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モモタとママと虹の架け橋
第百二十一話 心の奥底から湧く想い
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一天に浮かぶ全ての星が沈黙するようになって、人知の及ばぬ長い時が更に過ぎました。
星であることを諦めなかった星々は、止めどなく溢れる想像力を駆使して、己のような誰かを想像し続けていました。長い年月を経るにしたがって、誰かに会いたいという想いは漸漸(ざんざん)と募っていきます。そしてついには、その身を焦がし始めました。
なんという想いの強さでしょうか。熱情にうなされた星の中心が帯び始めた赤い火照りは、しだいに地中の石を焼き始めます。そしてドロドロに溶かしてしまうまでに変貌を遂げました。
激しく躍動する鼓動は、星そのものを壊しかけないほどの大きさです。溶けた石の燃える勢いはとどまることを知らず、星の中心から溢れだしました。そして、水すら入っていけなかった地中奥深くの裂け目を満たしていきました。
それでもなお溢れる想いのたけは、尽きることなく溢れだします。そしていつしか、地中の裂け目を押し広げるようになりました。
星の中心のすぐ近くにあった裂け目は、全てが想いのたけで満たされてしまっています。マグマと化した熱情を硬い岩盤で抑えきれなくなった星は、ついに耐えきれなくなってしまいました。至るところで地が裂けて、燃える想いが噴出します。我々がよく知っている噴火というものでした。滞留するマグマの上を星の表層が流れてぶつかり、その姿を躍動的に変貌させていきます。
噴き出したマグマは灼熱の川を成し、海底は隆起して山となりました。そして逆に、海に沈んでしまう大地もありました。
空の彼方に散らばる星々は、寸毫(すんごう)たる光で瞬いていましたが、その光は仄か過ぎて、懸隔(けんかく)の向こうまでは届きません。
中には想いが強すぎて木端微塵に砕けてしまう星も出てきました。そうなる星々は、そのことを予期していましたが、想いを募らせることをやめようとはしませんでした。そればかりか、自らの意思で砕け散るほどに憂身をやつし、まだ見ぬ誰かに恋い焦がれたのです。
時にはマグマによって溶かされ、時にはマグマが去って冷やされて固まり、を繰り返しながら、星の想いは次第に純化していきました。泣き枯れたことによって大地は乾き切っていましたから、星の中心では、想いが水に溶けて薄まることがなかったのです。
地中に生まれた想いの粒は、さまざまな光に輝ける結晶へと成長していきました。大地の中を透過する僅かな焔(ほむら)の煌めきによってのみ光り輝きました。星自身も気がついてはいませんでした。己の想いが噴出してできたマグマによって光が生まれたことを。彼らは瞳を開いていなかったからです。夢想するのみだったのです。
ですが、知らず知らずのうちの大地に眠る想いの結晶は、夢の戸張の中で微睡んでいるばかりではなくなっていきました。星に意識があるように、結晶もまた意識を持ち始めたのです。
想いの結晶は、想いそのものでしたから、結晶自らが想い始めたことも無理からぬことだったのでしょう。そして、己以外が存在しないことに嘆き始めたのも、至極当然のことでした。
ですが、生まれた想いの結晶の殆どは、真っ暗闇に閉ざされた大地の奥底で厭世的(えんせてき)に泣き暮れているばかりではありませんでした。星が夢と希望を持って夢想し続けたことによって生まれた結晶でしたから、多くの結晶が、まだ見ぬ誰かに夢想するようになり、果ては懸想(けそう)するようになったのです。
そして、時折透過してくるマグマの仄かな光によって、自らがとても美しく輝けることを知りました。始まりの色が何であったかは分かりません。ですが、煌めいたことだけは確かでした。
結晶は思いました。
「僕はなんて美しい存在なのだろう。一粒ぽっちでいる僕でさえこれほどまでに美しいのだから、まだ見ぬ誰かはもっと美しいに違いない」、と。結晶は更に懸想(けそう)するようになりました。
