DEVIL FANGS

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
64 / 113

第六十四話 大富豪だって悩みはあるの。だって人間なんだもの。

しおりを挟む
 エミリアVSエルザ。道の真ん中でにらみ合う二人。長い沈黙。宙に円を描くように振るわれるムチが風を切る音だけが木霊する。
 先に仕掛けたのはエルザの方。勢い良くムチを打ち放つ。ひらりと一旋回で避けたエミリアは、そのまま勢いよく飛び出して飛び蹴りを放つ。ダッキングで避けたエルザの横で体をひねってみせたエミリアは、反対の左足で頭めがけて回し蹴り。
 エルザは後ろに着地したエミリアを目で追いながらムチを呼び戻した。螺旋状に防壁を築いて迎え撃つ。エミリアは、エルザが発した半球状のスピリチュアル・パワー・フィールド(霊力領域若しくは霊域)の中に飛び込み、螺旋を描くイバラの隙間からこぶしと蹴りで連続攻撃、怯んで崩れたムチの防壁の下にしゃがんで両手をついて、足をすべりこませ、両手を軸に素早くスピン。そのままドラゴンスープ(下段回し蹴り)で足を掬う。
 転げながらもムチをしならせてエミリアの追撃を阻んだエルザは、ムチの先端と根本の方を同時に別方向から放った。エミリアはそれを正拳突きで打ち払って、徐々に前進。だがムチに込められた霊力が桁違い過ぎて、その重みで前進ままならず。一進一退を繰り返す。
 お互いの一撃がぶつかり合う度に、凄まじい音を発して光の火の玉のような爆発が起こり発光するスピリチュアル・パワー・フィールド(霊力領域若しくは霊域)。猛然とせめぎ合う二人の霊撃合戦につけ入る隙を見つけられないローゼ、もうタジタジ。
 霊撃とは、攻撃に霊力を加えて放つ技のこと。剣を持っていればソードウェーブ、素手ならパワーナックル(ファイター系の基本霊撃。霊力を込めてパンチ)と言う技として世間に認知されている(他にもある)。だが今の二人は何かしらの霊撃を放っているわけではない。二人の霊力がでかすぎて、低度の霊撃と化しているのだ。
 お互い決定打に欠ける。仕切り直しとばかりに沈黙し、相手の実力を再度計りなおして料理の方程式をシミュレーション。
 その背後を狙い澄ましていたかのように、黒い影がエルザを襲う。刺客? 亀甲縛りのエルザとして要人暗殺をしていたんだから、狙われていたとしてもおかしくない。――いや違う? 美穂行ったー‼ エルザ相手に生着替えかます気か? でも今の格好からどう変えてくる?
 ああっ、帆立貝! 三枚の帆立貝と生糸のビキニ。伝説の貝殻ビギニ来たー!
 でもエルザ一枚上手。渦巻くムチを放って美穂を巻き取ると、勢いよく回してコマのように投げ飛ばす。ぎゅるるる~、と飛んでいって大建築の壁に激突。全倒壊。美穂は崩れたがれきの下敷きになった。
 「うおっ」とローゼ。「子供相手に大人げない」
 「大丈夫よあの子」エルザは気にも留めない感じで言う。
 がれきの山から這い出てきた美穂を見ると、怪我一つしていない様子でケロっとしている。ローゼもエミリアも唖然呆然。
 エルザが言った。
 「あの子、わたしたち牙の面々勢揃いで捕まえられなかった子よ。しかも全員脱毛処理される始末だったんだから」
 何だよそれ。でもそう言えば、みんなわきもスネもつるつるてんだった気がするな。
 「あ」と声をあげるローゼ。今のショックで服が元に戻ってる。今度は「えっ?」とエルザが叫ぶ。「永久脱毛じゃなくなってる!」
 超高速で着替えさせてるだけじゃないのか? なんかの法術的なこと? ジパングには、霊力を練って作った疑似生命体をお札に宿して眷属にする霊術があるらしい。陰陽師と言う霊能軍があるんだってさ。サイコラークのエスプスと並ぶ特殊な軍隊だ。
 「違うよ」と美穂が言う。「スローでしっかり見てみてよっ」
 ムチで巻かれた美穂。振り回されてローゼとエミリアの前を飛ばされる。その時落としたローゼたちの服が風に巻かれてするりと変態コスチュームと入れ替わった。どうやったんだよ。スーパースローでも捉えてないぞ。
 「脱毛はどうなってんの?」ローゼが訊いた。
 よく見ると、はためく襯衣の裾から何やらかき集める美穂、それをダーツの様に撃ち放つ。連射されたそれにエルザ気がつかない。狙った的に百発百中。わきとスネの毛穴にホールインワン。
 いま投げたの毛根か~?
 「やられたっ」とショックを隠し切れないエルザ。
 現人神でもできない御業。佐藤美穂恐るべし。
 エミリア、エルザの対決再開。
 縦横無尽にのたまい、敷石を吹き飛ばすムチを掻い潜って滑り込んだエミリアは、右足を踏ん張って急ブレーキ、
