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第二十五話 復活! 闇の魔人
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ローゼは唖然とした。なんと、ホロヴィッツはまだ生きていたのだ。しかも強大な魔力を湛えながら。
ローゼは、喉の奥に詰まった声を、なんとか絞り出す――ことなく、アッケラカン、と言った。
「けど、それでどう戦うの? あんた自ら血を吸うくらいしか出来ないみたいだけれど」
もしそうであっても怖くなんかない。なんせ、大きいばかりでノタノタしたただの普通のヒルと変わらない。丸々太った一メートル位の大きなヒルだから、それはそれで怖いが、歩いてでも逃げ切れそうだ。
「でも、すごい魔力ですよ。魔族には会ったことありませんけれど、人間界の生き物とは思えませんよ」とエミリアが怯えてローゼを見る。
「確かにそうね、わたしも魔力を持っているアンデットとか魔族には会ったことないけれど、並大抵の力じゃないわね」
いっそこのまま殺してしまいたい、と思ったローゼだったが、急いで追いかけてきたから、とどめを刺すための純銀の杭がない。このまま蔓で縛って、馬に引かせて町に帰ることにした。
いきなりホロヴィッツがローゼに向かって「ぺっ! ぺっ! ぺっ!」
「なにするのよ、汚いわね! あなた負けたんだから観念しなさいよ」
「町には行けねーよ。そもそも、俺は相当な魔力を有しているんだ。簡単に殺されはしない」
エミリアが口を挟む。
「そうですよ、ローゼさん。噛まれでもしたら大変ですし」
「噛む?」
ホロヴィッツはきょとん、とした様子で続けて言う。
「噛みはしない。噛んだら、噛まれた相手がヒルパイアになってしまうかもしれないからな」
聞くと、血を吸うのはもっぱらヒルかららしい。ヒルに生娘の血を吸わせて、それをチュパチュパしている、と言う。なんか、まだ直接の方が怖くない。ヒルにしゃぶりついているところを想像すると、悍ましい限りだ。
「ん?」とローゼ「――ということは、町で噛まれた人って?」
直接は噛んでいないようだ。過去の事例から、ヒルに噛まれた人間はヒルパイアにはなってはいない、とホロヴィッツは言う。
「でも――」とローゼ。自分を見やる(ヒルの姿じゃ分からんけど)二人に続けて言った。
「――町を騒がせたんだし勝負に負けたんだから、落とし前はつけてもらうわよ」
しょうがねーな、といった様子で二人を引き連れ、ホロヴィッツはノタノタを進み始めた。随分とじれったい。仕方なく蔓で結わいて、ホロヴィッツの言う方向に馬に引かせた。
しばらくすると、小さな小屋が見えた。ここがねぐららしい。別に隠れて生活している様子でもない。
そう言えば、エルラダの都市でホロヴィッツの存在は問題になってはいなかったのだから、退治しにやってくるやつもいないのだろう。十六歳以下は噛まないとか、直接血を吸わないとか、色々と配慮も見せる良いやつに思えてきた。変態だけれど。
ローゼはかぶりを振った。戦いの悍ましさを思い返して、良いやつだ、と思ったことをかき消す。
「ローゼリッタ、そこの瓶とってくれ」
小屋に入るなりホロヴィッツが言う。
でも手も足もないんだから、どこ指さしているか分からない。
「これ? ワインか何か? とても濃厚そうね、わたしもいただこうかしら?」ローゼが唇をなめる。
瓶を見やると、年月日が書いてある。メアリー? これ血かよ気色悪い‼
世紀末的絶望感漂う形相で、「ぎゃっ」と瓶を投げ出すローゼ。「おおっと」と声を発してびよーんと伸びたホロヴィッツは、床すれすれでダイビング(?)キャッチ。
「こいつは十年物の血だぞ。初キッスの直後でドキドキラブリーな瞬間の貴重な血なんだから、丁重に扱えよ」
ローゼは、醜いものでも見る目で棚を見て肩を縮こませる。
「もしかして、これ全部血?」
三、四十本はあるだろうか。よく見ると、どのラベルにも紀元と月日、そして女性の名前が書いてある。