そうして、結晶たちは更に純度を増して育っていったのです。時々やってくるマグマによって姿かたちを変えられながらも、想いの純化をやめませんでした。
結晶の粒は熟成し、次第に広がりを見せるようになりました。一筋の川のような、咲き乱れた煌めく花房の一朶(いちだ)であるかの如く。
そしてついに、念願がかなう時がやってきました。星々の中で生まれた様々な想いの結晶が出会ったのです。
その出会いは、たまさかの出会いだったのでしょうか。いいえ違います。予知し得るものではありませんでしたが、ある意味予知していたのと同じでした。悠久の星霜を経てなお、懸想(けそう)し続けたことによって、信じ続けたことによって、起こり得た邂逅(かいこう)だったからです。
星の中に歓喜が生まれました。お互いの美しさを讃えあい、寛恕をもって迎え、篤実をもって光を絡み溶け合いました。情誼(じょうぎ)のもとに一つとなった結晶たちは、さらに輝きを増していきます。そして果てしない土を、岩を、大地を巻き込み、さらに煌びやかな色彩の結晶を生んでいきました。正に歓喜の歌に湧くかのようにです。
滂沱の涙によって低き場所が満たされたように。燃え上がる想いによって、大地の隙間が満たされたように。歓喜に沸く思いはどめどもなく溢れ、水もマグマさえも入り込めなかった隙間を埋めていきます。
光には形がありませんでしたから、どんな隙間でさえも照らすことが出来ました。そして、光に満ち満ちて、これ以上光を抱擁することが出来なくなった星が、縹渺(ひょうびょう)とした空のどこかに、忽然と現れました。
たまゆら歓喜が止みました。その刹那の間に、皆がその星に目を奪われました。もはや尽きることのない灼熱の情熱が燃え盛って、神々しい光を放っているではありませんか。太陽の誕生でした。
その光は、懸隔(けんかく)たる天を駆けぬけ、多くの星々を有体に照らし出したのです。再び一天に歓喜が湧きました。
今の今まで自分しか存在しなかった一天は、瞬きする間もなく玉敷きの夜空へと変貌を遂げたのです。
その時星々に溢れた喜びたるや、尋常たるものではありませんでした。たまびすしいこと甚だしい喜びの渦が巻き起こったのでした。
星であることを諦めなかった星々は、止めどなく溢れる想像力を駆使して、己のような誰かを想像し続けていました。長い年月を経るにしたがって、誰かに会いたいという想いは漸漸(ざんざん)と募っていきます。そしてついには、その身を焦がし始めました。
なんという想いの強さでしょうか。熱情にうなされた星の中心が帯び始めた赤い火照りは、しだいに地中の石を焼き始めます。そしてドロドロに溶かしてしまうまでに変貌を遂げました。
激しく躍動する鼓動は、星そのものを壊しかけないほどの大きさです。溶けた石の燃える勢いはとどまることを知らず、星の中心から溢れだしました。そして、水すら入っていけなかった地中奥深くの裂け目を満たしていきました。
それでもなお溢れる想いのたけは、尽きることなく溢れだします。そしていつしか、地中の裂け目を押し広げるようになりました。
星の中心のすぐ近くにあった裂け目は、全てが想いのたけで満たされてしまっています。マグマと化した熱情を硬い岩盤で抑えきれなくなった星は、ついに耐えきれなくなってしまいました。至るところで地が裂けて、燃える想いが噴出します。我々がよく知っている噴火というものでした。滞留するマグマの上を星の表層が流れてぶつかり、その姿を躍動的に変貌させていきます。
噴き出したマグマは灼熱の川を成し、海底は隆起して山となりました。そして逆に、海に沈んでしまう大地もありました。
空の彼方に散らばる星々は、寸毫(すんごう)たる光で瞬いていましたが、その光は仄か過ぎて、懸隔(けんかく)の向こうまでは届きません。
中には想いが強すぎて木端微塵に砕けてしまう星も出てきました。そうなる星々は、そのことを予期していましたが、想いを募らせることをやめようとはしませんでした。そればかりか、自らの意思で砕け散るほどに憂身をやつし、まだ見ぬ誰かに恋い焦がれたのです。
