470 / 502
モモタとママと虹の架け橋
第百十五話 ×と+は無限の力
しおりを挟む
「僕だったらどうするんだろう」キキが神妙な面持ちで言いました。「王者にとって傷跡は男の勲章だよ。とても誇るべきものだと思う。でも、もし僕がそんな大変な状況に陥って、目の前に助けないといけない誰かがいた時、助けに行けるかな。もしかしたら身がすくんでしまうかも」
キキは、「もし僕なら…」と、想像をめぐらせます。「森の中で山火事に遭って、炎にまかれて全身大やけどを負って羽も黒焦げ。もう一生飛べなくなっても、誇れるのかな」
「難しい問題だな」とチュウ太が呻きます。「僕のお家がある人間のお家が火事になって、もしねず子ちゃんが火の海の中に取り残されたら、僕は必ずまっさきに助けにいく。でも、その時のことを想像すると、気持ち悪くて死んでしまいそうだよ。全身が焼かれるなんて。もしかしたら、本当にそうなってないから、『必ず助ける』って言えるのかも。・・・自信がない・・・・・」
キキが言いました。
「今なら僕だって、助けられる。もし飛べなくなっても、自分の姿を誇れるって言えるけど、実際大空を失ってそう思えるかどうか・・・」
カンタンが言いました。
「助けられるよ。そして誇れるさ、キキは。だって君は、それを真剣に考えているんだもん。君はそういう王者の道を歩んでいくんだと思うよ。もちろんチュウ太もね」
キキが言います。「カンタン・・・、君は結構侮れないな」
「喉の袋は伊達じゃないんだぞ、エッヘン!」
モモタが言いました。
「楽しいことも悲しいことも慣れていくんだよ、きっと。初めてお友達ができた時の感動とか、初めてのお別れとか、とても僕の心を動かしたけど、たくさんの出会いの中でそれが当然のように感じるようになったよ。そう感じることも分からなくなるよ。だって、初めての感動をふと思い出した時、とても新鮮な気持ちになるもの。
だから、キキが大変な目に遭ってアルトゥールのように死にたくなったとしても、いつか傷は癒えて楽しい毎日に戻れるような気がする。飛べなくなったって、楽しいことはたくさんあるよ。だって、僕たちといる時あまり飛ばないじゃない。それでも楽しく思ってくれてるでしょ?」
アゲハちゃんが言います。
「飛べないから不幸だって考えが正しいとすると、飛べないモモちゃんとチュウ太は不幸のどん底ってことよね。でも幸せそうよ。だから、そんな心配する必要ないんだわ」
ツマベニチョウのあっちゃんは、綺麗な翅を失ってもなお幸せそうでした。そればかりか、美しかった頃よりも更に綺麗に見えましたし、更に幸せになったことでしょう。
アゲハちゃんは、同じ蝶々としてとても感動したことを覚えています。キキの心配事は杞憂なのだと思いました。
アゲハちゃんが続けます。
「それに、飛べるからこそ不幸だってこともあるでしょう?」
アゲハちゃんは、クジラの背中でお世話になっていた時に見たトビウオの話をしました。
初めはみんな、お魚なのにお空が飛べて凄いなぁ、と思っていましたが、飛んできた鳥にパクッとつままれてしまったお話です。みんなはそのことを思い出して、幸も不幸も表裏一体だと思いました。
カンタンが口を開きます。
「真心が合わさる時って、もしかしたらママが卵を温めるのに似ているのかも。ママのお腹には、ちょうど卵は収まるくらいのへこみがあって柔らかいでしょ? してほしいこととしてあげたいことが合わさった時に、ちょうど温まるんじゃない?」
「確かに」とアゲハちゃんは言って「でも、それは卵だからでしょう? まだ生まれてもいなくて何もできないから仕方ないじゃない。卵とママの関係を大人のお友達に当てはめるのはどうかしら」
アゲハちゃんは、納得がいかないようです。続けて言いました。
「愛し合っているなら、お互いがちゃんと愛し合わないと。一緒の目標に向かって歩んで行けないといけないわ」
「進む道は違うけど、目標は一緒だよ」カンタンが言いました。
「でも、お互い違う方向を見ているわ」
「なんで? 違う道だからって到着するところが違うとは限らないんじゃない? おんなじほうを向いていることだってあるよ。
アルトゥールとククルは別々のほうを向いてたけど、目的は一緒。幸せになりたかったんだ。そして相手を幸せにしたかったんだよ。アルトゥールはククルのほうを、ククルはアルトゥールのほうを向いてるよね。真逆を向いてるよ」
モモタが言いました。
「世界は二枚貝に包まれているんでしょ? なら、ククルが泳いで行った方とは反対のほうに泳いで行けば、反対側の空と海が交わるところに辿り着いて、そのまま天空を泳いで、お空の真ん中でまた再会できるじゃない。遠回りだけど、生と死、真逆に進んでいってみたら距離を縮められたんじゃないかな。ううん、真逆を向いていたからこそ最短距離だったのかも」
