DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第九十五話 セクシーは永遠に

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 🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡
  うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡
  うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼

 3人そろって、ローゼに向かって手招きしている。お誘いするかのようなウインク付きで。
 エミリアのやつ、行くとは思っていたけど何やってんだよ。

 「🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼
  はいローゼ」とバニーばばあが参加を促す。

 「🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼
  ローゼさん、早くこっちに」とアリアスが呼ぶと、

 「🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼
  さあ一緒に」とエミリアが叫ぶ。

 輝く汗を飛ばしながら、ローゼに迫っては離れを繰り返して踊り続ける。
 「いや、いかない! いかないよわたし!」と拒否るローゼ。なんかだんだんみんなが四等身に見えてきた。
 でもいつまで経ってもやめてくれない。ローゼがやるまでやめない気。「仕方がない」と言って、ローゼは渋々列の最後尾に向かった。
 四人ならんで、🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼 
 つっこみがいないからいつまでも続く、と思いきや、🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼 とみんなが言った瞬間、エミリアとアリアスが散り散りに逃げる。
 「え? え?」とおたおたするローゼめがけて、垂れたちちがすんごい勢いで襲ってきた。慌てて避けて尻もちつくローゼ、足の間にメイスみたいな一撃がドムッ、と落ちた。ちょっとしたクレーター。
 残念そうにバニーばばあが言う。
「なんじゃ、あたしの胸布団に包まってくれんのかの?」
 「包まるか! どあほー! 死んでしまうわ‼」
 「店に来る殿方たちは喜んで包まってくれるよ。気持ち良すぎて夢見心地、もう二度と目覚めんのよ」
 それ永眠って言いません?
 「残念なのは一見さんばかりで常連さんがいないことなんだけどねぇ」
 死んでんだよ。みんな来る以前に帰れてないよ。
 「ちょっとあたしのしわ加減を堪能しておーくれー」と、バニーばばあの二発目が迫る。
 「あわわわわ」と恐れをなして立てないローゼ、バタバタしながら後退り。
 「ローゼさん!」と叫んで助けに入ったアリアスに、振り回すちちが当たった。
 「アリアス!」とローゼが叫ぶ。
 「あいててて、大丈夫です」
 「良かった……」
 と思ったのも束の間、「ああっ! ああー!」と悲鳴をあげるアリアス。バニーばばあのしわの中に引きずり込まれていく。ローゼとエミリアがすぐさま駆け寄るが、引っ張り出せない。既に頭と右手のみ。どんだけ深いんだよ、ばばあのしわ。
 「アリアス、今助けるわ」と言うものの、ローゼの力では全く歯が立たず、ずぶずぶとアリアスは飲み込まれて、もはや手のひらだけしか残っていない。
 「もう放してくださいローゼさん」とエミリアが叫ぶ。「そうしないと、ローゼさんまで引き込まれてしまいますよ」
 かわいそうだが仕方がない。ローゼはエミリアの言う通り手を放し―――手を放し―――手を放し――……。仕切り直して手を放し―――……。 
 「そんなに強く手首押さえられたら放せないよ!」
 「テヘッ♡」と笑うエミリア。ローゼは慌てふためいて手を引くが、アリアスも指だけで頑張ってローゼの指を握って離さない。
 必死に振りほどいたローゼにエミリアが「そんなあからさまに見捨てなくても」とジトッと視線を送ると、「ほんに、ほんに」と頷くバニーばばあ。
 そんなにわたしが悪いのか?
 そうこうする間に「う、うううっ」と手が出てきた。
 「アリアス?」
 と、自ら出てきたアリアスのそばに駆け寄るローゼ。
 「あんた誰ー?」
 知らんおっさんが姿を現す。
 「いやー、快適だったな。朝日が眩しい」
 いや、今夜ですよ。
 「そうか、漆黒の闇の中に長いこといたから、ネオンが眩しいわい」
 そのやり取りの横で、まだ出てくる人人人。何人いんだよ。
 最初に出てきた男の顔を見て、バニーばばあが「ややっ」と叫んだ。「コーレウン王国のダニエル様では?」
 「おお、フランチェスカ、久しいのう。どれくらいぶりだ?」
 「二十年ぶりですよ」
 出てきた男たちは、服装からみんな貴族で間違いないだろう。お互いを見やって、顔の色つやについて語り合っている。ちなみに出てきた人たちを数えると、総勢八人。
 呆気にとられて眺めていたローゼに、一人の男が話しかけてきた。
 「何歳に見える?」
 「四十五歳」
 「おお、実年齢より若い」
 「何歳?」 
 「四十六歳」
 一歳だけじゃん。
 訊くと、長生き老婆と寝ると不老長寿になれる、という健康法が一時期流行ったらしい。
 「一歳若返るのがどれだけ大変なことか分からんのか?」と呆れる男。
 分かるけど、一歳のために費やした時間全部無駄じゃない? それなら二十年サプリ飲んでた方がまだ良かったのでは?
 「馬鹿者。魔法薬なんぞ信用できるか。古今東西不老長寿を謳った霊薬はたくさんあるが、本当に不老長寿になった者なんていないだろう」
 確かに。バンパイアなんかは除くけれど。そう言えば、猛毒の水銀だって不老長寿の薬って言われた時代があるらしい。
 エミリアが割って入って「そうですね、雑草持ってきて体に良いって食べさせる女もいましたしね」と当てこする。
 「わたしに毒盛ってたやつの言えること?」
 「毒じゃないですよ。死にませんもん。ただ――あっ。……」お口にチャック。
 人を不安にさせないで!
 ローゼ、気を取り直して「よく、二十年も生きていましたね。何食べていたんですか?」と、シワから出てきた貴族に訊いた。
 「垢」
 訊かなきゃ良かった。
 「それじゃあ、フランチェスカ、我々は国に帰るよ。若さを手土産にね」
 老いたよ。十分老いたよ。もう死んだこととして処理されてるんじゃね? いまさら帰られても相続人大迷惑。
 「また来てくださるかしら」とみんなの後ろ髪を引くバニーばばあ。
 「ああ、また来るさ」
 「嬉しー、最後にサービスしちゃうよー」
 そう言ったバニーばばあ、ちちをブンブン振るってセクシーダンス。それにつられて踊り出す男たちに向かって、最後に胸布団のお土産をあげた。
 「むぎゅー」と潰れる悲鳴が聞こえる。
 「あら、みんな気持ち良すぎて寝てしまったね」とバニーばばあ。
 だからそれ永眠だって。
 仕方がないのでバニーばばあ、「ちょっとみんな、埋める手伝っておくれ」とローゼたちを呼ぶ。
 死んだって分かってんじゃないの? 


 
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