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piece3 持てる者と、持てない者
カンナの思惑
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「……え?」
言われた言葉の意味を、うまく噛み砕くことができなかった。
悠里は、くぐもった疑問の吐息を零す。
「今までこんだけ、カンナさんから嫌がらせ受けてさぁ。その可能性を一瞬でも、考えたことなかった?」
ユタカの笑みは、さらに広がっていく。
「キミって、ホント、鈍いんだね?」
「で、でも……」
悠里は恐る恐る、ユタカとカンナを見つめた。
「お2人はお付き合い、されているんですよね?」
「はぁ? 私が? ユタカと? 何言ってんのよ冗談でしょ?」
カンナが、冷ややかな声で言う。
悠里は、ビクッと肩を竦ませながら、しどろもどろに答えた。
「だ、だって……」
「あー、オレたちが、キスしたから?」
ポン、と手を打ち、ユタカが後を受けた。
それを聞き、カンナが呆れた顔で悠里を見下ろす。
ユタカは、戯けたようにカンナを後ろから抱き寄せてみせた。
そうして悠里を見返しながら、カンナの胸元に手を這わせる。
「……これで、オレたちの関係性、理解できた?」
悠里は身を固くしたまま、グッと唇を噛み締める。
「あれぇ? わかんない?」
ユタカは薄笑いを浮かべながら、カンナの胸をジャケット越しに揉みしだき、その首筋にキスをした。
カンナが艶然と微笑み、くすぐったそうに身を捩る。
「ちょっと。そういうのは、また後で」
「えー? いいじゃーん」
2人は甘い声を出し、悠里に見せつけるように顔を寄せ合った。
目の前で繰り広げられる行為が、何を意味するのか。
悠里には理解ができず、ただただ息を詰める。
ユタカは楽しげに笑い、答え合わせをした。
「つまり、セフレなのよ、オレたちって」
悠里が目を見開いたのを見ながら、ユタカは軽い調子で続けた。
「オレたちは、お互いの隙間を埋めるために。エッチしたり、遊んだりしてるわけ。今みたいにね?」
カンナも同調し、頷いた。
「そ。そこに恋愛感情なんて、あるわけないでしょ?」
「えー? オレは結構、カンナさんのこと、好きだけどー?」
「はあ? ウッザ」
「ははっ、そういうとこも、オレは好きよ?」
ユタカは、あっけらかんと笑い、カンナの身体から手を離した。
我知らず、悠里の身体は震える。
『好き』という言葉を、彼は使った。
しかし関係性は、『セフレ』だという。
その言葉からは、真心を感じられない。
つまりユタカにとって、『遊び』なのだろう。
カンナとの関係も。
今の、この状況も。
1年生の後輩2人は、ニヤニヤと笑みを浮かべ、口々に言う。
「いいよなあ、セフレ。オレたちも欲しいわあ」
「な! それにはやっぱり、マリ女との交流が不可欠よ!」
ユタカは笑いながら、後輩たちに向かって大きく頷いた。
「そうそう。剛士ってさあ。自分は交流の中で、ソッコー美人な彼女捕まえて? 別れたら交流断絶して?」
ユタカの冷たい笑みが、悠里に向く。
「それで、未だに交流は断絶させたままなくせに、ちゃっかり自分だけ、カワイイ女の子捕まえてさぁ。ズルいよなぁ?」
同意を求めるように、ユタカが首を傾げてみせると、後輩たちは賛同の声を上げた。
「ちょっと! そんな言い方やめてよ。剛士くんは悪くない!」
対してカンナが、不機嫌な声を出す。
「悪いのは、剛士くんと付き合ってんのに、他の男に目移りしたエリカなんだから」
カンナの口から、エリカへの非難の言葉が出たことに、悠里は驚愕する。
自分の行動は全て、エリカのためだと、豪語していたのに。
異常なまでの憎しみを、悠里にぶつけてきたのに。
エリカへの、崇拝にも似た激しい思いを原動力に、カンナは暴走を繰り返しているのに――
