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第二十四話 ローゼの決意
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ホロヴィッツの手のひらには、出したてほやほやのうんこが乗っていた。湯気まで出ている。いや、湯気は見えていないのだが、間違いなく出ているはずだ。
「どりゃ―‼」と掛け声をかけてホロヴィッツが投げてきたうんこを、ローゼは咄嗟に避ける。その後ろで、レイピアで切り落とすと思っていたエミリアは、「きゃー」と悲鳴をあげて間一髪なんとか避けた。そして叫ぶ。
「ちょっとローゼさん、避けないでくださいよ! 切り落としてください! その剣で‼」
「エミリアだって避けたじゃない。そう言うなら、あんたのこぶしで殴りなさいよ」
「嫌ですよ、うんこなんて殴ったら、もう一生お嫁に行けなくなりますよ」
確かにそうだ。もし殴ろうものなら、はじけ飛んだうんこで2人とも全身うんこまみれになってしまう。町は厳戒態勢だろうから、隠れて戻ろうにも見つかっていい笑いものだ。
後ろに殺気を感じたエミリアが咄嗟に頭を反らす。うんこだ。投げたうんこが自分で飛びかかって来たのだ。ローゼの頬に一筋の汗が流れた。
「吸血鬼が不死なのは知っていたけれど、まさかうんこまで生きているとは……」
「ローゼさん、よく見てください、あれうんこじゃないですよ」エミリアが指さす。
よく見ると、あれもヒルの様だ。なんだぁ、と思ってホッとしたローゼに、エミリアが「良かったですね」と声をかける。そして続けて「これで、心置きなくレイピアで斬れますよ」。
「斬れるか! あんなとこから出てきたもん!」
ローゼは、本気でキレた。うんこを斬るのは言語道断だが、肛門から出てきたヒルだって言語道断だ。そもそも肛門から出てきた時点でうんこと同じ。百歩譲ってもサナダムシと同じ類の寄生虫。千歩譲っても蟲使いの蟲とは言えない。そもそも、お尻の中で飼っているということは、大腸の中でうんこ食って生きている、ということだ。ヒルの体の中はうんこでいっぱいのはず。あれを斬れば、うんこを斬ったのと違わない。
エミリアが呆れて言った。
「もう男の人のあれだと思ったヒルを斬ったんだから同じですよ」
「違うわよ! まだほら、なに? 肉体の一部じゃない」
「おぱんつの中にあったものという点ではおんなじですよ」
「言わないで~‼」
ローゼは、今すぐにでもレイピアを池で洗いたい気分だ。……て見るとホロヴィッツがいない。探すと、そばの木まで歩いて行って、ペロン、と股間をむき出しにしておしっこをし始めた。
「きゃっ」と目を覆うエミリアに代わって、ローゼが怒鳴る。
「ちょっと、女子の前でそんなとこ出さないでよ! 変態」
ホロヴィッツはゾクゾクゾクと身を悶えさせて、焦点の合わない目で何もない宙を見やってにやける。忘れていた。やつにとって、なじりの言葉は喜びの対象にしかならない。
「……?」とローゼ。
一体何をしているのだろうか。ばしゃ―、とおしっこが勢いよく出ると思っていたローゼは、一向に音が聞こえてこないのをおかしく思って、目の前にかざした指の間からホロヴィッツを見やる。
影絵のようなシルエットは、間違いなく何かを出している。でも液体ではないぞ。よく見るとウネウネとウネっている。のたうつ先っちょが見る見るうちに膨らんで、全貌を表して地面にぼたりと落ちた時には、大きなヒルになっていた。あのヒル、間違いなくおしっこいっぱい水っぱらなはずだ。
「やっぱり投げる気ですか?」と慌てたローゼは、エミリアの背に隠れる。
「ちょっと、わたしを盾にしないでくださいよ」
ホロヴィッツが、深く息を吐きながら言った。
「今度は投げん! 直接服の中に入れてやる!」
「きゃー」(ローゼ&エミリア)
「て、わたしは逃げなくても大丈夫なんですよね」
自分は襲われない、と気がついたエミリアは、走ってくるホロヴィッツをやり過ごした。
「ちょっと! あんたも戦いなさいよ」ローゼの叫び声がエミリアから遠のいていく。
さすがに命と引き換えには出来ない。あいつを倒したら、真っ先にこの剣を捨ててやる、とローゼは心に固く誓った。十六歳の時に親から買ってもらったレイピアであったが、特別高い物ではない。思い出はあるが、ションベン斬りのローゼリッタの異名を持つわけにはいかない。ションベンのレイピアを腰になんか下げたくない。
ローゼは意を決して、第四に構える。迫りくるホロヴィッツ目掛けてフォアステップ(前進)と同時に、高速の刺突を浴びせかけた。
人間、追い詰められると途轍もない力を発揮できるものだ。大きなヒルを乗せたホロヴィッツの右手の肉が、瞬く間に削がれていく。ローゼ必死のマッハ突き。連打連打そのまた連打。長くなったホロヴィッツの爪を火花を散らしながら滑るレイピアで連続ツッケン(小刻みに刺す)。手首を素早くスナップさせて、ホロヴィッツの手のひらをシュニット(スライス)で撫で斬る。
