上 下
2 / 111
piece1 2人の、初めて♡

全年齢OK♡ 期待していいの?

しおりを挟む
剛士の着替えを買った後は、悠里の自宅の最寄駅に移動した。
2人は駅前のスーパーで、夕飯の買い出しをしていた。

弾んだ声で悠里は尋ねる。
「ゴウさん。晩ごはんは、何食べたい?」
うーん、と軽く悩んでみせてから、剛士が言った。
「悠里のご飯、何でも美味しいからなあ」
「ふふっ、本当?」
「うん。……でも、本当にいいのか?」

剛士が気遣わしげに、彼女の頭を撫でる。
「作るの大変だろ? 適当に、何か買ってもいいんだぞ?」
「平気」
悠里は彼を見上げ、柔らかく微笑む。
「ご飯作るの好きだから。ゴウさんに、食べて欲しいんだ」
「ありがとな、悠里」
剛士が、嬉しそうに笑みを返した。

「じゃあ、俺、どの料理が難しくて手間がかかるとか、わからないからさ。悠里が作りやすいのを、食べたいな」
今日はできるだけ一緒に、ゆっくりしたいから、と彼は微笑む。

大きな手が、優しく悠里の手を包み込んだ。
甘い感覚に頬を染め、悠里は答えた。
「じゃあ、生姜焼きとか、どうかな」
剛士の顔が、パッと輝く。
「めっちゃ好き」
「良かった!」
きゅっと彼の手を握り、悠里も笑った。
「がんばって作るね!」


キッチンに、並んで立つ。
俺も手伝う、と楽しげにシャツの袖を捲る剛士に、悠里は暖かい気持ちになった。
2人で、取り留めのない話をしながら取り組む晩ごはん作りは、それだけで特別な時間だ。

剛士は彼女の隣りで、茹でたジャガイモを、程よい大きさに潰している。
「いつも思うけど、悠里って本当、手際いいよな」
「ふふ、そう?」
ポテトサラダに入れるキュウリを輪切りにしながら、悠里は笑う。
「うん。いろんな作業を、流れるように同時進行するし。あと、包丁捌きがカッコいい」
「あはは」

剛士はいつも、悠里がご飯を作っているとき、傍に来てお喋りをしてくれる。
いろんな話をしながら、興味深そうに手元を見ていたり、時折、料理に関する質問をしたりする。
剛士が傍にいるときの料理は、いつも楽しくて、笑顔が溢れる。


「悠里はいつも、家族のために作ってるんだもんな」
共働きで多忙な両親に代わり、日頃から晩ごはんを担当している悠里。
剛士は尊敬の気持ちを込めて、彼女を見つめた。

「ふふ、お母さんのご飯が大好きで。小さい頃から、いろいろ教えて貰ってたの」
慣れた手つきで味噌汁を作る悠里が、剛士を見上げて微笑む。

「だからいま、1人で作れるようになって、お母さんたちの役に立てて、嬉しいんだ」
「そっか」
剛士は優しい笑みを浮かべ、悠里の頭を撫でた。
「悠里は、いい子だな」
「ふふっ」
暖かい手の感覚に頬を染め、悠里は笑顔を深めた。


剛士は、生姜焼きのタレを作る悠里の手を、感心して見つめる。
「本物の生姜使ってて、すげえ……」
「うちの家族、生姜好きでね。常備してるんだ」

小さなことを何でも褒めてくれる剛士が微笑ましくて、悠里は笑う。
「待っててね。すぐお肉も焼いちゃうから」

片栗粉をまぶした豚肉を、フライパンに並べ入れて焼き始める。
余分な脂を拭き取ってからタレを加えると、ジュウっという音とともに、食欲をそそる香りが溢れ出した。

「おお、めっちゃいい匂い」
「ふふっ、すぐできるからね」
待ちかねたような剛士の声に、悠里は微笑んで応えた。


間もなく生姜焼きも出来上がり、悠里はテキパキと料理をテーブルに並べていく。
生姜焼き、ポテトサラダ、ご飯に味噌汁。
ほかほかと、良い匂いがダイニングを包み込む。

悠里は、豆腐とわかめの味噌汁にネギを散らし、テーブルに運んだ。
座って待って貰っていた剛士に、悠里は微笑みかける。
「ゴウさん、お待たせ!」
「おお、美味そう」
剛士が目を輝かせ、拍手をしてくれる。
悠里は照れ混じりに答えた。
「おかわりあるから、いっぱい食べてね!」


時刻は、18時過ぎ。
2人で、楽しくお喋りをしながら、少し早めの晩ごはんを楽しむ。
「めちゃくちゃ美味い」
剛士は何かを食べるたびに、嬉しそうに微笑んでくれる。
悠里は頬を染めて答えた。
「ふふ、嬉しいな」