手足のないホロヴィッツのために、エミリアはワイングラスを二つ用意してあげた。「二つ?」と問うローゼに、「もちろんローゼさんが飲むんですよ」とエミリアがほほ笑む。
「まさか、飲むわけないでしょ」
「うふふ、飲みますよローゼさんは……。わたし気がついているんですよ。さっきわたしのこと見捨てて逃げようとしたでしょう」
とても優しい笑顔でそう言った。
ギクリッ
「エミリアだってわたしのこと助けてくれなかったでしょ?」
「ほら飲んで。良い子だから飲みなさい」
完全に目が座っている。ううう、飲むしかないのか。人の血を飲むって一体どんな感じ? 口に入ってくる妙にドロッとした液体を想像して、ローゼは吐気がこみ上げる。
エミリアは、ローゼの眼前に左手でワイングラスを掲げて、右手でリズムよくテーブルを叩く。ゆっくりとしたテンポで、「飲―めっ飲―めっ」繰り返す。
飲むべきか飲まざるべきか、そこが問題だ。バーサク状態のエミリアに勝てるだろうか。戦闘から勝利or敗走のシミュレーションが脳裏を駆け巡る。いや、バーサクとは限らない? でも室内のこの距離じゃ、こぶしの方が早いかも。
ローゼは、場を取り繕うように言った。
「で、でもさ、ほら、これ飲んだら、わたしもヒルパイアに……」
「大丈夫ですよ、わたしが葬ってあげますから」
確かに……銀の杭がなくても、高濃度の霊力を打ち込めば殺せるかもしれない。
なんかエミリアが歌い出す。
🎼軟弱者はー大嫌いー♪ 飲めと言われて飲めないーなんてっ♪ ぼっこぼこー🎼
「いや、さすがに飲めないでしょ⁉ いくらなんでも‼」
攻撃力は向こうの方が強いかもしれない。だがそれ以外の能力は負けていないはずだ。一縷の望みにかけてツーリックステップ(後ろ)。ローゼは柄に手をかける。
「やだなぁ、冗談ですよ」とエミリアが笑う。普通の笑みだ。唇を可愛くつきだして、続けて言う。
「エルザさんの時も今回も、ローゼンさん逃げようとするんですもん」
「あ、気がついていたのね」
「だから試したんです。わたし軟弱者大嫌いですから。年下のわたしにガンくれられてビビッて飲むようじゃ、手切れかなぁって。そしたら、その場で撲殺です」
エミリアはそう言って、人型に戻ったホロヴィッツに二つ目のグラスをわたす。
なんつー末恐ろしいガキだ、とローゼは思った。
ローゼは、喉の奥に詰まった声を、なんとか絞り出す――ことなく、アッケラカン、と言った。
「けど、それでどう戦うの? あんた自ら血を吸うくらいしか出来ないみたいだけれど」
もしそうであっても怖くなんかない。なんせ、大きいばかりでノタノタしたただの普通のヒルと変わらない。丸々太った一メートル位の大きなヒルだから、それはそれで怖いが、歩いてでも逃げ切れそうだ。
「でも、すごい魔力ですよ。魔族には会ったことありませんけれど、人間界の生き物とは思えませんよ」とエミリアが怯えてローゼを見る。
「確かにそうね、わたしも魔力を持っているアンデットとか魔族には会ったことないけれど、並大抵の力じゃないわね」
いっそこのまま殺してしまいたい、と思ったローゼだったが、急いで追いかけてきたから、とどめを刺すための純銀の杭がない。このまま蔓で縛って、馬に引かせて町に帰ることにした。
いきなりホロヴィッツがローゼに向かって「ぺっ! ぺっ! ぺっ!」
「なにするのよ、汚いわね! あなた負けたんだから観念しなさいよ」
「町には行けねーよ。そもそも、俺は相当な魔力を有しているんだ。簡単に殺されはしない」
エミリアが口を挟む。
「そうですよ、ローゼさん。噛まれでもしたら大変ですし」
「噛む?」
ホロヴィッツはきょとん、とした様子で続けて言う。
「噛みはしない。噛んだら、噛まれた相手がヒルパイアになってしまうかもしれないからな」
聞くと、血を吸うのはもっぱらヒルかららしい。ヒルに生娘の血を吸わせて、それをチュパチュパしている、と言う。なんか、まだ直接の方が怖くない。ヒルにしゃぶりついているところを想像すると、悍ましい限りだ。
「ん?」とローゼ「――ということは、町で噛まれた人って?」
直接は噛んでいないようだ。過去の事例から、ヒルに噛まれた人間はヒルパイアにはなってはいない、とホロヴィッツは言う。
