DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第百三話 決戦‼ 地上千メートルの死闘

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 分かっていたことながら、とんでもない心臓殺しの石階段が一直線に千メートル上の頂上へ向かって伸びている。
 「おう、お前ら、ようやく戻って来たか」と、アンドレイがローゼに豪快に笑った。
 「『ようやく戻って来たか』――じゃないわよ。だれも通商手形持っていなかったわ」と責め立てるローゼ。再びアジトの中を大捜索。今日は昼間だから探しやすい。
 「すごく大変だったんですよ」とエミリアが旅の報告をアンドレイに行う。 
 「何? パークが来たの? ここから失踪した後、次の日には戻って来てずっとここにいたぜ?」
 冗談でしょ? いや、でもうんこ空間をワープできるって言うから――。ホントにあるのか? うんこ空間。
 「なぁ、パーク?」とアンドレイが確認した。
 「え? ああ、いましたよ。…ずっとここに」と答えるパーク、チンパンチンのジェスチャーをする。
 それいなかったってことだよね。やっぱりあるんだうんこ空間。
 「うーん」と唸るローゼに、オントワーンが「どうした?」声をかけた。
 「まだ最終回じゃないってことは、どこかにあるはずなのよね」
 うんこ空間が?
 「違うわよ、緒方、話しかけんな」
 「もう、いいんじゃないですか? 通商手形なんて」エミリア投げやり。
 「良いわけないわよ。だって今わたし一文無しよ。エミリアへの仕送りだけで帰ってきたんだから」
 「いいじゃないですか、このままウェールネス旅行に行きましょうよ。わたしが案内しますから。ご実家にお手紙出して送金してもらえば、ウェールネスから帰れますよ」
 「だめよ、それじゃあ。だってわたしヴァルゴルディアの刀剣市に来たのよ。立派な剣を買って帰るんだから」
 「なんですかその妄想。全部霊剣とか魔法剣とか、どれもこれも法術剣の類いじゃないですか。霊力使えないのカバーしようとしてもだめですよ。相当な伝説の剣でも持たないと、霊力使える兵士を相手に出世なんかできませんっって」
 平然と傷つくこと言うやつだな。しかも“っ”が多いよ。
 続けてエミリア、一つ閃く。
 「これから佐間之介さんのところに戻って、光の剣貰ってきましょうか? どうせ、長いロウソクだとか、棒に光苔生やしたやつとか、そういう類でしょうけれど。あははははー☆」
 分かってて言うのどの口よ?
 「ローゼリッタ、お前の疑問のお出ましじゃないか?」とオントワーンが言うと、ボキボキボキリと指の骨を鳴らして、アンドレイが席を立った。
 「ん? ん? どうしたの?」とローゼが言っていると、手足を激しく振ってストレッチするパークが教えてくれた。
 「敵さんのお出ましだぜ」
 ローゼが、敵ってあんたたちのことなんだけれど、と思っていると、出るわ出るわ。わんさかわんさか。一体何者?
 みんなで外に出てみると、そこにいたのは、ルイス・スチュワート。すごい軍勢連れてアジトを取り囲んでいた。
 「何であんたがここに?」とローゼ。
 「ふん、裏取引の現場を見られた以上、生かしておくわけがないだろう。ちょうどよく盗賊団のアジトも押さえられたからな、一緒に壊滅させて昇進の材料にでもさせてもらおう」
 でもなんだよ。プレートアーマー完全装備で騎乗して、なっがいエストックを持っている。馬子にも衣装ってこのことか? なんか装備がモロに不相応。
 「何この人数!」と、ローゼが呆気にとられて呟いた。
 「僕は百人隊長だが、マフィアに声をかければ、千人くらいはすぐに集まるのさ」
 それよりこの懸崖、階段だけの一本道だぞ。どうやって上ってきたんだ?
 「ふっふっふっ。気がつかれずにここまで来られたことに驚いているのだろう。教えてやる。ばれないようにみんなして裏の崖を登って来たのだ」
 マジかよ。断崖絶壁の千メートルだぜ。
 「僕の命令に不可能はない」ルイス傲慢な高笑い。
 “命令に”、じゃなくて従った“野郎どもに”、だろ?