「どう言うこと?」カンタンが訊きます。
「向いている前の世界が全てじゃないよ。見えないけど真後ろにも世界はある。背を重ねることで、とてつもない距離を波で流したんだ。二人に距離なんてなかったんだ。
背中を合わせるとこで、世界の中心に二人がいることになるでしょ? 僕は、初めてこの話を聞いた時、とても悲しいお話で涙が出てきたけど、今はとても幸せなお話だと思う。確かに悲しい結末だけど、でも違うんだ。僕は二人のいる中心から離れているんだね、きっと」
アゲハちゃんが、モモタのお腹の上で寝返りを打って言いました。
「もし手を繋いでいれば、向いている方向が違くても、進んでいる方向が違くても、離ればなれにはならないわね。世界は二人を中心に広がっているのだから、道に迷うこともないわ。だって二人がいるべき場所は、今その時いる場所なのだから。
それに、二人の進む方向が違えは、その力が影響し合って新しい進む道も生まれるかもしれないものね」
それからアゲハちゃんは、加えて言いました。
「でも、やっぱりお返しは欲しいわ。大好きな人から自分が望むことをしてほしいって思うのも愛あればよ」
確かにそうです。みんなも同じように思いました。
キキは、「もし僕なら…」と、想像をめぐらせます。「森の中で山火事に遭って、炎にまかれて全身大やけどを負って羽も黒焦げ。もう一生飛べなくなっても、誇れるのかな」
「難しい問題だな」とチュウ太が呻きます。「僕のお家がある人間のお家が火事になって、もしねず子ちゃんが火の海の中に取り残されたら、僕は必ずまっさきに助けにいく。でも、その時のことを想像すると、気持ち悪くて死んでしまいそうだよ。全身が焼かれるなんて。もしかしたら、本当にそうなってないから、『必ず助ける』って言えるのかも。・・・自信がない・・・・・」
キキが言いました。
「今なら僕だって、助けられる。もし飛べなくなっても、自分の姿を誇れるって言えるけど、実際大空を失ってそう思えるかどうか・・・」
カンタンが言いました。
「助けられるよ。そして誇れるさ、キキは。だって君は、それを真剣に考えているんだもん。君はそういう王者の道を歩んでいくんだと思うよ。もちろんチュウ太もね」
キキが言います。「カンタン・・・、君は結構侮れないな」
「喉の袋は伊達じゃないんだぞ、エッヘン!」
モモタが言いました。
「楽しいことも悲しいことも慣れていくんだよ、きっと。初めてお友達ができた時の感動とか、初めてのお別れとか、とても僕の心を動かしたけど、たくさんの出会いの中でそれが当然のように感じるようになったよ。そう感じることも分からなくなるよ。だって、初めての感動をふと思い出した時、とても新鮮な気持ちになるもの。
だから、キキが大変な目に遭ってアルトゥールのように死にたくなったとしても、いつか傷は癒えて楽しい毎日に戻れるような気がする。飛べなくなったって、楽しいことはたくさんあるよ。だって、僕たちといる時あまり飛ばないじゃない。それでも楽しく思ってくれてるでしょ?」
アゲハちゃんが言います。
「飛べないから不幸だって考えが正しいとすると、飛べないモモちゃんとチュウ太は不幸のどん底ってことよね。でも幸せそうよ。だから、そんな心配する必要ないんだわ」
ツマベニチョウのあっちゃんは、綺麗な翅を失ってもなお幸せそうでした。そればかりか、美しかった頃よりも更に綺麗に見えましたし、更に幸せになったことでしょう。
アゲハちゃんは、同じ蝶々としてとても感動したことを覚えています。キキの心配事は杞憂なのだと思いました。
アゲハちゃんが続けます。
「それに、飛べるからこそ不幸だってこともあるでしょう?」
アゲハちゃんは、クジラの背中でお世話になっていた時に見たトビウオの話をしました。
初めはみんな、お魚なのにお空が飛べて凄いなぁ、と思っていましたが、飛んできた鳥にパクッとつままれてしまったお話です。みんなはそのことを思い出して、幸も不幸も表裏一体だと思いました。
カンタンが口を開きます。
「真心が合わさる時って、もしかしたらママが卵を温めるのに似ているのかも。ママのお腹には、ちょうど卵は収まるくらいのへこみがあって柔らかいでしょ? してほしいこととしてあげたいことが合わさった時に、ちょうど温まるんじゃない?」
「確かに」とアゲハちゃんは言って「でも、それは卵だからでしょう? まだ生まれてもいなくて何もできないから仕方ないじゃない。卵とママの関係を大人のお友達に当てはめるのはどうかしら」
アゲハちゃんは、納得がいかないようです。続けて言いました。
「愛し合っているなら、お互いがちゃんと愛し合わないと。一緒の目標に向かって歩んで行けないといけないわ」
「進む道は違うけど、目標は一緒だよ」カンタンが言いました。
