猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第百三話 別れなんて愛の前では存在しえない

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 まだ一日と経ってはいないのですが、とても長い日々を過ごしていたかのように思えます。透明度の高い海水ですから、遠くのほうでこちらの様子を窺うイルカたちが泳いでいるのが、モモタたちにも分かりました。

 モモタは言いました。

 「ニーラちゃん、僕たちと一緒に冒険しようよ。もしニーラちゃんが望むなら、僕、虹の雫をニーラちゃんにあげてもいいと思うんだ」

 「モモちゃんっ」アゲハちゃんがびっくりして叫びます。

 その言葉を遮って、モモタがみんなに言いました。

 「ううん、いいんだ。ニーラちゃんは、幼いころにパパやママと別れ別れになってずっと一人でいるでしょう? クークブアジハーがそばにいるけど、人魚は一人もいないじゃない。

  僕も小さなころにママと別れ別れになっちゃったけど、まだちょっとしかたっていないもの。虹の雫がなくたって、また出会えると思うんだ。

  それよりも、愛のため一人ぽっちになっちゃったニーラちゃんに、パパやママと再会してほしいんだ」

 「モモタ・・・」とチュウ太が思わず声を漏らしました。

 ニーラがとても優しく微笑みます。

 「わたしは、お父様とお母様の愛情によって守られているの。だから、わたしはここから離れられないの。いいえ、離れたくないのだわ、きっと。

  だから、えくぼちゃんがここの守部をしてくれているように、わたしもお父様やお母様と、愛の守部をしているのよ。あの日から一度も会えていないけれども、離ればなれになったなんて、これっぽっちも思っていないわ。だって今も一緒にいるって感じられるんですもの。わたしたち家族は、今も一緒に時を過ごしているわ」

 モモタは訊きました。

 「旅立った人魚たちのために願い事を使ったら?」

 「みんなだって同じはずよ。海の端っこにいたとしても、みんなの愛情は感じているはずだわ。寄せてはかえす波のように、愛情は満ち引きを繰り返しながら溢れていくの。

  今満ち潮なのか引き潮なのかは分からないけれど、愛情が消滅するなんてことはない。だって、こんなにも美しい海が広がっているのですもの」

 ニーラは、広がる海を見渡してそう言いました。

 「それにね」とニーラが続けます。「モモタの愛情も、世界の愛情の一つなのよ。モモタが一匹愛を育めば、一匹分の愛が世界に増える。ううん、一匹分ではないでしょうね。アゲハちゃんにキキ、チュウ太との間に愛情が芽生えたのだから、四匹分ね。

  それ以外でもたくさんの旅行で愛を育んできたでしょう? そうやって愛情は満ちていくのよ。

  だから、モモタはモモタの愛情を体現して見せて。地上にだって真実の愛が満ちているんだって」

 「うん」

 ニーラは、モモタたちの乗ったあぶく船を送り出してから、クークブアジハーに言いました。

 「今は食べちゃダメよ。あの子たちには愛情を育んでほしいんだから」

 「ああ、食べない」とクークブアジハーが答えます。

 すかさずチュウ太がつっこみます。

 「後でならいいのかよ」

 「うふ」とニーラが微笑みます。「食べちゃいたいのも愛情の一つ。命を繋ぐために食べさせてあげるのも、愛情のかたちなのよ。母が我が子にミルクをあげるように…ね」

 みんなは、とても名残惜しくて、いつまでも手や翼や前足を振り合いました。

 モモタたちが海面に戻ると、すかさずちゅらが質問攻めにしました。どうやって戻ってきたのか、あの人魚は誰なのか、何故クークブアジハーと仲良さそうに泳いできたのか、中はどうなっていたのか、虹の雫はあったのか、などなどです。

 モモタたちは、何から話してよいか分からなかったので、色々な場面を順番に話して聞かせます。クジラもイルカもモモタたちの話に聞き入ります。

 話がひと段落すると、アカウミガメのマリアジュリアおばさんが言いました。

 「人魚の物語は、東のほうの海にもあるわ。」

 マリアジュリアおばさんは、『ジュエリー・マーメード』という物語を話して聞かせてくれました。
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