DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第六十五話 縁の下の力持ち

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 エミリア、負けはしなかったけれど、もう体力の限界。エルザは息を乱しながらもケロッとしている。どんだけタフネスなんだよ。
 霊撃使えるやつ相手にどれだけ戦えるか分からないけれど、でもこれ以上エミリアだけに任せてはおけない。仕方なくローゼがエミリアと対峙するエルザの前に立ちはだかった。
 ローゼVSエルザ。
 レイピアの柄を高く掲げて切先をエルザに向ける“第一の構え”。そこから誘い込んでやろう、と深めに切っ先を下げる。
 剣先が下がったレイピアの上から頭を斜めに薙ごう、とムチを振るったエルザ。足を交差させるサイドステップで左前に踏み込みながらそれをくぐったローゼは、更にパススッテプ、被せて斜めにWフォアステップでロングレンジに潜って、エルザの攻撃域から死角に入る。
 手首をスナップさせたエルザは下からムチを振り上げ、細かく流れるイバラのウェーブをローゼに放った。それをマントで叩いて左旋回で飛んで横に刃を滑らす。仰け反って避けるエルザは、躊躇なくそのまま背から地面に倒れ込む。背が地面につく前に身を返してうつ伏せになり、左のつま先で地面を蹴って深く低く長く、地面すれすれを跳躍した。踏み出した右足の着地と同時に全反転。深く低い姿勢のまま、大蛇が這うようにムチを走らせる。ローゼの着地点を狙う気だ。
 ローゼは持ち前の反射神経を駆使してレイピアで地面を突き、着地を一瞬遅らせた。ムチが到達する直前でレイピアを引き抜いてやり過ごし、そして着地。左フォムターグから手首のスナップで切り下げる。そのまま手押し(上下の斬りの連続)で懐を目指す。
 すごい集中力だ。握った左手を背に据えて、半身で攻撃を繰り出すローゼ。ホロヴィッツ戦と同様、霊力無しで霊撃と対等に渡り合っている。ローゼは圧倒的な動体視力を使ってエルザの呼吸リズムを感知し、霊撃と霊撃の合間を縫ってリポストしているのだ。
 頭上で円を描いて舞い戻ってきたムチに払われた刃を変化させて、更に追撃。蜿蜒とした幾重もの八の字を重ねてローゼを阻む防壁と化したムチに主導権を奪われそうになるが、すぐさま転位(攻撃を打ち払う)して、位置を得た。正確にはエルザが自ら位置を失うように仕向けたのだ。
 完全にエルザの攻撃線外に出たローゼは、ここぞとばかりに左オクスに構えて力を込めて刺突を繰り出す。それを間一髪避けたエルザの懐にシェルハウしながら飛び込み、偽ガーダントの構えから更に踏み込む。
 エルザは、がら空きとなったローゼの頭めがけてムチを振るうが、近すぎた。振るい切る前にナックルガードでこぶしを殴り上げられ、出した右足に膝折り(膝を踏みつける蹴り)がさく裂。
 体勢を崩したエルザの右手にダガーを引っ掛け股下に誘導したローゼは、背後に回ると同時にレイピアにムチを絡ませて引っ張る。ダガーを銜えて空けた左手でエルザの手を鷲掴みにして、エルザのお尻の下から上半身を引っ張り上げた。一回転したエルザは、受け身も取れずに背中から地面に叩きつけられた。
 マウントを取って関節を決めようとするローゼを、エルザは尖ったヒールで蹴りを放って阻む。トゲを気に留めることもなく右手でムチを握ってローゼを絡めとろう、と試みる。前に出ていた左足を上げてそれを避けたローゼは、そのままエルザの心臓目掛けて前蹴りを放つ。
 受けた蹴りの衝撃を利用して後ろに飛んで追撃を回避したエルザ、息を整えながらローゼを睨みつける。しばらく睨み続けたエルザは、ローゼの真剣さに気がついて、「遊びではなさそうね」と言った。そして「わたしも少し本気を出そうかしら」と呟いて笑む。
 第四に構えてカウンター狙いのローゼと、半球を形成するようにムチをうねらすエルザ。短くも長く感じる沈黙の対峙。
 先に動いたのはエルザ。縦に波打ちながら一直線にばく進するムチ。誘い込むつもりが威力に驚いて避けるローゼ。砂煙を2、3メートルくらい吹き上げて、整った敷石の道路を凄まじい勢いでズタボロに粉砕したムチの一撃は、後ろにあった大建築を崩壊させた。
 血の気が引いて青ざめるローゼ思わず絶句。目を点にして呼吸が止まる。詰まった息を何とか吐いて、出せた言葉は「うそ~ん」の一言。戦意喪失。
 「本気? しかも少し? 今まで何だったの?」と慄くローゼ。
 「ちょっと普通」
 “ちょっと”てなんだ?
 いきなり形勢逆転、逃げまどうローゼ。
 爆煙が立ち昇る中、ようやく体力の回復したエミリアが再び参戦。ローゼ&エミリアVSエルザの戦いが始まった。エルザはムチ、エミリアはこぶしを駆使して霊撃を繰り出す。ローゼは二人の霊撃の合間を縫ってエルザめがけて突っ走る。ローゼの俊足をもって幾度も追いつめるが、しかし寸でのところで捕まらない。
 今一歩のところでまたもローゼのレンジから遠のくエルザ。だがしかし、「くっ」と悔しさをにじませるローゼの視界にエルザが戻ってきた。エミリアがムチを掴んで必死に引っ張って踏み止まり、逆にエルザを引き戻したのだ。
 だがエルザのムチ捌きは激しさを増して、ローゼのレイピアさばきを凌駕する。援護とばかりにエミリアはムチを通して霊撃を発射。素手では数十センチが限度の霊撃も、法術武器としてカスタマイズされたムチを通せば、ムチの反対側にあるグリップまで撃ち放てられる。
 ドーナツ状の閃光が瞬いて、エミリアの霊撃がムチを走る。エルザも負けじと霊撃を撃ち放つ。それらがぶつかり合って、バチバチと音を発してせめぎ合う。その隙をついて突っ込むローゼをかわしながら、エミリアと霊撃バトルと繰り広げるエルザであったが、ムチを抑えられていては、さすがにキツイ。
 「わたしの忠実なるしもべたち‼‼」
 そうエルザが叫んだ瞬間、どこに隠れていたのか大量のセシュターズが至る所からローゼを襲う。何人いんだよ。三十人くらいじゃなかったのかよ。
 ここまでの慰安旅行で増えたらしい。
 投石器で投げられたかのように降り注ぐセシュターズは弾幕の如くだ。でも見た目最悪、ブリーフもっこり雨あられ。それを掻い潜るローゼは、なんとかエルザに追いすがる。普通の剣士がツーステップ半を要する距離を、ローゼはワンステップで移動する。その類まれなる俊足は、霊力を使用したホバーステップに引けを取らない(短距離ならば)。
 再びエルザをロックしたレイピアの切っ先は、ついに攻撃線上に彼女をキープしたままレンジの中に封じ込めた。どんなにエルザが回避行動をとっても、ローゼのステップから逃れられない。
 だがエルザは逃げの一手を隠していた。降り注ぐセシュターズを踏み台にして宙に舞いあがるように昇っていく。さすがのローゼも落ちてくるセシュターズを階段代わりに上っていけない。
 そんな裏ワザ反則技だ。瞬く間に飛び去っていくエルザを見上げて、ローゼ激しくブーイング。
 「どんだけいるのよ‼ この変態‼‼」
 よく見ると、落ちてきたセシュターズは頑張って大建築の壁をよじ登って屋上から再びダイブ。リサイクル攻撃でした。
 「エミリア! 渾身の一撃を放って」
 そう叫んだローゼの声に応えて、エルザを地面に引っ張り落として渾身の一撃。ローゼはムチを流れるその霊撃を追って、一心不乱にムチすれすれを走り抜ける。ピンと張ったムチ。エルザはこれ以上離れられない。ローゼはレイピアを構えてエミリアの霊撃を刺突した。
 せめぎ合うエミリアとローゼの一撃VSエルザの霊撃。だがおむつジジイの時のようにはいかなかった。前に走って向かってきたエルザは、緩んだムチをしならせてローゼを襲う。エミリアの霊撃ごとローゼがはじけ飛んだ。
 ヒールを向けて飛びかかるエルザの蹴りからローゼを助けようと、エミリアがムチをしならせて二人の間に壁を作る。それと同時に霊力を放出して、エルザを襲う。
 「エミリア、ストップ!」
 そう叫んだローゼは、エミリアの霊力が途切れたところでムチを掴んで左右のツベルクハウ後のオーバルハウ、返す形で振り上げて振り下ろし、シェルハウ、クルンプハウのツベルクハウ。渾身の力でムチを振るう。それがエミリアの霊力を乗せて強烈なコンボと化した。
 意表を突かれたエルザは、初めの数撃を打ち払ったものの、後の十数撃がモロに直撃。ローゼは、ムチを離してエミリアを見やる。エミリアは、ローゼが言葉を発する前に意を理解して霊撃を撃ち放った。ローゼは再びムチを取って、協力コンボ。
 しかし、なんということか。力で勝っているはずの協力コンボは、徐々に徐々にエルザの霊撃に押され始めた。



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