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第七十七話 竜殺紳士ができるまで
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いろいろ説明してツノぱんつを薦めてくる竜殺紳士とエミリア。のらりくらり、と断っているローゼに向かって、二人して言い放つ。
「お前さん(ローゼさん)、いつまで不謹慎な格好をしているのだ(のよ)」※カッコ内はエミリア。
いや、不謹慎てどの口が言うの? とんがりパンツ穿かせたあんたが不謹慎。
「ローゼさん、どうしてわたしにつっこまないんですか⁉」エミリアが叫ぶ。
まあ、いつものことじゃんか。諦めましたよ、もうわたしは。
竜殺紳士が咳ばらいをした。
「まあ良い、お嬢さん方、二人に合う竜のツノのちちバンドを作ってあげよう」
エミリア「ええっ? わたしはいいですよぅ」と慌てて断る。
何だよちちバンドって、いつの時代の言葉だよ。
「それ、ポロシャツと下着を脱ぎなさい」
剣を下ろして、右下段に構える竜殺紳士がにじり寄る。慌ててレイピアを抜いたローゼは、上段で剣を突きだしたユニコーン。
竜殺紳士のリーチを考えると、間合いを確保するにはこれしかない。人間の体の構造上、肩の高さで腕をつきだした時が、一番リーチが長いのだ。
それでもなお凄いプレッシャーをローゼは感じていた。ローゼにとっても竜殺紳士にとっても結構なアウトレンジ(攻撃域範囲外)のはずだが、感じる威圧感は、ゼロレンジ(手が届く距離)と言っても過言ではない。
恐ろしいのはその目力の内にある。脱がそうとする竜殺紳士の眼差しは真剣そのもの。そこにはエロさの欠片微塵もない。
ローゼは戦うのを躊躇していた。鉄のレイピアでドラゴンキラーとまともにやり合うのは分が悪い。
だが、考える間を与えずに、竜殺紳士が飛び込んでくる。天を突く様な右フォムタークの構えから左に振り上げたかと思った瞬間、わきを締めて剣の位置を低くして半円を描く様にシェルハウ(斬撃の一種)を放つ。
間合いが遠く、ローゼのだいぶ手前で空を切ったドラゴンキラーは、そのまま地面に突き刺さった。それを棒高跳びの棒代わりにして飛び上がった竜頃紳士、股を広げて股間のとんがりで、ローゼを刺殺しにかかる。
「うひゃ」と叫んだローゼ、迎撃も忘れて回避した。
「ちょこまかとっ――」
反転しながら着地した竜殺紳士は、そのまま飛び上がってから剣を振り下ろす。やっぱり、ローゼのだいぶ手前で地面に突き刺さる。その勢いで前転して、またも股を広げて股間のとんがりでローゼに襲い掛かった。
視界いっぱいすんげー光景。大股開いて股間から突っ込んでくる中年男、もう忘れらんない。
ある意味恐ろしい攻撃だが、どういうことだろう。一向にドラゴンキラーでは攻撃してこない。切れ味良さそうな刃の光沢を見る限り、なまくらのようには見受けられない。
その時、エミリアが叫んだ。
「ローゼさん、気を付けてください。変な攻撃に気を取られていると、あの大きな剣に斬られてしまいます!」
「分かっているわ」と返すローゼに、竜殺紳士が笑って言った。
「人間如きに、私が作った大事なドラゴンキラーを使うわけないだろう。ドラゴンキラーはドラゴンを殺すために存在するのだ」
「? でも、人さらう時斬り殺したって聞いてますけど?」
「あれは、ただの剣だったから良いの」
良いわけあるかよ。命奪って何言ってんの?
「ローゼさん」と再びエミリアが口を開く。
「あの剣とても重そうですよ。今の攻撃はとても遅くて避けやすいですけれど、もしあの剣を捨てたら、とても速くなりますから気を付けてください」
分かっているよ。分かっててつっこまなかったんだよ、“持ってる意味ないじゃん”って。“いま教えたのワザとだろ?”と言った目でローゼが見やると、「てへっ」と舌を出して笑うエミリア。
「あ、確かに」と呟いてドラゴンキラーを投げ捨てる竜殺紳士。気がついてなかったのね。ほんとやってくれたわエミリアのヤツ。
竜殺紳士、こんどはレスリングの構えでローゼに対峙。さっきの構えを見る限り、剣術の実力は相当なはず。当然格闘術も並ではないだろう。
正直言ってローゼは足元にも及ばない、と察していた。
考えてみると、人一人が中に入ることが出来るほどの大きなツノが生えているドラゴンってことは、相当だよ? パークが倒したグリーンドラゴンどころじゃないよ。二倍? 三倍? は絶対あるよ。そしたら全長六十メートル級? 並の人間が戦える相手じゃございません。
でもだけれども、何故ドラゴンのツノのパンツに固執するの?
