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第八十話 もしローゼが霊力使えたら……
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顔面蒼白のエミリア。
「なんですか! ローゼさんいきなりそんな技使えるようになって……」
たった一発でヨロヨロのエミリア。敗北必死。今度はエミリアが防戦一方。連発されるソードウェーブに前進を阻まれて、ローゼに近づけない。
普通、霊力を扱うのは霊能者や魔導士だというイメージがあるが、そもそも霊力は生きとし生ける者誰にでもある。特に肉体を持たない神・魔と敵対する物質世界の人間は、霊力を扱って戦わないと、彼らには勝てない。そのため、法術などを使わない者たちも霊力を扱う訓練をしている。当然ローゼにも霊力はあるのだが、使える使えないは才能次第。要はローゼにその才能がないのだ。
霊力は肉体に宿る魂から溢れる力なのだが、普通はそのままでは使えない。霊力を媒体として魔力や神力を集めて魔術や神術として使うか、霊剣などに注ぎ込んで放つしか出来ない。だから、エミリアほど才能あふれる訓練された空手家でさえ、有り余る霊力を放てるのは、体から十センチ二十センチ程度しかないのだ。
例外はカトワーズのようなエスパーだが、あれは魔術や神術と原理は同じ。自らの霊力を媒体としてサイコエネルギーに変換して放出する技。サイコラーク人特有のものなのか、何か特別な技法があるのかは分からない。
「あ、あれ?」と言ってよろめき、ローゼは攻撃の手を休めた。
攻めたてていたはずのローゼの息が上がっている。
「そうか、ソードウェーブを使った分、わたしの霊力が吸われているのね。それなら、わたしのじゃなくて、エミリアのを吸わせないと」
そう言って、ローゼは腰の右側に剣をすえるプフルークの構えで、エミリアににじり寄る。
すると、エミリアが責め立てるように早口でまくしたて出す。
「あーあ、そんなことするんですか? ローゼさん。わたしたちお友だちじゃないですかー」
「そうね、そうね、お友だちなら、ちょーっと斬られてくれても良いんじゃない?」
「良いわけないじゃないですか」
「大丈夫よ。この剣の模様として、霊力が尽きるまで生きていける――かもしれないから」
「なんですか、その“もしかしたら論”。ぜっんぜん当てになりそうもないですよ!」
「エミリア、あなたの死は無駄にはしないわ。あなたの命を使って、あの竜殺紳士も殺してあげるから」
そう言いながらじりじりとにじり寄るローゼに、エミリアが泣き叫ぶ。
「“死”ってなんですか‼ “死”って‼」
堪らずエミリアは右上段蹴りを放つ。それをクルンプハウ(横に扇ぐような斬撃)で弾いて、そのままシェルハウ(側面から縦斬り)で顔面を襲う。
ギリギリよけたが、手合せしてエミリアは気がついた。星屑の剣の実力がすごすぎて、身にまとう霊気では斬撃をガードしきれない。
「ひぇぇぇぇ~」と泣き叫びながら、ローゼの猛進を阻もうともう必死。
ローゼは切っ先をロックオンしたまま、エミリアの左パンチに対してグリップをひねってアブゼッセンシュテッヒェン(刺突の一種)で迎え撃つ。身をかわすエミリアを追って前進し、そのまま刺突。左右から繰り出される殴る蹴るの連打を、アブゼッセンシュテッヒェンとクルンプハウで弾きながら刺突を繰り返す。ナーハレーゼン(相手のステップを模倣して)で放たれる一撃一撃に小さなソードウェーブが伴うから、エミリア幾度も直撃もう瀕死。突きの軌道に応じて、矢じり状だったり渦巻き状だったり、と形も変わる。
マンネリ攻撃に慣らせておいて、フェイントをかけて脳天をかち割るシェイテルハウ(剣道の面に似ている)。上体を反らしたエミリア、からくも避けるが下半身がついていかない。それを見逃さないローゼ、深く踏み込んでシェイテルハウをもう一撃。
「本気で死ぬー」と泣き叫んで、エミリア思わず真剣白刃取り。「ぎゃー、なんか霊力吸われてるー」
「わははははー」と笑うローゼ。ここで動けないまでにエミリアを弱らせてトンズラしよう、と本気で思っていた。しかしローゼ、詰めが甘い。接近戦になれば、空手家のエミリアの方が有利なの誰でも分かる。