「でも、お互い違う方向を見ているわ」
「なんで? 違う道だからって到着するところが違うとは限らないんじゃない? おんなじほうを向いていることだってあるよ。
アルトゥールとククルは別々のほうを向いてたけど、目的は一緒。幸せになりたかったんだ。そして相手を幸せにしたかったんだよ。アルトゥールはククルのほうを、ククルはアルトゥールのほうを向いてるよね。真逆を向いてるよ」
モモタが言いました。
「世界は二枚貝に包まれているんでしょ? なら、ククルが泳いで行った方とは反対のほうに泳いで行けば、反対側の空と海が交わるところに辿り着いて、そのまま天空を泳いで、お空の真ん中でまた再会できるじゃない。遠回りだけど、生と死、真逆に進んでいってみたら距離を縮められたんじゃないかな。ううん、真逆を向いていたからこそ最短距離だったのかも」
「どう言うこと?」カンタンが訊きます。
「向いている前の世界が全てじゃないよ。見えないけど真後ろにも世界はある。背を重ねることで、とてつもない距離を波で流したんだ。二人に距離なんてなかったんだ。
背中を合わせるとこで、世界の中心に二人がいることになるでしょ? 僕は、初めてこの話を聞いた時、とても悲しいお話で涙が出てきたけど、今はとても幸せなお話だと思う。確かに悲しい結末だけど、でも違うんだ。僕は二人のいる中心から離れているんだね、きっと」
アゲハちゃんが、モモタのお腹の上で寝返りを打って言いました。
「もし手を繋いでいれば、向いている方向が違くても、進んでいる方向が違くても、離ればなれにはならないわね。世界は二人を中心に広がっているのだから、道に迷うこともないわ。だって二人がいるべき場所は、今その時いる場所なのだから。
それに、二人の進む方向が違えは、その力が影響し合って新しい進む道も生まれるかもしれないものね」
それからアゲハちゃんは、加えて言いました。
「でも、やっぱりお返しは欲しいわ。大好きな人から自分が望むことをしてほしいって思うのも愛あればよ」
確かにそうです。みんなも同じように思いました。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
おなら、おもっきり出したいよね
魚口ホワホワ
児童書・童話
ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。
でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。
そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。
やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
スペクターズ・ガーデンにようこそ
一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。
そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。
しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。
なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。
改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
にきの奇怪な間話
葉野亜依
児童書・童話
十三歳の夏休み。久しぶりに祖母の家へと訪れた少年・にきは、突然奇怪なモノ――所謂あやかしが見えるようになってしまった。
彼らの言動に突っ込みつつ、彼らの存在を受け入れつつ、それでも毎日振り回されてばかり。
小鬼や動き出す欄間、河童に喋る吐水龍、更には狐憑きの女の子も現れて……。
普通の少年と奇怪なモノたちによる、ひと夏の日常あやかし話。
ゆめじゃないゆめ [連載版]
itaeya
児童書・童話
夢か幻か-大人も子供も引き込まれる、不思議な森へようこそ。
主人公のさとちゃんが歩き進む森。
そこで待ち受けていたのは、友達のまこちゃんや大好きなお母さんとの出会い。
そして、最後に待ち受けていたのは…。
さとちゃんが居る世界は一体、夢なのか現実なのか。
それぞれがさとちゃんに伝えるメッセージは、大人にも子供にもきっと大切なもの。
温かなものが心に残る一冊です。
★絵本ひろばにて公開中の絵本"ゆめじゃないゆめ"の連載版です。
https://ehon.alphapolis.co.jp/content/detail/345
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる