DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第七十三話 殴りあって夕日に向かって走り出すのが定番ですが……

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 「まあ、一番美味いのは、サーロインかフィレだろう」とパークがドラゴンの腹をパンパン、と叩いた。
 「ここは、一時休戦ね」とカバ美が言う。
 何だよ休戦て。
 バーベキューの準備はすごく楽しい。がやがや賑やか。女の子ばかりだから、お肉を斬るのはパークの手刀(足刀)に任せて、ローゼたちは薪を集めて串(枝)や食器(平たい石)を並べていく。
 「あれ? エミリアは?」
 ローゼが声のするほうを見ると、「セイヤー、セイヤー」とドラゴンを殴る蹴るのやりたい放題。お肉を柔らかくしているらしい。なんて雄々しいことでしょう。
 ローゼのもとへ来たエミリア「これで歯無し老人でも啜れますよ」
 どんだけジェルってんだよ。ジパングのシャリアピンステーキ超えてんじゃん。
 さあ、後はお肉が届くのを待つばかり。ゴリ子が持ってきた丸太に腰を下ろして、ローゼたちの談笑が始まる。
 肉を切るパークがよそ見している間に、ゴリ子が棍棒を振りかざして、渾身の力で振りぬく。超殺意。しかも致命打。素人なのにとんでもない。
 エミリアが割って入って正拳突き5,6発。こぶしと棍棒ぶつかってはじけ合う。
 そこから更に渾身の致命打を撃ち放つゴリ子、それをエミリアが受け止めて力比べ。
 それを見たパークが声を荒げた。
 「ゴリ子! 何やっているんだ。まさかローゼリッタのことを⁉」
 「違うわ」
 違うことないだろう? 
 「……」
 表情を歪めるゴリ子は答えない。だが、しばらくパークに問い詰められて観念したのか、恐る恐る口を開く。
 「わたし怖かったの。パークが捕られちゃうんじゃないかって。だから、落ちていた小枝で思わず……。でも信じて、少し懲らしめたかっただけなの」
 パークは「何だぁ、そうだったのか、可愛いヤツだなコイツー」と、ゴリ子をツンツンする。
 「やだー」
 赤く染めた頬に両手をあてがい、フリフリホーズ。いやよいやよもしての内。
 なんで言いくるめられたの? 結局言い訳内容叩きのめす気違わないじゃん。
 振り返ったパーク「そう言うことだ。一回で気が済むって言うんだから、小枝くらい良いだろ?」
 いいわけねーだろ! 小枝じゃねーよそれ、思いっきり幹ですよね。一番太い先の方、わたしのふくらはぎより太いんですけど?
 「ステーキは叩くと柔らかくなるのよ」ゴリ子にっこり。
 爽やかに理由すり替えんなよ。ジェルった肉これ以上どうする気だよ。
 「すり替えてなんかいないわ。だってドラゴンの肉のことじゃなんだから」
 「落ちてた小枝くらいでビビんなよ」とパークが被せる。
 なに信じてんだよ! てかつっこみ一個とばされたよ。思いっきり仕込んでたやつじゃんよ? 落ちてた自然の状態と違いますよね? 想いっきり整形してるじゃないですか? 持ちやすいようにグリップ細くして、打撃力上げるために先太くなってますよね? 
 「女の子にとって、樹海の中を歩くのはとても大変なのよ? 杖くらい持ってくるわよ」
 樹海の中に住んでいるようなゴリラが言うことか!
 「でも良い木だな、何の木だ?」と棍棒を高々と振り上げて見上げ、パークが感心する。
 「うふっ、アオダモよ♡」
 バットの木ですよね? それ、通称バットの木ですよね?
 パークの瞳が煌めいた。
 「さすがゴリ子。ソフトボール部でホームラン打者だっただけのことあるな」
 今、回想で打った球、砲丸でしたよね? 四キロって書いてあったんですけど。 ハードボール明らかじゃんか! ギガハードボールだよ。 しかもそれで破損しない棍棒ってどんなだよ? 
 ゴリ子振り返る青春の日々。
 「中高六年間信じて振るい続けたわたしの相棒。でもこれが最後の一振り思い出作り。わたしの青春完結編」
 「わたしの頭花火にする気ですか?」
 「ううん、スイカよ」
 割る気満々?
 「わたしローゼさんと仲良くなりたいのよ。でもわだかまりを無くすためには、“ポコリ”としないと仕切り直せないでしょ?」
 “ドグジャリ”の間違いでは?
 「素手でも良いのよ?」
 良いわけないだろ! 頭吹っ飛んじゃうよ。手のひらだけで頭握りつぶせんだろ?
 「アボガドの種くらいしか出来ないわよ」
 それ出来れば十分じゃね?
 やや押し問答が繰り返されて――。
 お疲れ気味のローゼ、「もう、いい加減お肉食べましょうよ」
 「そうだな、ローゼの余興にも飽きてきたことだし、いっちょ始めますか」とパークが仕切る。
 ヨキョッ(余興)てんのあんたの連れだよ。
 控えめで目立たないジュゴ奈が歩み出た。
 「わたしが魔法使えるから、火をつけるわ」と言って「危ないから」とみんなを遠ざけて構えた。
 『ファイアー』と叫んだ瞬間、方向転換。一瞬の内にローゼ火だるま。
 「熱ちアチあち~っ‼‼‼」
 対法術耐性のある装備のおかげで死なずに済む。
 「チッ、その防具か……」
 舌打ち? あんたもですか?
 「お肉の焼ける匂いがついちゃうでしょ?」と言って、ジュゴ奈はローゼの防具を脱がせる。
 「あー、ありがとう」と言ったローゼが、「お肉ってどっちのお肉?」とノリツッコミする暇もなく、もう一度『ファイアー』
 「熱ちアチあち~っ‼‼‼」
 ローゼ火だるま。胸の霊石のおかげで焼死は免れた。
 「チッ、その霊石か……」とブラックジュゴ奈、後(のち)、即変きらめきジュゴ奈。「失くすと大変だから、その霊石――」
 絶対無理。そんなことしたら最終回。
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