「よくぞ訊いてくれた」と語り出す竜殺紳士。
訊ーてねーよ。
かまわず話す竜殺紳士。
「それは、我が息子のためなのだ。我が息子の行く末を案じて作っているのだ」
行く末案じるなら、作ってやるなよ。
「あれは忘れもしない十三年前。私は娘と一緒にお風呂に入っていた時のことだ。娘は私のおちんちんが大好きでな。一緒にお風呂に入ると、『ぞーさん、ぞーさん』と言っていつも皮をつまんで引っ張っていたんだ」
おもむろに瞳を閉じる竜殺紳士。思い出の中に瞬間没頭。「ぎゃー」という悲鳴から映像スタート。回想シーンもう悲惨。「やめろー! やめてくれー!」と泣き叫ぶ湯気に隠れたパパの股間の皮を鷲掴みにして、力いっぱい引っ張って遊ぶ娘が「キャッキャ」と騒いでいる。
「それが原因で、皮かむりになってしまったんだー」
人目も気にせず咽び泣いて叫ぶ竜殺紳士。
「それで、私は決意したんだ。バカ力な娘から我が息子を守ってやるために、強靭なパールカップを作ろってやろう、とな。そして、鉄よりも固いと言われる竜のツノを使うに至ったというわけだ」
息子てそっちの息子ね。結果がとんがりパンツ?
「うむ、これはブラックドラゴンのツノなのだ」
「ブラックドラゴン?」
ローゼは驚愕した。
「冗談でしょ? ドラゴンの中でもトップクラスの凶暴なやつじゃない。昔話にしか出てこないプラチナドラゴンとダークドラゴンを除けば、ゴールデンドラゴンとシルバードラゴンと並ぶ三大ドラゴンじゃん」
さすがに嘘だとローゼは思った。
「娘相手にそりゃないでしょ」
「私も初めはそうだと思った。だから、リザードマンの皮やら、カメの甲羅やら、こんにゃくやら色々試した。高名な魔導士を脅して皮膚の硬いキメラを作らせたが、全部だめだったんだ。
果ては野良天使を捕まえて封じたパールカップまで作ったのだが、それも砕かれてしまった」
握りつぶしたのかよ、すんげー腕力。てかいるんだ? 野良天使って。自ら堕天したか罪を犯して放逐された天使らしい。○金ガードにしちゃうなんてなんてもったいない。
最下位のエンジェルとはいえ相当な神防具なはずだけど、なんか欲しいって思えない。
竜殺紳士は、思い出に感無量の様子で言う。
「それで私は確信したんだ。娘は将来何人もの男を手籠めにする美魔女になる、とな」
「なんて、壮大なストーリーでしょう」とエミリアが食いついた。
感慨深くエミリアが続ける。
「何かを生み出すには、生みの苦しみがつきものなんです。幾多の困難を越えた者だけが成功を手にするんですよ」と真剣に言う。「そして、誕生したのがとんがりおパンツというわけですね?」と感嘆した。
「その通りだ」と、竜殺紳士が深く頷く。
「大変ご苦労様でした。でもひどい娘もいるものですね」と竜頃紳士に同情するエミリア。「お父さんの皮を引っ張るなんて、娘の風上には置けません」
ていうか、まだ一緒にお風呂入っているって、めっちゃ仲良い親子じゃんか。
「いや、最近は入っていない」
ローゼが呆気にとられて言った。
「へ? じゃあ、とんがりパンツ必要ないじゃん」
「実はな――」と続ける竜殺紳士。「娘と約束したことがあるんだ。娘が結婚する時、一緒にお風呂に入る約束があるんだよ」
何だよそれ
「えー良いお話じゃないですかぁ」と共感するエミリア。
そうだけど、二人を隔てるとんがりパンツ。
竜殺紳士は、ローゼに縷々として説明する。
「最後にお風呂に入った三歳児時点で、父親が抵抗できないくらいの超男泣かせっ子だったんだぞ。成長した娘の男の尊厳を踏みにじる力がいかばかりかと考えると、とんがりパンツはまだ未完成だ」
ツノ切って穿いただけなのでは?
「いや、加工しようにも、普通これより強いものなんてできなくね?」と投げやり紳士。
つーか、そもそも、それならとんがり兵なんていらないのでは?