 空前絶後の激烈コンボ。両手と左膝をついて卍(まんじ)蹴りを下腹部にくらわしたのを皮切りに、左膝を上げてみぞおち目掛けて海老蹴りをかまし、かかとで顎を蹴り上げる。下ろす右足と引き換えに上げる左足。地についた手を伸ばして放った斜め飛び蹴りがこめかみに炸裂した。
 右を軸足にして敷石を踏み砕きながら体を捻って、左足を強引に腰の真下に下ろし、すぐさま烈火のごとく深く踏み込み、右の肘鉄を撃ち込んだ。右手に添えた左手を下げた反動で右肘を上げてエルザを持ち上げたエミリアは、下がってきたマスクの美顔に躊躇なく裏拳。くるり、と左旋回して「必殺『飛翔けーん‼‼』」と叫んで、ジャンピングアッパー。眩しい閃光が立ち昇る。
 本場ジパングに伝わる龍が昇るやつほどでは全然ないが、それでもすんげー威力。
 上に放出された霊撃に吹っ飛ばされるエルザ、もはや舞う枯葉の様。
 「マジ死んだぞあれ」ってローゼは思って腰抜かすが、エルザの実力だって半端ない。クルクルと縦に回りながら綺麗に着地。少しよろめきながらもすぐさま立て直して、全力疾走でエミリアに反撃開始。
 エミリアを援護したいローゼだけれど、霊力使えないので加われない。仕方ないので、周りのセシュターズを打ちのめす。でもなんか違う。よく見ると町の富豪。全身ジュエリーで緊縛状態。みんな全員余すことなく連れの女に踏みつけられて下克上。四つん這い――というか縛られて芋虫状態の男と、彼らのケツに右足を乗っけて首輪に長く繋がれたネックレスを引く女、戦闘用意の姿勢で準備万端。
 「女まで洗脳できるの?」とローゼはビックリ。本当、エルザの霊的指導力半端ない。
 「いけー!」と一斉に叫ぶ女たち。ローゼめがけてくそ豚どもを解き放つ。解き放つって縛った宝飾品を外すだけ。その間ローゼ待ちぼうけ。外したネックレスやなんかをポケットに入れて、女たちは主人のお尻を蹴飛ばした。ようやく襲ってくる富豪たち。あ、でも目に填められた金貨はそのままなのね。冥土の運賃ってことですか?
 さすがに民間人は殺せない。ローゼはレイピアを鞘にしまって剣帯から外し、スティック術(杖を武器にした技)で叩きのめす。黒く塗られた鞘は木製だったが、かったいトリネコ。先の方が銀のキャップで装飾されていて、口に向かって銀帯が走るように飾られている。だから叩かれるとめっちゃ痛い。
 大怪我をさせてはいけない、と躊躇するローゼだったが、よく見ると何人かの女性が妖精呪文を唱えられるようだ。聞くと簡単な回復呪文『ヒール』だけ。軽い怪我を治癒させるだけなのだが、心配が解けたローゼは力を抜かずに乱撲しまくる。複雑骨折間違いなし。『ヒール』じゃ対処できないので、病院送りが大続出。
 ちなみに、ヒールで踏みつけながらヒール唱えているなんて、つまんないジョークもあったが、緒方すっ飛ばす。
 主人に指示を出す女たちを仕留めなければ、いつまで経っても減らないマゾ富豪。ローゼは彼らの間を軽やかにステップ踏んで女たちを目指す。あわよくばポッケの宝飾品もせしめてやろう。
 それに気がついた女たちは一目散に逃げていく。自分が狙われているとかじゃなくて、ポケットの中身が狙われていることに気がついたから。
 逃げ去っていく女たちを追う富豪たちが落とした金貨を拾い集めるローゼが、すっかり忘れていたエミリアを見やると、ついに決着がつきそうな雰囲気。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

FRIENDS

緒方宗谷
青春
身体障がい者の女子高生 成瀬菜緒が、命を燃やし、一生懸命に生きて、青春を手にするまでの物語。 書籍化を目指しています。(出版申請の制度を利用して) 初版の印税は全て、障がい者を支援するNPO法人に寄付します。 スコアも廃止にならない限り最終話公開日までの分を寄付しますので、 ぜひお気に入り登録をして読んでください。 90万文字を超える長編なので、気長にお付き合いください。 よろしくお願いします。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物、団体、イベント、地域などとは一切関係ありません。

エスパー&ソーサラー

緒方宗谷
ファンタジー
超能力戦士のミリィと魔導士サラの冒険

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

コントな文学『カラダ目当ての女』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
会いたくなったから深夜でも・・・

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

処理中です...