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番外編

キスの日:永瀬×上條

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 俺は、珍しく事務所での部下たちの私語に気をとられていた。何故なら内容が内容だったから!本来なら止めるべきだが……

「デートもそこそこで、体だけ求める男なんて有り得ない。猿かっての……この前なんてやっとドライブと思ったら、人気の無いところに車停めて、いきなりガバッて!」

「えー?!どうしたの?」

「蹴りあげて動けなくしてから、タクシー呼んで帰った。後からめっちゃ連絡来るから、別れようって連絡してブロしてやった。猿じゃないんだからばっかりはね……」

「確かに!私の元カレにもいたかも!釣った魚に餌やらない感じ?」

 俺は思わず書類を取り落とす。純と付き合い始めてから、可愛いあいつを貪る事ばかりでデートなどしていないことに気付いたから。

 爛れた生活が長すぎて、固定の相手との自体がいつ以来だろう?出掛けることを考えなかったわけでもないが、部屋着で警戒心の無い純に甘えられると箍が外れて貪ってしまっている自覚はある。

 机の下にばら蒔いた書類を拾いながら、ふと思い出したのが引き出しにしまっていた有名な海辺のアミューズメントパークチケット。保険会社からもらったものの特に興味もなく、部下に発破をかける材料やお願いを通すときに使うか……と、しまいこんでいた。幸いにも期限は来月末まで残っていた。

「来週から来月末までの休日に出掛けないか?チケットもらったんだが?昼飯のときにでも一緒に話せないか?」

 チケットの写真とお誘いをメッセージアプリにそっと打ち込む。仕事中は私用携帯を見るタイプじゃないので、見るのは昼休みになってからだろう。少し浮き立つ気持ちを隠しながら午前の仕事を終わらせた。

 昼休憩になり予想通り、食堂でどうですか?と連絡があり待ち合わせる。控えめに手をあげてヒラヒラと手を降る純が可愛くて思わず口をおさえて浮かぶ笑みを隠すも、それに照れる純が可愛い。

 壁際に純を座らせ、隣に座る。純は凄く嬉しそうにいつもより饒舌にテーマパークについて語る。もしかして凄く好きなのか?

「一人で行く勇気は、なかなかないんですけど凄く大好きで。家には作品がいっぱいありますよ……今年は、新しいエリアができて!そのモチーフが大好きな作品で凄く気になっていたんです。本当なら年パス欲し……えと、永瀬さんは行ったことありますか?」

「学生の頃……かな。」

 ピクリと純が反応した。口をモゴモゴさせて何度も躊躇いながら……

「かの……じょとかと?」

 少し瞳を揺らして、手も震えながら聞かれた。これをいただいてはダメとか拷問か!今すぐ持ち帰りたい。

「あー。遠足的なやつだけだから女と行ったことは無いな。」

「お……男の人……」

「純?男はお前だけだよ。」

 可愛いこと言うから、思わずその口塞ぎたくなるよな。グッと我慢しながら、純の赤い唇の端にハネたパスタのソースを親指で拭い、純をジッと見ながら指からソースを舐めとってやると、純が真っ赤な顔をしながら小さな悲鳴をあげて下を向いている。週末に俺のつけたうなじの痕が揺れる襟足から覗きぞくぞくとする。

 今回は間に合わないが、記念日にオフィシャルホテルお泊まりとかとんでもなく喜びそうじゃないか?と心の中でほくそ笑む。

「楽しみにしているみたいだし、開園から閉園までの予定にしておく。後は日程と気になるものは週末に俺んちで決めるとかでどうだ?」

 目をキラキラ輝かせて頭をこくこくと縦に同意する純が可愛くて悪戯心が沸いた。スマホの画面を見せ、不思議そうに近付いて覗きこんでくる純に、耳打ちするような仕種をしながら耳朶にキス。

「っ……」

 目を潤ませて、こちらを睨みながら慌てて耳をおさえている。

「キスの日だってよ。」

 トントンとスマホの画面を叩いて見せてやる。

「……午後大変になっちゃう。匠さんのばか。」

……!なんかキた。食べ終わっていることを確認して。ぐいぐいと中庭に引っ張り出す、人が見えなくなったところで壁に押し付け唇にキスをする。

 追いかけてきた純の唇と、ねだるように唇をつつく舌に堪らなくなって貪る。止まらなくなりそうだが崩れ落ちそうな純を支えて唇を吸い上げて離れる。抱き締めて密着していると太腿にかたいものが当たっている。

「ここでは、これ以上は無理だな。夜に……な?」

 蕩けてこくりと頷く純をこのまま帰すわけにもいかず、熱が引くまでベンチに座らせて買ってきた茶を飲ませた。

 その日就業時間、純の前に田村が事務所にやって来て俺を名指しする。

「永瀬、昼休みは上條に手を出すんじゃない。週明けのうなじだけでもソレなりに職場を刺激してるのに、あんなに色気駄々漏れて帰ってきたら周りが仕事にならない。『溢れるヒトヅマ感』『背徳の昼下がり』とかAVタイトルみたいなこと噂されていたぞ。独占したいのもわかるけど社内は人目がなくてもやめとけ。」

 同期の指摘は痛かったがソレ以上に気になったのは言ったやつらの存在。

「誰が言ったかは言わんぞ。上條の仕事に差し障るだろう。どいつもこいつも、相手が他のやつに狙われる可能性も考えろ。」

 他にも誰かにたようなやつがいることを匂わせながら、ぶつぶつと帰っていく田村と入れ代わりに不思議そうな顔をした純がきた。

 田村の話を聞かせると、表情を目まぐるしく変えながら最後は怒っていた。

「もう、おうちだけです!」

「そうだな。可愛い純を帰ってたっぷり堪能したい。」

「でも、お出掛けのお話……しないと。」

「……ん?俺とイチャイチャするの嫌?」

 眉を寄せて哀しそうを装って聞くと。純は膝で手を握りしめてぶんぶんと顔を横に降った。

「嫌じゃない……です。」

「ん……とびっきりイチャイチャしような。社内でしなくていいくらいに……な。」

 予定外に平日に存分に純を味わうことができ、出社も一緒にしてキスで送り出しかなりいい朝のスタートを切ったのだが……

「分かってない!」

   田村に乗り込んでこられて、説教をされることになった。そんな説教をするやつのきちんとしまったシャツの隙間ギリギリから痕が覗いているのが見えた。

「お前も苦労性だな。俺のところに来てるのバレたら、昨日よりキッツいお仕置きになるんじゃないのか?大丈夫か?」

 親切心のつもりだったが、かなり効果があったらしく体を硬直させて片言しか話さなくなってしまった。

「誰にも言わないから、純の事守ってくれよ。頼んだぞ。」

 どこにいるかもわからない田村の相手に通じるものを感じながら、ハングアップして触っていないことをアピールしてやつを送り出した。
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