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piece1 密告

エリカの努力を

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2人は、教室の前にたどり着く。
「……橘さん」
皆川は、悠里の肩にそっと手を置き、囁いた。
「何かあったら、いつでも先生に相談して」

少しでも悠里の心に寄り添い、安心させようとしてくれているのが伝わってくる。
悠里は、担任の優しい笑顔を見上げ、微笑んだ。
「ありがとうございます、先生」

皆川は、ひとつ大きく頷き、ふっと窓の外を見た。
外はもう、宵闇に飲み込まれていた。
「遅くなっちゃったわね。気をつけて帰ってね」
「はい!さようなら」
悠里は頭を下げて、職員室へと戻っていく彼女を見送った。


皆川の背中が、廊下の角を曲がった。
その瞬間、涙がぼろりと悠里の頬を伝った。

『何かあったら、いつでも先生に相談して』
今聞いたばかりの担任の言葉が、頭に響き渡る。

つまり皆川の目から見ても、これで終わったとは思えない。
次なる問題が起こるかも知れないと感じている、ということだ。

詳しくは教えて貰えなかった、メールの内容。
きっと、2人の教師が悠里に話すのを憚るほどのことが、書かれていたのだろう――

悠里は、ゴシゴシと乱暴に両目を擦る。


真っ先に思い浮かんだのは、自分を憎しみを込めた目で睨みつける、あの涼やかな瞳。
卒業式の前日である先週の木曜日、部活棟で会ったエリカの背後から、怒りに燃える目で悠里を見た彼女だ。

メールの送り主は、やはり、カンナだろうか――


金曜日の夜。
それならばメールが送られたのは、卒業式を終えた後。
つまり、エリカがカンナを説得してくれた後、ということになってしまう……


悠里は自分の疑念を否定するように、小さくかぶりを振る。

卒業式の後、靴箱に入っていたエリカの手紙と、可愛らしい桜のブックマーカーが脳裏をよぎった。

『もう心配いらないからね』

エリカは、そう書いてくれた。
悠里を労る、優しい気持ちの詰まった、プレゼント。

悠里はもう一度、首を横に振る。
今回のメールをカンナの仕業だと疑うのは、エリカの努力を無碍にするのと同じだ。

そうであって欲しくない――

悠里は祈るように、ぎゅっと目を閉じた。

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