なんという実力の持ち主であることか、ローゼリッタ・クラインワルツ。高度なテクニックを要する技を、恐るべき早業でやってのける。レイピアの重みで、手首と肘には相当な負荷がかかっているはずだが、ローゼの剣速に陰りは見えない。
決めワザとばかりにアブシュネイデン(手首を切り取る技)で残った手の肉を削ぎ落すと、遂にホロビッツの手首は骨だけになった。その骨も叩き落される。
「人間が調子に乗りおって」ホロヴィッツが音が出るほど歯噛みした。
「出来損ないのくせに、人間相手に調子に乗るな」
ローゼは、突きの連射速度を緩めない。残った腕の肉も、オーバルハウ(上から下へ)、ウンターハウ(下から上へ)、ミドルハウ(左から右へ水平切り)、ミッテルハウ(右から左へ水平切り)の巧みなコンビネーションで肉片と化す。
ホロヴィッツは慄然とした。
「バカな! 霊力も扱えない人間の、しかもだだの鉄のレイピアでこんな……!」
ローゼが放つ怒涛の突きを全て全身で受けたホロヴィッツの体の方々から、黒紫がかった赤い血が噴き出る。ローゼの攻撃スピードが速すぎて、回復が追いつかないのだ。
ホロヴィッツの筋肉が萎んでいく。実は、ホロヴィッツの肉体は、筋肉でできているわけではなかった。筋骨隆々に見えていた体は、生娘から奪った血で満たされてパンパンに膨れ上がっていただけなのだ。
その血を魔力に変換して、あの強さ(?)を誇っていた。そうと気がついたローゼは、更にギアをあげる。これでもかと肉を裂くローゼの連撃に、ホロヴィッツは足をもつれさせて、遂に膝をついた。
「ギャ―――‼」
ホロヴィッツは断末魔をあげて、自らの血の海に伏して沈んでいく。
勝った。勝ったのだ。ただの剣士である人間のローゼが、アンデットの王(と言っていいのか分からないえせ物?)である吸血鬼に勝ったのだ。
「やった! やりましたねローゼさん」
何食わぬ顔で勝利を讃えるエミリアが駆け寄る。ローゼは、自分を見捨てて石に座って見物していたエミリアに微笑みかけて、バコッとげんこつした。
「いったぁーい」エミリア涙がちょちょぎれる。
「わたしがやられていたら、どうするつもりだったのよ」
「それは、もちろん帰りますよ。本当もちのろんでっすぅっ」
エミリアは、はっきりと豪語する。
ローゼは、もしアンデットに負けて死ぬことがあるなら、その時自分はアンデットになるだろうから、真っ先にエミリアのところに行って噛みついてやろう、と心に誓った。
「どりゃ―‼」と掛け声をかけてホロヴィッツが投げてきたうんこを、ローゼは咄嗟に避ける。その後ろで、レイピアで切り落とすと思っていたエミリアは、「きゃー」と悲鳴をあげて間一髪なんとか避けた。そして叫ぶ。
「ちょっとローゼさん、避けないでくださいよ! 切り落としてください! その剣で‼」
「エミリアだって避けたじゃない。そう言うなら、あんたのこぶしで殴りなさいよ」
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確かにそうだ。もし殴ろうものなら、はじけ飛んだうんこで2人とも全身うんこまみれになってしまう。町は厳戒態勢だろうから、隠れて戻ろうにも見つかっていい笑いものだ。
後ろに殺気を感じたエミリアが咄嗟に頭を反らす。うんこだ。投げたうんこが自分で飛びかかって来たのだ。ローゼの頬に一筋の汗が流れた。
「吸血鬼が不死なのは知っていたけれど、まさかうんこまで生きているとは……」
「ローゼさん、よく見てください、あれうんこじゃないですよ」エミリアが指さす。
よく見ると、あれもヒルの様だ。なんだぁ、と思ってホッとしたローゼに、エミリアが「良かったですね」と声をかける。そして続けて「これで、心置きなくレイピアで斬れますよ」。
「斬れるか! あんなとこから出てきたもん!」
ローゼは、本気でキレた。うんこを斬るのは言語道断だが、肛門から出てきたヒルだって言語道断だ。そもそも肛門から出てきた時点でうんこと同じ。百歩譲ってもサナダムシと同じ類の寄生虫。千歩譲っても蟲使いの蟲とは言えない。そもそも、お尻の中で飼っているということは、大腸の中でうんこ食って生きている、ということだ。ヒルの体の中はうんこでいっぱいのはず。あれを斬れば、うんこを斬ったのと違わない。
エミリアが呆れて言った。
「もう男の人のあれだと思ったヒルを斬ったんだから同じですよ」
「違うわよ! まだほら、なに? 肉体の一部じゃない」
「おぱんつの中にあったものという点ではおんなじですよ」
「言わないで~‼」
ローゼは、今すぐにでもレイピアを池で洗いたい気分だ。……て見るとホロヴィッツがいない。探すと、そばの木まで歩いて行って、ペロン、と股間をむき出しにしておしっこをし始めた。
