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piece4 楽しい遊園地

髪を触るのが好き

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「彩奈はこれまで、風景の他にはどんな写真を撮ってたんだ?」
剛士の問いかけに、彩奈が楽しそうに考えを巡らせている。

「ウチの写真部は、デザイン部……洋服作ってファッションショーをやる部ですね。とコラボすることが多いんで、モデルの女の子の写真や、ショーの写真が多いですねえ」

そこで、彩奈が悠里に目を向けた。
「学祭のときは、悠里にもお手伝いして貰ったよね!」

「えっそうなの? あの、袴着てた写真はオレたちも見たけど、それ以外だよね?」
悠里たちのクラスで企画した、大正浪漫喫茶店のときに撮られた写真を挙げつつ、拓真が問いかけてきた。


「あっはは!悠里が有名になっちゃったヤツかあ。まあ誰が撮ったかは知らないけど、私の方が悠里を可愛く撮る自信はあるよね!」

ストーカー事件のきっかけになってしまった、件の写真のことを、あえて彩奈は笑い飛ばす。
彼女がそうしてくれたことで、悠里も嫌な思い出に負けず笑うことができた。


「デザイン部の学祭用ブックレットを作るときにね、悠里に何点かモデルやって貰ったのよ」
「ああ~、懐かしい……けど、ちょっと恥ずかしいな……」
当時を思い出し、悠里が微苦笑を浮かべる。

デザイン部の作る衣装はどれも綺麗で、見る分にはとても美しい。
しかし、生地にオーガンジー素材が多用されていたり、スカートに大きなスリットが入っていたりと、露出が高いのだ。

正式なデザイン部員ではなく、モデルに造詣の深いわけでもない悠里には、恥ずかしさが勝る。
正直、彩奈からの頼みでなければ着なかった衣装だった。

もちろん、本格的にヘアメイクもされ撮られた写真はとても綺麗で、嬉しかった思い出ではあるが。


「へえ、見てみたかったなあ。ね、ゴウ?」
女子2人の言葉に笑いながら、拓真が剛士を見た。

「い、いえ!あれはちょっと、ダメです」
慌てて悠里が首を左右に振る。
「ええ~?めちゃくちゃ可愛いのにー」
「衣装もメイクも写真も、とても綺麗! でも恥ずかしいから、ダメ」
「んー、残念!」


それまで悠里と彩奈のやり取りを穏やかに見つめていた剛士が、ふっと笑みを浮かべた。
「彩奈が撮った悠里の写真、また見てみたいな」

大きな手が優しく、隣に座る悠里の長い髪に触れる。
「前に貰った写真、俺好きだから」

剛士の言う写真とは、初めて彼の練習試合を観に行ったときに撮られた、横顔の写真を指すのだろう。

彩奈がこっそりと、剛士に渡す写真の束に忍ばせていた、悠里の写真。
それを見た剛士は、ふわりと優しい微笑を浮かべていた。


ああ、その時だ。

『ゴウって、呼べよ』

剛士が、悠里との距離を明確に詰めてくれたのは。
長い指に髪を撫でられながら、悠里は甘い胸の高鳴りを思い出していた――


彩奈が、ぷっと楽しそうに笑う。
「シバさんって最近、よく悠里の髪触りますよね」
「ん?」
我に帰ったように、剛士の指が止まる。

「あー触ってる触ってる。こないだみんなでお茶してたときも、なでなでして、ゆうりんごになってた!」
拓真がニコニコと参戦してきた。

「あはは、ゆうりんごだったねえ。でも悠里、ちょっと慣れたんだね」
彩奈の楽しげな瞳が悠里を覗き込む。
「いま、『撫でて?』って感じで、ちょっとシバさんの方に首傾げてたよね」
「し、してないもん」


「ごめん、俺、無意識だったわ」
危うく、ゆうりんご状態に陥りそうなところに、幾分すまなそうな声で剛士が入ってきた。

「悠里、背小さいから頭が撫でやすいのと、」
長い指が、するりと悠里の髪を掬い上げる。
「髪……長くて、綺麗だから」
「触りたくなっちゃいます?」
「うん」
「わかる!」

彩奈が、パンッと手を打って同意した。
「悠里の髪、柔らかくて触り心地いいですよね~!」
「うん」


悠里は耐えきれず、真っ赤になってしまった顔を両手で覆う。
「……俺が触るの、嫌じゃない?」
優しい問いかけが耳に届いて、悠里は顔は隠したまま、小さく頷いた。

嬉しそうな気配が、隣からした。
大きな手が、柔らかく頭を撫でてくれる。
彩奈と拓真の揶揄いと祝福は、半分も耳に入らなかった。
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