時にはマグマによって溶かされ、時にはマグマが去って冷やされて固まり、を繰り返しながら、星の想いは次第に純化していきました。泣き枯れたことによって大地は乾き切っていましたから、星の中心では、想いが水に溶けて薄まることがなかったのです。
地中に生まれた想いの粒は、さまざまな光に輝ける結晶へと成長していきました。大地の中を透過する僅かな焔(ほむら)の煌めきによってのみ光り輝きました。星自身も気がついてはいませんでした。己の想いが噴出してできたマグマによって光が生まれたことを。彼らは瞳を開いていなかったからです。夢想するのみだったのです。
ですが、知らず知らずのうちの大地に眠る想いの結晶は、夢の戸張の中で微睡んでいるばかりではなくなっていきました。星に意識があるように、結晶もまた意識を持ち始めたのです。
想いの結晶は、想いそのものでしたから、結晶自らが想い始めたことも無理からぬことだったのでしょう。そして、己以外が存在しないことに嘆き始めたのも、至極当然のことでした。
ですが、生まれた想いの結晶の殆どは、真っ暗闇に閉ざされた大地の奥底で厭世的(えんせてき)に泣き暮れているばかりではありませんでした。星が夢と希望を持って夢想し続けたことによって生まれた結晶でしたから、多くの結晶が、まだ見ぬ誰かに夢想するようになり、果ては懸想(けそう)するようになったのです。
そして、時折透過してくるマグマの仄かな光によって、自らがとても美しく輝けることを知りました。始まりの色が何であったかは分かりません。ですが、煌めいたことだけは確かでした。
結晶は思いました。
「僕はなんて美しい存在なのだろう。一粒ぽっちでいる僕でさえこれほどまでに美しいのだから、まだ見ぬ誰かはもっと美しいに違いない」、と。結晶は更に懸想(けそう)するようになりました。
そうして、結晶たちは更に純度を増して育っていったのです。時々やってくるマグマによって姿かたちを変えられながらも、想いの純化をやめませんでした。
結晶の粒は熟成し、次第に広がりを見せるようになりました。一筋の川のような、咲き乱れた煌めく花房の一朶(いちだ)であるかの如く。
そしてついに、念願がかなう時がやってきました。星々の中で生まれた様々な想いの結晶が出会ったのです。
その出会いは、たまさかの出会いだったのでしょうか。いいえ違います。予知し得るものではありませんでしたが、ある意味予知していたのと同じでした。悠久の星霜を経てなお、懸想(けそう)し続けたことによって、信じ続けたことによって、起こり得た邂逅(かいこう)だったからです。
星の中に歓喜が生まれました。お互いの美しさを讃えあい、寛恕をもって迎え、篤実をもって光を絡み溶け合いました。情誼(じょうぎ)のもとに一つとなった結晶たちは、さらに輝きを増していきます。そして果てしない土を、岩を、大地を巻き込み、さらに煌びやかな色彩の結晶を生んでいきました。正に歓喜の歌に湧くかのようにです。
滂沱の涙によって低き場所が満たされたように。燃え上がる想いによって、大地の隙間が満たされたように。歓喜に沸く思いはどめどもなく溢れ、水もマグマさえも入り込めなかった隙間を埋めていきます。
光には形がありませんでしたから、どんな隙間でさえも照らすことが出来ました。そして、光に満ち満ちて、これ以上光を抱擁することが出来なくなった星が、縹渺(ひょうびょう)とした空のどこかに、忽然と現れました。
たまゆら歓喜が止みました。その刹那の間に、皆がその星に目を奪われました。もはや尽きることのない灼熱の情熱が燃え盛って、神々しい光を放っているではありませんか。太陽の誕生でした。
その光は、懸隔(けんかく)たる天を駆けぬけ、多くの星々を有体に照らし出したのです。再び一天に歓喜が湧きました。
今の今まで自分しか存在しなかった一天は、瞬きする間もなく玉敷きの夜空へと変貌を遂げたのです。
その時星々に溢れた喜びたるや、尋常たるものではありませんでした。たまびすしいこと甚だしい喜びの渦が巻き起こったのでした。
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