「いや、いつか起こるであろう対神魔戦争で人類が滅んだ時に、娘だけは助けてやろう、と思ってな」
すんげー個人的な理由でハルマゲドン生き残る気でいるんだな……。
「お前さん(ローゼさん)、いつまで不謹慎な格好をしているのだ(のよ)」※カッコ内はエミリア。
いや、不謹慎てどの口が言うの? とんがりパンツ穿かせたあんたが不謹慎。
「ローゼさん、どうしてわたしにつっこまないんですか⁉」エミリアが叫ぶ。
まあ、いつものことじゃんか。諦めましたよ、もうわたしは。
竜殺紳士が咳ばらいをした。
「まあ良い、お嬢さん方、二人に合う竜のツノのちちバンドを作ってあげよう」
エミリア「ええっ? わたしはいいですよぅ」と慌てて断る。
何だよちちバンドって、いつの時代の言葉だよ。
「それ、ポロシャツと下着を脱ぎなさい」
剣を下ろして、右下段に構える竜殺紳士がにじり寄る。慌ててレイピアを抜いたローゼは、上段で剣を突きだしたユニコーン。
竜殺紳士のリーチを考えると、間合いを確保するにはこれしかない。人間の体の構造上、肩の高さで腕をつきだした時が、一番リーチが長いのだ。
それでもなお凄いプレッシャーをローゼは感じていた。ローゼにとっても竜殺紳士にとっても結構なアウトレンジ(攻撃域範囲外)のはずだが、感じる威圧感は、ゼロレンジ(手が届く距離)と言っても過言ではない。
恐ろしいのはその目力の内にある。脱がそうとする竜殺紳士の眼差しは真剣そのもの。そこにはエロさの欠片微塵もない。
ローゼは戦うのを躊躇していた。鉄のレイピアでドラゴンキラーとまともにやり合うのは分が悪い。
だが、考える間を与えずに、竜殺紳士が飛び込んでくる。天を突く様な右フォムタークの構えから左に振り上げたかと思った瞬間、わきを締めて剣の位置を低くして半円を描く様にシェルハウ(斬撃の一種)を放つ。
間合いが遠く、ローゼのだいぶ手前で空を切ったドラゴンキラーは、そのまま地面に突き刺さった。それを棒高跳びの棒代わりにして飛び上がった竜頃紳士、股を広げて股間のとんがりで、ローゼを刺殺しにかかる。
「うひゃ」と叫んだローゼ、迎撃も忘れて回避した。
「ちょこまかとっ――」
反転しながら着地した竜殺紳士は、そのまま飛び上がってから剣を振り下ろす。やっぱり、ローゼのだいぶ手前で地面に突き刺さる。その勢いで前転して、またも股を広げて股間のとんがりでローゼに襲い掛かった。
視界いっぱいすんげー光景。大股開いて股間から突っ込んでくる中年男、もう忘れらんない。
ある意味恐ろしい攻撃だが、どういうことだろう。一向にドラゴンキラーでは攻撃してこない。切れ味良さそうな刃の光沢を見る限り、なまくらのようには見受けられない。
その時、エミリアが叫んだ。
「ローゼさん、気を付けてください。変な攻撃に気を取られていると、あの大きな剣に斬られてしまいます!」
「分かっているわ」と返すローゼに、竜殺紳士が笑って言った。
「人間如きに、私が作った大事なドラゴンキラーを使うわけないだろう。ドラゴンキラーはドラゴンを殺すために存在するのだ」
「? でも、人さらう時斬り殺したって聞いてますけど?」
「あれは、ただの剣だったから良いの」
良いわけあるかよ。命奪って何言ってんの?
「ローゼさん」と再びエミリアが口を開く。
「あの剣とても重そうですよ。今の攻撃はとても遅くて避けやすいですけれど、もしあの剣を捨てたら、とても速くなりますから気を付けてください」
分かっているよ。分かっててつっこまなかったんだよ、“持ってる意味ないじゃん”って。“いま教えたのワザとだろ?”と言った目でローゼが見やると、「てへっ」と舌を出して笑うエミリア。
「あ、確かに」と呟いてドラゴンキラーを投げ捨てる竜殺紳士。気がついてなかったのね。ほんとやってくれたわエミリアのヤツ。
竜殺紳士、こんどはレスリングの構えでローゼに対峙。さっきの構えを見る限り、剣術の実力は相当なはず。当然格闘術も並ではないだろう。
正直言ってローゼは足元にも及ばない、と察していた。
考えてみると、人一人が中に入ることが出来るほどの大きなツノが生えているドラゴンってことは、相当だよ? パークが倒したグリーンドラゴンどころじゃないよ。二倍? 三倍? は絶対あるよ。そしたら全長六十メートル級? 並の人間が戦える相手じゃございません。
でもだけれども、何故ドラゴンのツノのパンツに固執するの?
