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第六十話 初恋アタック
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広いダイニング。ここだけで普通の人の家の半分以上ありそう。もちろんカトワーズの家ほどじゃないけど、とてもいい生活をしている。
ローゼは木製コップでワインを飲みながら、テルに話しかけた。
「テルは外に遊びに行かないの?」
ローゼの髪型、頭の上には、右耳から左耳へ向かって一直線に連なった六本の髪の束がとんがって生えている。二十センチくらいある? 使う前の習字の筆みたい。気付かないふりするエミリア、頭の天辺にローゼと同じような筆先を生やして、ぐるぐる丸眼鏡。前髪とこめかみ辺りにちょび髭みたいなのが生えていた。なんか大五郎みたいなやつ。「ちゃーん」て叫ぶところ想像して笑いそう。ローゼも同じく気がつかないふり。もちろんお互い自分の姿に気がついていない。
テルが俯いて口を開く。
「うん、遊びに行きたいけれど、おねー――痛っ」
美穂がテーブルの下で蹴っ飛ばしたようだ。
「僕、おねーちゃんと遊びたいんだ」とテルは苦笑いをする。
テルの話によると親御さんは、自分たちの仕事中、テルはお友達の家に遊びにいっている、と思っているらしい。
「夏休み明けたら学校行こうよ」とエミリアが促す。「お勉強したりみんなと遊んだりするの楽しいよ」
「行かない」、と自分の部屋に駆け入る美穂。二人が部屋を覗くとベッドにうつ伏せになって、悲しそうにしていた。
その様子を見て、エミリアが「わたし、なんか放っておけません」と呟く。「わたし一人っ子だったから妹みたいで――」
あーなんか分かる、とローゼは思った。自分も一人っ子だったから、エミリアに対してそのような感情は――最初のほんの一時感じたことがある。パーク戦で本性知って幻滅したけど。
「あれを本性だなんて思わないでください」とエミリアぴしゃり。
うん、まあ、垣間見ただけに過ぎなかったよね、今思うと。
エミリアが美穂の横に座って頭を優しく撫でると、おずおずと美穂が話し始めた。
「わたし、本当は学校に行きたいの。でも胸が苦しくて行けなくなっちゃうんだ」
「胸?」
「わたし病気かも。もう長くないかも」
「それ恋の病なんじゃ?」とエミリアが言った。おもむろに顔をあげる美穂に続けて言う。
「誰か好きな男の子はいるの?」
「……うん」
「その男の子のことを考えると、どんな感じ?」
「ドキドキする。発作だ。胸が苦しいよぉ」
「やっぱり」とエミリア「恋の病ね」と教えてあげる。
お相手はロベルト君というらしい。
「でもだめ、わたしいじめられているから」と諦め気味に美穂が言う。つらそうにしながらも、美穂は受けた仕打ちを語り始めた。言ってることと回想シーンがミスマッチ。クラスメートは、上半身に半ズボンを着せられ、足に襯衣を穿かせられたりしている。
「みんなわたしを避けるんだ」
いやそれ避けるだろう。特にロベルト君悲惨だよ。好きだからいじめちゃうなんてもんじゃないよ。狙い撃ち。給食一人だけ超絶激烈大山盛りだとか、バレンタインに包まれていないチョコの一塊で机の中が埋まってたとか、尋常じゃない猛アタック。
回想の中で、ロベルト君の縦笛がなくなったとか体操着がなくなったとか騒ぎになっているので部屋を捜索してみると、あるわあるわロベルト君の私物わんさか出てきた。
「ローゼさん」とエミリアが呼ぶ。見ると回想シーンが続いていた。
宅急便がロベルト君の家に配達される。開けてびっくりトランクスの山。
「あはっ、ロベルト君喜んでくれたかなぁ。あれわたしの宝物なの」と美穂。