「いいなあ、悠人のヤツ」
剛士が悪戯っぽく笑いながら、悠里の弟の名を出す。
「こんな美味しいの、毎日食べてんのか」
「ふふっ」
悠里も悪戯っぽい声音で返した。
「じゃあ、私の弟になる?」
「弟かよ」
弾かれたように、剛士が笑い出した。
「せめてお兄ちゃんだろ」
「あはは」

ひとしきり2人で笑った後、ふっと剛士が甘い微笑を浮かべて首を傾げる。
「……ああ、でもやっぱり駄目だな」
「え?」
「兄妹じゃ、お前と付き合えないから嫌だ」
「……ふふ」
照れ隠しに、悠里も笑って頷く。

「私も。こんなカッコいいお兄ちゃんがいたら、ベタベタくっ付いちゃいそうだから、ダメかな」
「……ん? 悪くないな、それ」
満更でもなさそうな顔で、真剣に答える剛士に、悠里は再び笑ってしまった。


***


食後の後片付けも、2人で手早くこなして、ソファに並んで座る。

悠里は身を固くして、ずっと剛士に寄り添っていた。
その大きな目は、真っ直ぐにテレビに注がれている。


何の気なしにつけたチャンネルで、有名なホラー映画が放映されていたのだ。

クライマックスシーンは、ジャパニーズ・ホラーの最高峰。
ゆっくり、ゆっくりと這い回る恐怖に、追い詰められていく。
じっとりと湿った空気の中、ザワザワと這いつくばっていたもの。
それまでの動き方が嘘のように、すうっと立ち上がる。

激しい効果音とともに、否応無しに恐怖と目が合ってしまった。

声にならない悲鳴を上げて、悠里は剛士にしがみついてしまう。
剛士は、そっと彼女の肩を抱き寄せた。
「……こういうストーリーだったんだな」
ポン、ポン、とゆっくり彼女の肩を叩きながら、剛士が呟く。
「……え?」
怯えた表情のまま、悠里は彼の横顔を見上げた。

悠里を見つめ返し、剛士は微笑む。
「この映画、拓真と一緒に観たことはあるんだけど。あいつの悲鳴が五月蝿くて、全然話がわからなかったんだよな」
「あはは」

剛士にしがみついたまま、思わず悠里は笑ってしまう。
極度の怖がりなのに、ホラー好きな拓真。
そんな親友にねだられて、一緒に映画鑑賞したのであろう剛士を想像すると、ほっこりと心が温まる。

剛士は微笑み、そっと悠里にキスを落とした。
「お前と映画観るの、楽しいな」
「本当?」
「ん」
長い指が、愛おしそうに彼女の髪を梳いた。
「すごい静かに観てるのに、実は怖がってたり。黙って、くっついて来たりして……可愛い」
髪を撫でてくれていた指が、そっと悠里の顎に移動し、仰向かせる。
「あ……」
間近に切れ長の瞳を感じ、悠里は思わず睫毛を伏せた。


ちゅっと音を立てて、キスが降ってくる。
剛士の唇は、そのまま何度も何度も、悠里に甘いキスを降り注いだ。
優しく唇を開けられ、彼の舌が入ってくる。
「…ん……っ」
悠里は固く目を閉じ、必死に剛士にしがみついた。
応えるように、剛士の腕が彼女の背と腰に回り、優しく抱き寄せてくれる。

いつもよりも、深くて、熱いキス。
悠里は時折、身を震わせながらも、されるがまま。
時間をかけて、彼の舌に愛された。


映画は、いつの間にか終わっていた。
悠里は目を閉じたまま、ぎゅっと剛士の胸にしがみつく。

今日、彼に泊まりにきて欲しかった理由――
それを伝えるのは今だと、わかっている。
けれど、いざとなったら悠里の唇は勇気を失い、何の言葉も紡ぐことはできなかった。


剛士が、クシャクシャと悠里の髪を撫でる。
「わっ……」
予想外の感触に、悠里は慌てて身体を起こす。

楽しげに微笑む剛士と、目が合った。
「なんで、そんな緊張してんだよ」
「あ、あの……」
ますます言葉が出なくなり、悠里は真っ赤な顔で俯く。

伝えたいのに、上手くできない。
無意識のうちに、唇を噛んでしまう。


剛士は、悠里を覗き込むように小首を傾げ、優しく微笑んだ。
長い指が、慈しむように彼女の唇に触れ、噛むのをやめさせる。

「……ねえ、悠里?」
剛士が、そっと、小さな手を握った。
悠里の耳元で、甘やかに問いかける。
「俺……期待していいの?」

「ゴウ、さん……」
悠里は潤んだ目で、彼を見上げる。
ちゅっと優しいキスを落とし、剛士は微笑む。
悠里は、彼にもたれかかり、小さく頷いた。
「……はい」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...