも話しておいたからね」
「あ、ありがとう……」

仕事が忙しいのだろう、父はまだ帰宅していない。
悠里は、上目遣いに母に問いかける。
「……お父さん、何か言ってた?」

母は、楽しげに思い出し笑いをする。
「悠里も緊張してると思うけれど、お父さんの方が、緊張してるかも」
「えっ? どうして?」
「だって、悠里のボーイフレンドにお会いするんだもの」
「お、お母さん!」

悠里の頬が、瞬時に色づく。
「友だち!友だちだから!」
「えぇ?」
母が、コロコロと笑い出す。
「でも、ただのお友だち、ではないんでしょう?」

うまい言い逃れが思いつかない。
悠里は、真っ赤になった顔をパタパタと両手で仰ぐ。
そんな娘を見て、母は手を伸ばし、その頭を撫でる。
「ふふ、いいこと、いいこと」
「お、お母さん……」

母は、にっこり微笑んで、真っ赤に染まった娘を見つめた。
「だって最近の悠里が、とっても楽しそうで、嬉しそうだから。きっと、素敵な男の子なんだろうなって」


「ああ~もうねぇ、柴崎さんはカッコいいからマジで!」
ふいに悠里の後ろから、自慢げな声が聞こえる。

「悠人!」
振り返れば、弟が笑みを浮かべて立っていた。
どうやって聞きつけてくるのか、剛士の話題となると耳ざとい。

母が、悠里の隣りの椅子を弟に示し、にっこり微笑んだ。
「柴崎くんって言うの? 悠人はもう、お会いしているのね」

「お会いしてるも何も、もう3ポイントを教えて貰った仲だもんね!」
喜々として姉の隣りに腰を下ろし、悠人が言った。

「まあ。柴崎くん、バスケ部なの」
真っ赤になって口をパクパクさせている悠里をよそに、母と弟は楽しげに会話を進めていく。

「そ!この辺の学校では1番の強豪、勇誠学園バスケ部のキャプテンだよ」
「そうなの? すごいわね」
「マジですごいよ。バスケはもちろん、勉強もできるし!優しいし!カッコいいし!」
「ふふっ。憧れの人なのね?」
悠人の熱量を見て、母は微笑ましげに頷いた。

「マジで、柴崎さんと仲良くなってくれたことは、姉ちゃんに感謝してる!」
バシバシと肩を叩かれ、悠里は不機嫌な顔をする。
「もう、うるさいな。悠人、喋りすぎ!」

母の前で、あまり剛士のことをペラペラと話さないで欲しい。
段階というものがあるでしょうと、悠里は恨みがましい目で弟を睨む。
姉からのプレッシャーを涼しい顔で流し、悠人は母に言った。

「勇誠のホームページにある部活紹介動画に、柴崎さん映ってるよ? 観る?」
「えっ?」
それは悠里も知らなかった。
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