めっちゃキモ悪がっていますけれど。もうほとんどストーカーだよね。
「お手紙書いてみたらどう?」とエミリアが提案。
美穂は「お前彼氏いない歴実年齢だろ? ペチャパイ女」と答えてローゼに駆け寄り抱き「パフパフ」。美穂を抱き上げるローゼちょっと優越感。
ローゼは勝利の笑みを浮かべながら悔しがるエミリアを見下ろして、ほくそ笑んで言った。
「ラブレターも良いけれど、それと一緒に何かプレゼントしましょうよ」
「トランクスか何か?」
美穂、それから離れろよ。
「ブーメランぱんつは好みじゃないの」
ブリーフ通り越してそこ行ったか! Tバックじゃなくてブーメランぱんつ出てくんのがすごいよ。
ローゼは、虚を突かれてギョッとした心をひた隠しにして苦笑いして、
「バックチャームとかキーホルダーとか。鍵持ってなくてもカバンにつけとくだけでいい思い出ができるよ。お揃いにしたら特別感もあるし」
「本当? さすがボインね、ありがと―」
「海岸でモミ毟ってやっとけば良かった」とエミリアが歯ぎしりする。
冗談にならないよ、エミリアの握力。
「よかったね」と美穂。「クラゲ野郎に溶かされなくて」
それを聞いたエミリア「あ」と言って「その手があったか」
美穂が大笑い。わざと教えたのか?
「違うよ。わたしがペチャの味方するわけないもん。陥没させてやれってこと」
エミリアの脳天にガーンという効果音が響いた。
「ひどい! この子供ヒドイ」
「お前わたしを何だと思っているのよ」とローゼがつっこむ。
エミリア一言「偽ボイン」
言うと思った。
「さっそく出かけよー」と誘う美穂。
「その前にズボン履き替えましょうね。パパやママの依頼で、トランクス脱がすことになっているから」
ローゼがそう言うと、
「だめー」と叫んで逃げだす美穂。
「だめよ美穂ちゃん」と説得するエミリア。「そのトランクス、本当のトロピカルじゃないのよ。リンゴがあるもん。それにドリアンがないなんて信じられない」
フィーチャリング・ドリアン? なぜにドリアン推し?
「いやー」叫んで、美穂は外に出て行っちゃった。
ローゼは木製コップでワインを飲みながら、テルに話しかけた。
「テルは外に遊びに行かないの?」
ローゼの髪型、頭の上には、右耳から左耳へ向かって一直線に連なった六本の髪の束がとんがって生えている。二十センチくらいある? 使う前の習字の筆みたい。気付かないふりするエミリア、頭の天辺にローゼと同じような筆先を生やして、ぐるぐる丸眼鏡。前髪とこめかみ辺りにちょび髭みたいなのが生えていた。なんか大五郎みたいなやつ。「ちゃーん」て叫ぶところ想像して笑いそう。ローゼも同じく気がつかないふり。もちろんお互い自分の姿に気がついていない。
テルが俯いて口を開く。
「うん、遊びに行きたいけれど、おねー――痛っ」
美穂がテーブルの下で蹴っ飛ばしたようだ。
「僕、おねーちゃんと遊びたいんだ」とテルは苦笑いをする。
テルの話によると親御さんは、自分たちの仕事中、テルはお友達の家に遊びにいっている、と思っているらしい。
「夏休み明けたら学校行こうよ」とエミリアが促す。「お勉強したりみんなと遊んだりするの楽しいよ」
「行かない」、と自分の部屋に駆け入る美穂。二人が部屋を覗くとベッドにうつ伏せになって、悲しそうにしていた。
その様子を見て、エミリアが「わたし、なんか放っておけません」と呟く。「わたし一人っ子だったから妹みたいで――」
あーなんか分かる、とローゼは思った。自分も一人っ子だったから、エミリアに対してそのような感情は――最初のほんの一時感じたことがある。パーク戦で本性知って幻滅したけど。
「あれを本性だなんて思わないでください」とエミリアぴしゃり。
うん、まあ、垣間見ただけに過ぎなかったよね、今思うと。