「きゃっ」と目を覆うエミリアに代わって、ローゼが怒鳴る。
「ちょっと、女子の前でそんなとこ出さないでよ! 変態」
ホロヴィッツはゾクゾクゾクと身を悶えさせて、焦点の合わない目で何もない宙を見やってにやける。忘れていた。やつにとって、なじりの言葉は喜びの対象にしかならない。
「……?」とローゼ。
一体何をしているのだろうか。ばしゃ―、とおしっこが勢いよく出ると思っていたローゼは、一向に音が聞こえてこないのをおかしく思って、目の前にかざした指の間からホロヴィッツを見やる。
影絵のようなシルエットは、間違いなく何かを出している。でも液体ではないぞ。よく見るとウネウネとウネっている。のたうつ先っちょが見る見るうちに膨らんで、全貌を表して地面にぼたりと落ちた時には、大きなヒルになっていた。あのヒル、間違いなくおしっこいっぱい水っぱらなはずだ。
「やっぱり投げる気ですか?」と慌てたローゼは、エミリアの背に隠れる。
「ちょっと、わたしを盾にしないでくださいよ」
ホロヴィッツが、深く息を吐きながら言った。
「今度は投げん! 直接服の中に入れてやる!」
「きゃー」(ローゼ&エミリア)
「て、わたしは逃げなくても大丈夫なんですよね」
自分は襲われない、と気がついたエミリアは、走ってくるホロヴィッツをやり過ごした。
「ちょっと! あんたも戦いなさいよ」ローゼの叫び声がエミリアから遠のいていく。
さすがに命と引き換えには出来ない。あいつを倒したら、真っ先にこの剣を捨ててやる、とローゼは心に固く誓った。十六歳の時に親から買ってもらったレイピアであったが、特別高い物ではない。思い出はあるが、ションベン斬りのローゼリッタの異名を持つわけにはいかない。ションベンのレイピアを腰になんか下げたくない。
ローゼは意を決して、第四に構える。迫りくるホロヴィッツ目掛けてフォアステップ(前進)と同時に、高速の刺突を浴びせかけた。
人間、追い詰められると途轍もない力を発揮できるものだ。大きなヒルを乗せたホロヴィッツの右手の肉が、瞬く間に削がれていく。ローゼ必死のマッハ突き。連打連打そのまた連打。長くなったホロヴィッツの爪を火花を散らしながら滑るレイピアで連続ツッケン(小刻みに刺す)。手首を素早くスナップさせて、ホロヴィッツの手のひらをシュニット(スライス)で撫で斬る。
なんという実力の持ち主であることか、ローゼリッタ・クラインワルツ。高度なテクニックを要する技を、恐るべき早業でやってのける。レイピアの重みで、手首と肘には相当な負荷がかかっているはずだが、ローゼの剣速に陰りは見えない。
決めワザとばかりにアブシュネイデン(手首を切り取る技)で残った手の肉を削ぎ落すと、遂にホロビッツの手首は骨だけになった。その骨も叩き落される。
「人間が調子に乗りおって」ホロヴィッツが音が出るほど歯噛みした。
「出来損ないのくせに、人間相手に調子に乗るな」
ローゼは、突きの連射速度を緩めない。残った腕の肉も、オーバルハウ(上から下へ)、ウンターハウ(下から上へ)、ミドルハウ(左から右へ水平切り)、ミッテルハウ(右から左へ水平切り)の巧みなコンビネーションで肉片と化す。
ホロヴィッツは慄然とした。
「バカな! 霊力も扱えない人間の、しかもだだの鉄のレイピアでこんな……!」
ローゼが放つ怒涛の突きを全て全身で受けたホロヴィッツの体の方々から、黒紫がかった赤い血が噴き出る。ローゼの攻撃スピードが速すぎて、回復が追いつかないのだ。
ホロヴィッツの筋肉が萎んでいく。実は、ホロヴィッツの肉体は、筋肉でできているわけではなかった。筋骨隆々に見えていた体は、生娘から奪った血で満たされてパンパンに膨れ上がっていただけなのだ。
その血を魔力に変換して、あの強さ(?)を誇っていた。そうと気がついたローゼは、更にギアをあげる。これでもかと肉を裂くローゼの連撃に、ホロヴィッツは足をもつれさせて、遂に膝をついた。
「ギャ―――‼」
ホロヴィッツは断末魔をあげて、自らの血の海に伏して沈んでいく。
勝った。勝ったのだ。ただの剣士である人間のローゼが、アンデットの王(と言っていいのか分からないえせ物?)である吸血鬼に勝ったのだ。
「やった! やりましたねローゼさん」
何食わぬ顔で勝利を讃えるエミリアが駆け寄る。ローゼは、自分を見捨てて石に座って見物していたエミリアに微笑みかけて、バコッとげんこつした。
「いったぁーい」エミリア涙がちょちょぎれる。
「わたしがやられていたら、どうするつもりだったのよ」
「それは、もちろん帰りますよ。本当もちのろんでっすぅっ」
エミリアは、はっきりと豪語する。
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