「よくぞ訊いてくれた」と語り出す竜殺紳士。
訊ーてねーよ。
かまわず話す竜殺紳士。
「それは、我が息子のためなのだ。我が息子の行く末を案じて作っているのだ」
行く末案じるなら、作ってやるなよ。
「あれは忘れもしない十三年前。私は娘と一緒にお風呂に入っていた時のことだ。娘は私のおちんちんが大好きでな。一緒にお風呂に入ると、『ぞーさん、ぞーさん』と言っていつも皮をつまんで引っ張っていたんだ」
おもむろに瞳を閉じる竜殺紳士。思い出の中に瞬間没頭。「ぎゃー」という悲鳴から映像スタート。回想シーンもう悲惨。「やめろー! やめてくれー!」と泣き叫ぶ湯気に隠れたパパの股間の皮を鷲掴みにして、力いっぱい引っ張って遊ぶ娘が「キャッキャ」と騒いでいる。
「それが原因で、皮かむりになってしまったんだー」
人目も気にせず咽び泣いて叫ぶ竜殺紳士。
「それで、私は決意したんだ。バカ力な娘から我が息子を守ってやるために、強靭なパールカップを作ろってやろう、とな。そして、鉄よりも固いと言われる竜のツノを使うに至ったというわけだ」
息子てそっちの息子ね。結果がとんがりパンツ?
「うむ、これはブラックドラゴンのツノなのだ」
「ブラックドラゴン?」
ローゼは驚愕した。
「冗談でしょ? ドラゴンの中でもトップクラスの凶暴なやつじゃない。昔話にしか出てこないプラチナドラゴンとダークドラゴンを除けば、ゴールデンドラゴンとシルバードラゴンと並ぶ三大ドラゴンじゃん」
さすがに嘘だとローゼは思った。
「娘相手にそりゃないでしょ」
「私も初めはそうだと思った。だから、リザードマンの皮やら、カメの甲羅やら、こんにゃくやら色々試した。高名な魔導士を脅して皮膚の硬いキメラを作らせたが、全部だめだったんだ。
果ては野良天使を捕まえて封じたパールカップまで作ったのだが、それも砕かれてしまった」
握りつぶしたのかよ、すんげー腕力。てかいるんだ? 野良天使って。自ら堕天したか罪を犯して放逐された天使らしい。○金ガードにしちゃうなんてなんてもったいない。
最下位のエンジェルとはいえ相当な神防具なはずだけど、なんか欲しいって思えない。
竜殺紳士は、思い出に感無量の様子で言う。
「それで私は確信したんだ。娘は将来何人もの男を手籠めにする美魔女になる、とな」
「なんて、壮大なストーリーでしょう」とエミリアが食いついた。
感慨深くエミリアが続ける。
「何かを生み出すには、生みの苦しみがつきものなんです。幾多の困難を越えた者だけが成功を手にするんですよ」と真剣に言う。「そして、誕生したのがとんがりおパンツというわけですね?」と感嘆した。
「その通りだ」と、竜殺紳士が深く頷く。
「大変ご苦労様でした。でもひどい娘もいるものですね」と竜頃紳士に同情するエミリア。「お父さんの皮を引っ張るなんて、娘の風上には置けません」
ていうか、まだ一緒にお風呂入っているって、めっちゃ仲良い親子じゃんか。
「いや、最近は入っていない」
ローゼが呆気にとられて言った。
「へ? じゃあ、とんがりパンツ必要ないじゃん」
「実はな――」と続ける竜殺紳士。「娘と約束したことがあるんだ。娘が結婚する時、一緒にお風呂に入る約束があるんだよ」
何だよそれ
「えー良いお話じゃないですかぁ」と共感するエミリア。
そうだけど、二人を隔てるとんがりパンツ。
竜殺紳士は、ローゼに縷々として説明する。
「最後にお風呂に入った三歳児時点で、父親が抵抗できないくらいの超男泣かせっ子だったんだぞ。成長した娘の男の尊厳を踏みにじる力がいかばかりかと考えると、とんがりパンツはまだ未完成だ」
ツノ切って穿いただけなのでは?
「いや、加工しようにも、普通これより強いものなんてできなくね?」と投げやり紳士。
つーか、そもそも、それならとんがり兵なんていらないのでは?
「いや、いつか起こるであろう対神魔戦争で人類が滅んだ時に、娘だけは助けてやろう、と思ってな」
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