エミリアが美穂の横に座って頭を優しく撫でると、おずおずと美穂が話し始めた。
「わたし、本当は学校に行きたいの。でも胸が苦しくて行けなくなっちゃうんだ」
「胸?」
「わたし病気かも。もう長くないかも」
「それ恋の病なんじゃ?」とエミリアが言った。おもむろに顔をあげる美穂に続けて言う。
「誰か好きな男の子はいるの?」
「……うん」
「その男の子のことを考えると、どんな感じ?」
「ドキドキする。発作だ。胸が苦しいよぉ」
「やっぱり」とエミリア「恋の病ね」と教えてあげる。
お相手はロベルト君というらしい。
「でもだめ、わたしいじめられているから」と諦め気味に美穂が言う。つらそうにしながらも、美穂は受けた仕打ちを語り始めた。言ってることと回想シーンがミスマッチ。クラスメートは、上半身に半ズボンを着せられ、足に襯衣を穿かせられたりしている。
「みんなわたしを避けるんだ」
いやそれ避けるだろう。特にロベルト君悲惨だよ。好きだからいじめちゃうなんてもんじゃないよ。狙い撃ち。給食一人だけ超絶激烈大山盛りだとか、バレンタインに包まれていないチョコの一塊で机の中が埋まってたとか、尋常じゃない猛アタック。
回想の中で、ロベルト君の縦笛がなくなったとか体操着がなくなったとか騒ぎになっているので部屋を捜索してみると、あるわあるわロベルト君の私物わんさか出てきた。
「ローゼさん」とエミリアが呼ぶ。見ると回想シーンが続いていた。
宅急便がロベルト君の家に配達される。開けてびっくりトランクスの山。
「あはっ、ロベルト君喜んでくれたかなぁ。あれわたしの宝物なの」と美穂。
めっちゃキモ悪がっていますけれど。もうほとんどストーカーだよね。
「お手紙書いてみたらどう?」とエミリアが提案。
美穂は「お前彼氏いない歴実年齢だろ? ペチャパイ女」と答えてローゼに駆け寄り抱き「パフパフ」。美穂を抱き上げるローゼちょっと優越感。
ローゼは勝利の笑みを浮かべながら悔しがるエミリアを見下ろして、ほくそ笑んで言った。
「ラブレターも良いけれど、それと一緒に何かプレゼントしましょうよ」
「トランクスか何か?」
美穂、それから離れろよ。
「ブーメランぱんつは好みじゃないの」
ブリーフ通り越してそこ行ったか! Tバックじゃなくてブーメランぱんつ出てくんのがすごいよ。
ローゼは、虚を突かれてギョッとした心をひた隠しにして苦笑いして、
「バックチャームとかキーホルダーとか。鍵持ってなくてもカバンにつけとくだけでいい思い出ができるよ。お揃いにしたら特別感もあるし」
「本当? さすがボインね、ありがと―」
「海岸でモミ毟ってやっとけば良かった」とエミリアが歯ぎしりする。
冗談にならないよ、エミリアの握力。
「よかったね」と美穂。「クラゲ野郎に溶かされなくて」
それを聞いたエミリア「あ」と言って「その手があったか」
美穂が大笑い。わざと教えたのか?
「違うよ。わたしがペチャの味方するわけないもん。陥没させてやれってこと」
エミリアの脳天にガーンという効果音が響いた。
「ひどい! この子供ヒドイ」
「お前わたしを何だと思っているのよ」とローゼがつっこむ。
エミリア一言「偽ボイン」
言うと思った。
「さっそく出かけよー」と誘う美穂。
「その前にズボン履き替えましょうね。パパやママの依頼で、トランクス脱がすことになっているから」
ローゼがそう言うと、
「だめー」と叫んで逃げだす美穂。
「だめよ美穂ちゃん」と説得するエミリア。「そのトランクス、本当のトロピカルじゃないのよ。リンゴがあるもん。それにドリアンがないなんて信じられない」
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