エミリアの顔面に前蹴りをかましてそのまま踏みつけ、頭に刃を押し込もうとするが、逆にみぞおちに膝蹴りを受けて、上体を下げたところを流れ技でくるりと投げ飛ばされた(巴投げ)。ようやくエミリアの反撃開始。霊力の扱いになれていないローゼに、霊力合戦は分が悪かった。尋常じゃない疲れがどっと溢れてきて、またも防戦一方になった。
「もう良いわ、とりあえず逃げるが勝ち」ローゼはそう言って、壁を破壊するほどのエミリアの『パワーナックル』もどきを掻い潜りつつ、出口の窓を探す。
ここは決戦を避けて、星屑の剣を戦利品に国に帰ろう。刀剣市なんてもう興味ない。だって、これ以上の剣があるわけないもん。
「わたし今日から星屑の剣士ローゼリッタ・クラインワルツ。もうレイピア使いやめました☆」
したり顔でそう言って窓の外を見やると、下には仁王立ちの竜殺紳士。
「ぎゃ、やば、忘れてた」と叫んで、ローゼが今生最大のため息交を吐く。
竜殺紳士が「エミリア」と叫んだ。「ここは私に任せなさい。もし逃げるようなら、背中から殴り殺してしまえ」
「はいっ」
お前連携してたのかよ。
「こっちに逃がせって言われてたんです」
「エミリアっ、このっ裏切り者ー」
「だって、変態をしばき回るなんて面白おかしい旅からわたしを排除するなんて、わたし許せませんもん」
排除しないよ。あんた残して自分自身を排除だよ。
「ローゼさんには、才能があると思うんです」
突然しんみりしたエミリアが言った。
「才能? 何の才能?」ローゼが訊く。
「ヒロインとしてのですよ。わたしずっと羨んでいたんですよ。ヒロインの座じゃなくて、ヒロインとしてのローゼさんの才能に――です」
「エミリア……」
「あらすじには“主人公以外変態しか出てきません”って書いてあるから、ローゼさんはノーマルだって勘違いされてますけど、実際隠れ変態ですよね」
なんじゃそりゃ?
「何が変態かって、変態を寄せ付けるフェロモンを出しているじゃないですか」
出してねーよ。
「ローゼさんのツッコミがあるから、変態たちが引き立つんです。わたしの変態を引き出したのもローゼさんですよ」
自分で変態って言っちゃってるよ。ていうか、引き出したのセシュターズですよね? わたし関係ないですよ。
「なんか、褒められているようで、全然嬉しくないことしか言われていないんですけど」
ローゼはとても複雑な気持ちになった。
「なんですか! ローゼさんいきなりそんな技使えるようになって……」
たった一発でヨロヨロのエミリア。敗北必死。今度はエミリアが防戦一方。連発されるソードウェーブに前進を阻まれて、ローゼに近づけない。
普通、霊力を扱うのは霊能者や魔導士だというイメージがあるが、そもそも霊力は生きとし生ける者誰にでもある。特に肉体を持たない神・魔と敵対する物質世界の人間は、霊力を扱って戦わないと、彼らには勝てない。そのため、法術などを使わない者たちも霊力を扱う訓練をしている。当然ローゼにも霊力はあるのだが、使える使えないは才能次第。要はローゼにその才能がないのだ。
霊力は肉体に宿る魂から溢れる力なのだが、普通はそのままでは使えない。霊力を媒体として魔力や神力を集めて魔術や神術として使うか、霊剣などに注ぎ込んで放つしか出来ない。だから、エミリアほど才能あふれる訓練された空手家でさえ、有り余る霊力を放てるのは、体から十センチ二十センチ程度しかないのだ。
例外はカトワーズのようなエスパーだが、あれは魔術や神術と原理は同じ。自らの霊力を媒体としてサイコエネルギーに変換して放出する技。サイコラーク人特有のものなのか、何か特別な技法があるのかは分からない。
「あ、あれ?」と言ってよろめき、ローゼは攻撃の手を休めた。
攻めたてていたはずのローゼの息が上がっている。
「そうか、ソードウェーブを使った分、わたしの霊力が吸われているのね。それなら、わたしのじゃなくて、エミリアのを吸わせないと」
そう言って、ローゼは腰の右側に剣をすえるプフルークの構えで、エミリアににじり寄る。
すると、エミリアが責め立てるように早口でまくしたて出す。
「あーあ、そんなことするんですか? ローゼさん。わたしたちお友だちじゃないですかー」
「そうね、そうね、お友だちなら、ちょーっと斬られてくれても良いんじゃない?」
「良いわけないじゃないですか」
「大丈夫よ。この剣の模様として、霊力が尽きるまで生きていける――かもしれないから」
「なんですか、その“もしかしたら論”。ぜっんぜん当てになりそうもないですよ!」