 「実際転落した者は、誰一人としていないのだ」
 最凶悪運どころじゃないよ。もう奇跡だよ。
 でもよく見ると、兵士しょぼい。安そうなファルシオンを装備している。幅広で打撃切断力が高いし安価だから素人向き。バックラーもめっちゃ小さい。貫頭衣と下体衣を着た軽装備の歩兵ばかり。農兵ですか? 剣術ギルドの生徒さん? 少なくとも正規兵には見えねーよ。すっげーケチだな。軍服ですらないなんて。兵にお金かけていないの丸わかり。
 「まあ、大将が馬に乗れないんだから、歩兵団なのはしかたがないかな?」とローゼ。
 ルイスは「それよりお前ら、なんだその態度は」と凄んだ。
 ローゼがみんなを見ると、なんかぴよぴよしている感じ。もう遊んでる。
 「だって話長いんですもん」とエミリア。うんうん、とアンドレイが頷く横で、いつの間にか捕まえてきたチンピラの肘にあった瘡蓋をちょっとずつ剥いていくオントワーン。
 あれ? パークだけが直立不動。何にもしていない。意外や意外。でもよく見たら、馬が馬糞するの待っている様子。
 「そうだ。馬! 馬どうやって登ってきたの?」ローゼが急かすようにルイスに訊いた。
 「馬? 馬はカモシカの親戚みたいなものだからな。断崖絶壁程度わけないさ」
 いや、わけあり過ぎだろ。ムチ叩かれて嫌々登らされてるじゃんよ。
 「だが、死んだ馬は一頭もいない。まあ、僕の一頭だけだがな」
 なら、別に馬いらなかったんじゃね?
 「いや、お前たちにフル装備した僕の愛馬を見せてやりたくてね」
 馬可哀想だから、普通に見せてよ。
 あんまりしつこくつっこむものだから、ついに怒ったルイス、「もう少し慇懃無礼さを持ったらどうだ」と叫び飛ばす。
 それ望んで得るものと違うんじゃね?
 オントワーンが答えて言う。 
 「ふ、面白い。受けてやろ、インキンプレイとやらを‼」
 跪いて上着を女の子脱ぎ。両手をクロスさせて脱ぐやつね。
 「さぁ」とオントワーンが両手を広げて身構える。
 それが合図となって戦闘開始。たった百人足らずの、しかも主力がほぼいない(三人以外の“牙”夏休み中)悪魔牙団相手に、千人ちょっと(内九百人と少しがマフィア)の兵隊が襲い掛かってきた。
 その中で、微動だにせずお互いの陣からにらみ合うアンドレイとルイスの二人。
 先に口を開くはルイスの方。
 「はっはっはっ、たった百人程度でこの僕に勝てるとでも?」
 「数いりゃ良いってもんじゃないだろ? こちとら主力の“牙”四人もいるんだ。お前らなんぞに負けはせん」
 四人? 三人では?
 「ローゼ、お前も入ってんだよ」
 なんでだよ。
 「お前がエイドリアン倒しちゃうから一人たんなくなったんだよ」
 「いや――あれは……」
 「ほう」とルイスがローゼを見やってニヤリ。「お前も変態だったっていうことか」
 「やめてー‼‼‼ そんな恐ろしいこと言わないで~‼‼‼」
 ローゼは、ヘナヘナとへたり込んで頬に手をあてて首を横に振ってイヤイヤをする。
 「わたしだけはまともよー! そうじゃなかったら、何を軸にこの世界は成り立っているの? 身も蓋もないじゃなーい!」
 「まあまあ、ローゼさん、良いじゃないですか」とエミリアが慰める。「知ってましたよ、わたしは」
 ガーン!
 「嘘よー! 嘘と言ってー!」ローゼかぶりを激しく振るって、救いの言葉を求めて泣いた。
 「同じ匂いがしています」
 しばらくの間、ローゼとエミリアとの面白い紛擾が続きました。


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