「でも――」とローゼ。自分を見やる(ヒルの姿じゃ分からんけど)二人に続けて言った。
「――町を騒がせたんだし勝負に負けたんだから、落とし前はつけてもらうわよ」
しょうがねーな、といった様子で二人を引き連れ、ホロヴィッツはノタノタを進み始めた。随分とじれったい。仕方なく蔓で結わいて、ホロヴィッツの言う方向に馬に引かせた。
しばらくすると、小さな小屋が見えた。ここがねぐららしい。別に隠れて生活している様子でもない。
そう言えば、エルラダの都市でホロヴィッツの存在は問題になってはいなかったのだから、退治しにやってくるやつもいないのだろう。十六歳以下は噛まないとか、直接血を吸わないとか、色々と配慮も見せる良いやつに思えてきた。変態だけれど。
ローゼはかぶりを振った。戦いの悍ましさを思い返して、良いやつだ、と思ったことをかき消す。
「ローゼリッタ、そこの瓶とってくれ」
小屋に入るなりホロヴィッツが言う。
でも手も足もないんだから、どこ指さしているか分からない。
「これ? ワインか何か? とても濃厚そうね、わたしもいただこうかしら?」ローゼが唇をなめる。
瓶を見やると、年月日が書いてある。メアリー? これ血かよ気色悪い‼
世紀末的絶望感漂う形相で、「ぎゃっ」と瓶を投げ出すローゼ。「おおっと」と声を発してびよーんと伸びたホロヴィッツは、床すれすれでダイビング(?)キャッチ。
「こいつは十年物の血だぞ。初キッスの直後でドキドキラブリーな瞬間の貴重な血なんだから、丁重に扱えよ」
ローゼは、醜いものでも見る目で棚を見て肩を縮こませる。
「もしかして、これ全部血?」
三、四十本はあるだろうか。よく見ると、どのラベルにも紀元と月日、そして女性の名前が書いてある。
手足のないホロヴィッツのために、エミリアはワイングラスを二つ用意してあげた。「二つ?」と問うローゼに、「もちろんローゼさんが飲むんですよ」とエミリアがほほ笑む。
「まさか、飲むわけないでしょ」
「うふふ、飲みますよローゼさんは……。わたし気がついているんですよ。さっきわたしのこと見捨てて逃げようとしたでしょう」
とても優しい笑顔でそう言った。
ギクリッ
「エミリアだってわたしのこと助けてくれなかったでしょ?」
「ほら飲んで。良い子だから飲みなさい」
完全に目が座っている。ううう、飲むしかないのか。人の血を飲むって一体どんな感じ? 口に入ってくる妙にドロッとした液体を想像して、ローゼは吐気がこみ上げる。
エミリアは、ローゼの眼前に左手でワイングラスを掲げて、右手でリズムよくテーブルを叩く。ゆっくりとしたテンポで、「飲―めっ飲―めっ」繰り返す。
飲むべきか飲まざるべきか、そこが問題だ。バーサク状態のエミリアに勝てるだろうか。戦闘から勝利or敗走のシミュレーションが脳裏を駆け巡る。いや、バーサクとは限らない? でも室内のこの距離じゃ、こぶしの方が早いかも。
ローゼは、場を取り繕うように言った。
「で、でもさ、ほら、これ飲んだら、わたしもヒルパイアに……」
「大丈夫ですよ、わたしが葬ってあげますから」
確かに……銀の杭がなくても、高濃度の霊力を打ち込めば殺せるかもしれない。
なんかエミリアが歌い出す。
🎼軟弱者はー大嫌いー♪ 飲めと言われて飲めないーなんてっ♪ ぼっこぼこー🎼
「いや、さすがに飲めないでしょ⁉ いくらなんでも‼」
攻撃力は向こうの方が強いかもしれない。だがそれ以外の能力は負けていないはずだ。一縷の望みにかけてツーリックステップ(後ろ)。ローゼは柄に手をかける。
「やだなぁ、冗談ですよ」とエミリアが笑う。普通の笑みだ。唇を可愛くつきだして、続けて言う。
「エルザさんの時も今回も、ローゼンさん逃げようとするんですもん」
「あ、気がついていたのね」
「だから試したんです。わたし軟弱者大嫌いですから。年下のわたしにガンくれられてビビッて飲むようじゃ、手切れかなぁって。そしたら、その場で撲殺です」
エミリアはそう言って、人型に戻ったホロヴィッツに二つ目のグラスをわたす。
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