「あーあ。まーた固まっちゃった」
ユタカが笑いながら、悠里の様子を揶揄った。
そうして、意地の悪い声で囁きかける。
「キミには、カンナさんの気持ちなんて、わからないだろうねぇ?」
悠里は震える声で、ユタカの言葉に疑問を返した。
「だって……エリカさんと安藤さんは、親友だって……」
悠里の脳裏に、大輪の花束のような、エリカの美しい笑顔が浮かぶ。
「……そう。親友よ」
ユタカよりも先に、カンナの声が飛んできた。
カンナの目には、様々な感情の炎が燃え盛っている。
悠里を焼き尽くすかのように、真っ直ぐに見据え、詰め寄ってきた。
悠里は思わず、座り込んだままの体勢で、不器用に後ずさる。
「……アンタたちって、いつもそうだよね」
カンナは低い声で、怒りを吐露し始めた。
「自分が当たり前のように持ってるもの。それが、他からすれば喉から手が出るほど、欲しいものなんだってこと。アンタたちは、知ろうともしない」
恐怖に息を詰まらせながらも、悠里は必死に、カンナの言葉の中身を探ろうとする。
『アンタたち』
それは、誰と誰を指す、憎しみの言葉なのか……
カンナが悠里を見下ろし、涼やかな目を、すぅっと細めた。
そうして膝を折り、悠里と目線を合わせる。
カンナが初めて、悠里に対して本音を晒し始めた。
これまで掴みきれなかった彼女の暴走の本当の意味が、悠里に明かされていく――
***
「私、好きになったんだ、剛士くんのこと。エリカの近くにいて、嫌というほど剛士くんのこと、見てきたから」
ガラス玉のように無機質な光を放つ目で、悠里を見つめたまま。
カンナの唇から止めどなく、心が溢れ出した。
「羨ましかった、妬ましかった。エリカのこと。剛士くんに愛されて、みんなに祝福されて、幸せに笑うエリカが。私が、その座に付きたかった、本当は」
在りし日の苦痛が蘇ったのか、カンナの声が、重苦しく掠れた。
それを抑え込むように、彼女は一度、ゆっくりと瞬きをした。
「……でも私は、エリカの親友だから。エリカがどんなに良い子で、剛士くんに相応しいか、わかっていたから」
痛みに堪えかねたのか、カンナの顔が歪む。
「この気持ちは、報われなくていい。エリカが剛士くんと、幸せになってくれるならって、思ってた」
今しがた、カンナが口にした『アンタたち』という、誹りの言葉。
それが、悠里とエリカを指したものであることが、伝わってきた。
しかしカンナは、エリカを妬ましく思う以上に、親友としてエリカを大切に思っているのだろう。
悠里は、痛ましげにカンナの顔を見つめる。
親友の彼氏に恋情を寄せてしまい、自分の心と、友情との板挟みになってしまった。
カンナの苦しみを慮ると、同情の思いを禁じ得ない。
しかし、次にカンナの口から吐き出された言葉は、耳を疑うものだった。
「……だから、私ね? せめてひとつだけ、剛士くんの心に、私の傷跡をつけたかったんだ」
「……え?」
薄らと笑みを浮かべたカンナに、悠里は寒気を覚える。
「エリカのことで話があるって、部活の後に呼び出して。剛士くんのことが好き。2番でいい、エリカの合間でいいから、私と付き合ってって。言ってやったの」
「……おお。それは、オレも初耳」
悠里や後輩の2人組が驚く中、ユタカだけが茶化すような声音で口を挟んだ。
カンナは、ユタカには目もくれなかった。
ただ、その冷ややかな笑みで、悠里の心を射竦めた。
「――もちろん、剛士くんが乗って来ないことは、わかってた。でもこう言えば、たとえ一時でも。剛士くんの心が、私でいっぱいになるでしょう?」
そのときのことを思い出したのか、カンナはニヤリと、頬を緩ませた。
「剛士くんは、すごく真剣に答えてくれたの。『ごめんなさい。俺は、エリを裏切りたくありません』って。きちんと私に向き合って、真っ直ぐに私を見て、答えてくれたよ」