「エミリア、あなたの死は無駄にはしないわ。あなたの命を使って、あの竜殺紳士も殺してあげるから」
そう言いながらじりじりとにじり寄るローゼに、エミリアが泣き叫ぶ。
「“死”ってなんですか‼ “死”って‼」
堪らずエミリアは右上段蹴りを放つ。それをクルンプハウ(横に扇ぐような斬撃)で弾いて、そのままシェルハウ(側面から縦斬り)で顔面を襲う。
ギリギリよけたが、手合せしてエミリアは気がついた。星屑の剣の実力がすごすぎて、身にまとう霊気では斬撃をガードしきれない。
「ひぇぇぇぇ~」と泣き叫びながら、ローゼの猛進を阻もうともう必死。
ローゼは切っ先をロックオンしたまま、エミリアの左パンチに対してグリップをひねってアブゼッセンシュテッヒェン(刺突の一種)で迎え撃つ。身をかわすエミリアを追って前進し、そのまま刺突。左右から繰り出される殴る蹴るの連打を、アブゼッセンシュテッヒェンとクルンプハウで弾きながら刺突を繰り返す。ナーハレーゼン(相手のステップを模倣して)で放たれる一撃一撃に小さなソードウェーブが伴うから、エミリア幾度も直撃もう瀕死。突きの軌道に応じて、矢じり状だったり渦巻き状だったり、と形も変わる。
マンネリ攻撃に慣らせておいて、フェイントをかけて脳天をかち割るシェイテルハウ(剣道の面に似ている)。上体を反らしたエミリア、からくも避けるが下半身がついていかない。それを見逃さないローゼ、深く踏み込んでシェイテルハウをもう一撃。
「本気で死ぬー」と泣き叫んで、エミリア思わず真剣白刃取り。「ぎゃー、なんか霊力吸われてるー」
「わははははー」と笑うローゼ。ここで動けないまでにエミリアを弱らせてトンズラしよう、と本気で思っていた。しかしローゼ、詰めが甘い。接近戦になれば、空手家のエミリアの方が有利なの誰でも分かる。
エミリアの顔面に前蹴りをかましてそのまま踏みつけ、頭に刃を押し込もうとするが、逆にみぞおちに膝蹴りを受けて、上体を下げたところを流れ技でくるりと投げ飛ばされた(巴投げ)。ようやくエミリアの反撃開始。霊力の扱いになれていないローゼに、霊力合戦は分が悪かった。尋常じゃない疲れがどっと溢れてきて、またも防戦一方になった。
「もう良いわ、とりあえず逃げるが勝ち」ローゼはそう言って、壁を破壊するほどのエミリアの『パワーナックル』もどきを掻い潜りつつ、出口の窓を探す。
ここは決戦を避けて、星屑の剣を戦利品に国に帰ろう。刀剣市なんてもう興味ない。だって、これ以上の剣があるわけないもん。
「わたし今日から星屑の剣士ローゼリッタ・クラインワルツ。もうレイピア使いやめました☆」
したり顔でそう言って窓の外を見やると、下には仁王立ちの竜殺紳士。
「ぎゃ、やば、忘れてた」と叫んで、ローゼが今生最大のため息交を吐く。
竜殺紳士が「エミリア」と叫んだ。「ここは私に任せなさい。もし逃げるようなら、背中から殴り殺してしまえ」
「はいっ」
お前連携してたのかよ。
「こっちに逃がせって言われてたんです」
「エミリアっ、このっ裏切り者ー」
「だって、変態をしばき回るなんて面白おかしい旅からわたしを排除するなんて、わたし許せませんもん」
排除しないよ。あんた残して自分自身を排除だよ。
「ローゼさんには、才能があると思うんです」
突然しんみりしたエミリアが言った。
「才能? 何の才能?」ローゼが訊く。
「ヒロインとしてのですよ。わたしずっと羨んでいたんですよ。ヒロインの座じゃなくて、ヒロインとしてのローゼさんの才能に――です」
「エミリア……」
「あらすじには“主人公以外変態しか出てきません”って書いてあるから、ローゼさんはノーマルだって勘違いされてますけど、実際隠れ変態ですよね」
なんじゃそりゃ?
「何が変態かって、変態を寄せ付けるフェロモンを出しているじゃないですか」
出してねーよ。
「ローゼさんのツッコミがあるから、変態たちが引き立つんです。わたしの変態を引き出したのもローゼさんですよ」
自分で変態って言っちゃってるよ。ていうか、引き出したのセシュターズですよね? わたし関係ないですよ。
「なんか、褒められているようで、全然嬉しくないことしか言われていないんですけど」
ローゼはとても複雑な気持ちになった。
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