7 / 42
死の魔王
第2話 生きた死
しおりを挟む
森をさまようヴァルゴスは、孤独の中で自らの存在意義を問い続けた。
村を追い出されてから、彼は食べることも眠ることもなく、何の目的もなく歩き続ける。数日が経過して、月明かりの下で静かに瞑想していると、突然周囲の空気が凍りつくように冷たくなった。
「お前がヴァルゴスか……」
低く響く声が闇の中から聞こえた。
ヴァルゴスは目を開け、その声の方向を見ると、黒いローブを纏った巨大な存在が立っている。
骨に皮膚の張り付いたミイラのような外見、顔も髑髏と皮膚が張り付いており、虚ろな眼窩は深紅に輝いている。黒い外套のほかには、歪んではいるが巨大な鎌だとわかる物が握られていた。その不気味な鎌は闇の中でも薄っすらと紫色に光っており、農具というよりも処刑人の刀のような印象を与える。
「誰だ?」
ヴァルゴスは問いかけた。
その言葉に恐怖はなく、わずかな疑惑と困惑の色含まれている。
「私はモルディナ」
存在はゆっくりと近づきながら答える。
ヴァルゴスはその名に、どこか懐かしさを感じた。
この時の彼は知らなかったが、モルディナは古代エルフ語で「魂の管理者」を意味している。
「何故、私の前に現れた?」
モルディナはミイラのような顔に薄い笑みを浮かべた。
「お前は生と死の狭間に生きている。その力は私と共鳴するものだ。お前の内なる力を制御する力を授け、我が使徒としようと思ってな。無論、断っても良い、そうなれば遠くないうちに生と死の力に耐えられずに消えることになるだろう」
その言葉に嘘は無いように思えたが、ヴァルゴスは相手にそれ以上の意図を感じた。取るに足らない者の前に、わざわざ降臨するとは思えなかったからである。その意図を読んだように、実際に心を読んだのかもしれないが、モルディナは説明する。
「水に落ちてもがく虫けらを哀れに思ったことはないのか? 余裕があれば、助けてやろうと思ったことは? 他の管理者は放っておけと嘯くが、我は我の感じたままに振舞っているだけよ。水から救い上げて助けた後、その虫がどのような行動をするかまでは気にもせん。無論、虫からの礼なども期待しておらんよ」
ヴァルゴスは幼少期のことを思い出して、静かに頷いた。
死をもたらすものと忌み嫌われていたが、自分も過去に池に落ちた蜘蛛を見つけて助けたことがあったのだ。後日その蜘蛛が蝶を喰らっている姿を見たことも思い出した。
その時、自分はどのような感情を抱いた窯では思い出せなかったが、村の子供たち――のちに彼を追い出した若者たちは死の使いだと噂したものである。
「私は生まれてからずっと死に取り憑かれてきた。その力を制御することで、自分の運命を切り開けるのならば、受け入れよう」
モルディナは満足げに頷き、干からびた手を差し出した。
「良いだろう。我らの契約を結ぼう。お前はこれより『沈黙の使者』としての道を歩むのだ」
ヴァルゴスは干からびた手を握ると、強烈な力が体内に流れ込んできた。彼の蒼い瞳の冷たさが力を増し、見えざるものを見る力が宿った。線の細い体からは冷たい死のオーラが放たれる。
「これが……、死か……?」
ヴァルゴスは自らの変化を感じ取り、静かに呟いた。
モルディナは満足そうに頷き、闇の中へと消えていく前に言葉を残す。
「さあ、『沈黙の使者』よ。お前の使命を果たすが良い」
ヴァルゴスは冷えた微笑みを浮かべ、ようやく自分が生きる意味を見出したのである。
村を追い出されてから、彼は食べることも眠ることもなく、何の目的もなく歩き続ける。数日が経過して、月明かりの下で静かに瞑想していると、突然周囲の空気が凍りつくように冷たくなった。
「お前がヴァルゴスか……」
低く響く声が闇の中から聞こえた。
ヴァルゴスは目を開け、その声の方向を見ると、黒いローブを纏った巨大な存在が立っている。