ユタカが、ぷっと吹き出す。
「マジか。剛士、もったいないことすんなぁ。1発ヤっときゃいいのに」
言われた言葉の意味を、うまく噛み砕くことができなかった。
悠里は、くぐもった疑問の吐息を零す。
「今までこんだけ、カンナさんから嫌がらせ受けてさぁ。その可能性を一瞬でも、考えたことなかった?」
ユタカの笑みは、さらに広がっていく。
「キミって、ホント、鈍いんだね?」
「で、でも……」
悠里は恐る恐る、ユタカとカンナを見つめた。
「お2人はお付き合い、されているんですよね?」
「はぁ? 私が? ユタカと? 何言ってんのよ冗談でしょ?」
カンナが、冷ややかな声で言う。
悠里は、ビクッと肩を竦ませながら、しどろもどろに答えた。
「だ、だって……」
「あー、オレたちが、キスしたから?」
ポン、と手を打ち、ユタカが後を受けた。
それを聞き、カンナが呆れた顔で悠里を見下ろす。
ユタカは、戯けたようにカンナを後ろから抱き寄せてみせた。
そうして悠里を見返しながら、カンナの胸元に手を這わせる。
「……これで、オレたちの関係性、理解できた?」
悠里は身を固くしたまま、グッと唇を噛み締める。
「あれぇ? わかんない?」
ユタカは薄笑いを浮かべながら、カンナの胸をジャケット越しに揉みしだき、その首筋にキスをした。
カンナが艶然と微笑み、くすぐったそうに身を捩る。
「ちょっと。そういうのは、また後で」
「えー? いいじゃーん」
2人は甘い声を出し、悠里に見せつけるように顔を寄せ合った。
目の前で繰り広げられる行為が、何を意味するのか。
悠里には理解ができず、ただただ息を詰める。
ユタカは楽しげに笑い、答え合わせをした。
「つまり、セフレなのよ、オレたちって」
悠里が目を見開いたのを見ながら、ユタカは軽い調子で続けた。
「オレたちは、お互いの隙間を埋めるために。エッチしたり、遊んだりしてるわけ。今みたいにね?」
カンナも同調し、頷いた。
「そ。そこに恋愛感情なんて、あるわけないでしょ?」
「えー? オレは結構、カンナさんのこと、好きだけどー?」
「はあ? ウッザ」
「ははっ、そういうとこも、オレは好きよ?」
ユタカは、あっけらかんと笑い、カンナの身体から手を離した。
我知らず、悠里の身体は震える。
『好き』という言葉を、彼は使った。
しかし関係性は、『セフレ』だという。
その言葉からは、真心を感じられない。
つまりユタカにとって、『遊び』なのだろう。
カンナとの関係も。
今の、この状況も。
1年生の後輩2人は、ニヤニヤと笑みを浮かべ、口々に言う。
「いいよなあ、セフレ。オレたちも欲しいわあ」
「な! それにはやっぱり、マリ女との交流が不可欠よ!」
ユタカは笑いながら、後輩たちに向かって大きく頷いた。
「そうそう。剛士ってさあ。自分は交流の中で、ソッコー美人な彼女捕まえて? 別れたら交流断絶して?」
ユタカの冷たい笑みが、悠里に向く。
「それで、未だに交流は断絶させたままなくせに、ちゃっかり自分だけ、カワイイ女の子捕まえてさぁ。ズルいよなぁ?」
同意を求めるように、ユタカが首を傾げてみせると、後輩たちは賛同の声を上げた。
「ちょっと! そんな言い方やめてよ。剛士くんは悪くない!」
対してカンナが、不機嫌な声を出す。
「悪いのは、剛士くんと付き合ってんのに、他の男に目移りしたエリカなんだから」
カンナの口から、エリカへの非難の言葉が出たことに、悠里は驚愕する。
自分の行動は全て、エリカのためだと、豪語していたのに。
異常なまでの憎しみを、悠里にぶつけてきたのに。
エリカへの、崇拝にも似た激しい思いを原動力に、カンナは暴走を繰り返しているのに――
「あーあ。まーた固まっちゃった」
ユタカが笑いながら、悠里の様子を揶揄った。
そうして、意地の悪い声で囁きかける。
「キミには、カンナさんの気持ちなんて、わからないだろうねぇ?」
悠里は震える声で、ユタカの言葉に疑問を返した。
「だって……エリカさんと安藤さんは、親友だって……」
悠里の脳裏に、大輪の花束のような、エリカの美しい笑顔が浮かぶ。
「……そう。親友よ」
ユタカよりも先に、カンナの声が飛んできた。
カンナの目には、様々な感情の炎が燃え盛っている。
悠里を焼き尽くすかのように、真っ直ぐに見据え、詰め寄ってきた。
悠里は思わず、座り込んだままの体勢で、不器用に後ずさる。
「……アンタたちって、いつもそうだよね」
カンナは低い声で、怒りを吐露し始めた。
「自分が当たり前のように持ってるもの。それが、他からすれば喉から手が出るほど、欲しいものなんだってこと。アンタたちは、知ろうともしない」
恐怖に息を詰まらせながらも、悠里は必死に、カンナの言葉の中身を探ろうとする。
『アンタたち』
それは、誰と誰を指す、憎しみの言葉なのか……
カンナが悠里を見下ろし、涼やかな目を、すぅっと細めた。
そうして膝を折り、悠里と目線を合わせる。
カンナが初めて、悠里に対して本音を晒し始めた。
これまで掴みきれなかった彼女の暴走の本当の意味が、悠里に明かされていく――
***
「私、好きになったんだ、剛士くんのこと。エリカの近くにいて、嫌というほど剛士くんのこと、見てきたから」
ガラス玉のように無機質な光を放つ目で、悠里を見つめたまま。
カンナの唇から止めどなく、心が溢れ出した。
「羨ましかった、妬ましかった。エリカのこと。剛士くんに愛されて、みんなに祝福されて、幸せに笑うエリカが。私が、その座に付きたかった、本当は」
在りし日の苦痛が蘇ったのか、カンナの声が、重苦しく掠れた。
それを抑え込むように、彼女は一度、ゆっくりと瞬きをした。
「……でも私は、エリカの親友だから。エリカがどんなに良い子で、剛士くんに相応しいか、わかっていたから」
痛みに堪えかねたのか、カンナの顔が歪む。
「この気持ちは、報われなくていい。エリカが剛士くんと、幸せになってくれるならって、思ってた」
今しがた、カンナが口にした『アンタたち』という、誹りの言葉。
それが、悠里とエリカを指したものであることが、伝わってきた。
しかしカンナは、エリカを妬ましく思う以上に、親友としてエリカを大切に思っているのだろう。
悠里は、痛ましげにカンナの顔を見つめる。
親友の彼氏に恋情を寄せてしまい、自分の心と、友情との板挟みになってしまった。
カンナの苦しみを慮ると、同情の思いを禁じ得ない。
しかし、次にカンナの口から吐き出された言葉は、耳を疑うものだった。
「……だから、私ね? せめてひとつだけ、剛士くんの心に、私の傷跡をつけたかったんだ」
「……え?」
薄らと笑みを浮かべたカンナに、悠里は寒気を覚える。
「エリカのことで話があるって、部活の後に呼び出して。剛士くんのことが好き。2番でいい、エリカの合間でいいから、私と付き合ってって。言ってやったの」
「……おお。それは、オレも初耳」
悠里や後輩の2人組が驚く中、ユタカだけが茶化すような声音で口を挟んだ。
カンナは、ユタカには目もくれなかった。
ただ、その冷ややかな笑みで、悠里の心を射竦めた。
「――もちろん、剛士くんが乗って来ないことは、わかってた。でもこう言えば、たとえ一時でも。剛士くんの心が、私でいっぱいになるでしょう?」
そのときのことを思い出したのか、カンナはニヤリと、頬を緩ませた。
「剛士くんは、すごく真剣に答えてくれたの。『ごめんなさい。俺は、エリを裏切りたくありません』って。きちんと私に向き合って、真っ直ぐに私を見て、答えてくれたよ」
ユタカが、ぷっと吹き出す。
「マジか。剛士、もったいないことすんなぁ。1発ヤっときゃいいのに」
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