骨に皮膚の張り付いたミイラのような外見、顔も髑髏と皮膚が張り付いており、虚ろな眼窩は深紅に輝いている。黒い外套のほかには、歪んではいるが巨大な鎌だとわかる物が握られていた。その不気味な鎌は闇の中でも薄っすらと紫色に光っており、農具というよりも処刑人の刀のような印象を与える。
「誰だ?」
ヴァルゴスは問いかけた。
その言葉に恐怖はなく、わずかな疑惑と困惑の色含まれている。
「私はモルディナ」
存在はゆっくりと近づきながら答える。
ヴァルゴスはその名に、どこか懐かしさを感じた。
この時の彼は知らなかったが、モルディナは古代エルフ語で「魂の管理者」を意味している。
「何故、私の前に現れた?」
モルディナはミイラのような顔に薄い笑みを浮かべた。
「お前は生と死の狭間に生きている。その力は私と共鳴するものだ。お前の内なる力を制御する力を授け、我が使徒としようと思ってな。無論、断っても良い、そうなれば遠くないうちに生と死の力に耐えられずに消えることになるだろう」
その言葉に嘘は無いように思えたが、ヴァルゴスは相手にそれ以上の意図を感じた。取るに足らない者の前に、わざわざ降臨するとは思えなかったからである。その意図を読んだように、実際に心を読んだのかもしれないが、モルディナは説明する。
「水に落ちてもがく虫けらを哀れに思ったことはないのか? 余裕があれば、助けてやろうと思ったことは? 他の管理者は放っておけと嘯くが、我は我の感じたままに振舞っているだけよ。水から救い上げて助けた後、その虫がどのような行動をするかまでは気にもせん。無論、虫からの礼なども期待しておらんよ」
ヴァルゴスは幼少期のことを思い出して、静かに頷いた。
死をもたらすものと忌み嫌われていたが、自分も過去に池に落ちた蜘蛛を見つけて助けたことがあったのだ。後日その蜘蛛が蝶を喰らっている姿を見たことも思い出した。
その時、自分はどのような感情を抱いた窯では思い出せなかったが、村の子供たち――のちに彼を追い出した若者たちは死の使いだと噂したものである。
「私は生まれてからずっと死に取り憑かれてきた。その力を制御することで、自分の運命を切り開けるのならば、受け入れよう」
モルディナは満足げに頷き、干からびた手を差し出した。
「良いだろう。我らの契約を結ぼう。お前はこれより『沈黙の使者』としての道を歩むのだ」
ヴァルゴスは干からびた手を握ると、強烈な力が体内に流れ込んできた。彼の蒼い瞳の冷たさが力を増し、見えざるものを見る力が宿った。線の細い体からは冷たい死のオーラが放たれる。
「これが……、死か……?」
ヴァルゴスは自らの変化を感じ取り、静かに呟いた。
モルディナは満足そうに頷き、闇の中へと消えていく前に言葉を残す。
「さあ、『沈黙の使者』よ。お前の使命を果たすが良い」
ヴァルゴスは冷えた微笑みを浮かべ、ようやく自分が生きる意味を見出したのである。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ゴブリン娘と天運のミミカ
高瀬ユキカズ
ファンタジー
小説を読んで、本気で異世界へ行けると信じている主人公の須藤マヒロ。
出会った女神様が小説とちょっと違うけど、女神様からスキルを授かる。でも、そのスキルはどう考えても役立たず。ところがそのスキルがゴブリン娘を救う。そして、この世界はゴブリンが最強の種族であると知る。
一度は街から追い払われたマヒロだったがゴブリン娘のフィーネと共に街に潜り込み、ギルドへ。
街に異変を感じたマヒロは、その異変の背後にいる、同じ転生人であるミミカという少女の存在を知ることになる。
ゴブリン最強も、異世界の異変も、ミミカが関わっているらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる