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モモタとママと虹の架け橋
第九十五話 本当の愛、偽りの愛
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第三景 力
(シルチを追いかけまわすタッチューと、オーサンを追いかけまわすボーチラ)
タッチュー
「俺はこのフカの谷を治める最強のサメだ。
外海広しといえども誰も奪えやしない、
クジラたちさえよけて通る」
シルチ 「おやめください、タッチュー様、
わたしはあなたを想っていません」
タッチュー
「お前の想いなど俺にとっては関係ない、
俺が思うことが全てなのだ」
シルチ 「なにバカをおっしゃるのですか、
わたしのことはわたしが決めます」
タッチュー
「いいや、違う、この谷では、そんな理(ことわり)は通用せん。
俺が決めたことが、お前のなすこと、
お前がすべきは我妻になること」
さまざまなサメたち合唱
「ここの掟を違える(たがえる)ならば、
かならず鮫誅が下るだろう。
もし力に従わなくていいのなら、見るも無残に朽ち果てる。
なんせ誰もが従わないから、勝手放題し放題」
(みんなでアオザメのガッパイとイタチザメのワタブーを仰いで)
「見ろ、アオザメとイタチザメの巨大なさまを、
もしタッチュー様の覇業がなければ、
我らは既に食い散らかって、無残な肉片。
クンジュンとトゥリトールとて同じこと、
ボーチラ様がおわしにならなかったなら、
既にジュゴンの姫は死んでいるだろうよ」
タッチュー
「そうさ、お前はこの谷の平和を乱してそれで平気なのか。
お前が俺に従いさえすれば、誰も死なずに済むというもの」
ボーチラ「オーサン様、このわたしが、あなたのことを迎えにきました。
わたしは、この谷の覇者、そこにいるタッチューの妹、
あなたにとって不足はないはず」
オーサン「麗しきサメの姫、その悠然なる、
冷たい美貌に代わるものなどどこにもないが、
僕はあのシルチを愛しているのだ」
ボーチラ「わたしとて同じこと、あなたのことを愛しています。
ならばあなたはわたしのものに、ならぬ道理がありません」
オーサン「愛とは互いに与え合うもの、相手のために払うもの。
僕がシルチを愛しているなら、緑の木々があるように、
あなたは静かに花咲かせず、葉を萌え芽吹かせるべき。
僕とシルチが結ばれて、その結晶が美しく、
見るも眩しく花開いたなら、それを優しく讃えてほしい」
ボーチラ「ですが愛は尽きるもの、花の命は短くて、
すぐに萎れて枯れるもの。
落ちて残った枯れ花は、見るも無残ななれの果て。
もしそのような出会いだったらどうするのです。
もし尽きたのならどうするのです。
あの者ではあなた様には、何も与えてくれぬでしょう。
ですがわたしは違います、わたしは覇者の妹ですから、
あなたに力を授けられます。
どんなに強いサメであっても、あなたに牙をむくことなんて、
微塵も思いつきません。
ご覧くださいわたしの口を、無数の牙が生えています。
あなたに痛みを与えられます、極上の痛みを存分に」
オーサン「痛みなど欲しいものか」
ボーチラ 「それはわたしを知らぬから。
痛みの強弱はつけられますの、弱い痛みはかゆみと言います。
あなたの肌は滑らかだから、わたしの牙先、
つまずくことなく引けるでしょう」
オーサン「それを望む者は多いだろうが、僕は望んでいないのだから、
誰も見ぬ花と同じ、咲いて、なおないのと同じこと」
ボーチラ「いいえそれは違います。
わたしが引く肌の傷が、あなたを幸せに導くのです。
甘噛みされて心地良い内に、イルカ生を全うできるのです。
もし愛を手に入れたとしても、あの者といれば全ては渡難、
越えられる波も越えられません」
タッチュー
「さあシルチ、お前は何を持っているというか、
何も持ってはいないだろう。
速く泳げる身の形も、海を切り裂く鋭い背びれも。
何より体に見合わぬその非力な命は、
ないない尽くしの表れだろう。
見よ俺の歯の大きさを、ジュゴンもイルカも一嚙みで千切れる。
二列、三列と並んでいるのは、折れてもすぐに生える証拠。
俺の強さを認めぬわけにはいかぬだろう」
シルチ 「いいえ、
海の覇者タッチュー様、あなたは確かにお強いけれども、
それは弱さの裏返し…」
タッチュー 「なにをバカな」
シルチ 「その歯がなかったとしたら、一体だれが、
あなたに従うものなのでしょう。
いいえ誰も従いはしません、だって食い殺られないのだから」
タッチュー
「それは世の理ではないか、
弱肉強食、牙と巨体は強者の証」
シルチ 「いいえ、
強さはしいたげることとは違います。
ジンベイザメは強者だけれど、小魚を虐げたりはいたしません。
マンタをご覧になったことは?
あの方たちは多くの美しい魚を従えた公子であって公女なのです。
従えたるも貴き者たち、それだけの徳がおありなのです」
タッチューと《ボーチラ》
(合唱)
「お前は《あなたは》目がくらんでいるだけ、
一時の衝動に惑わされているだけ。
冷静によく考えてみろ《みて》、
ジュゴンと《イルカと》何ができる? 力の前ではクラゲと同じ、
波間に漂い、カメに食われるがまま死んでいくだけ。
そもそもあれは生き物なのか? 無用の長物というものだろう」
オーサンと《シルチ》
(合唱)
「優しさだって強さの一つ、現にジンベイサメを襲ったことは?
マンタに襲い掛かったことは?」
タッチュー
「来ればみんな襲ってやるさ、来ないことが弱さの証」
オーサン「いいや違う、ここに来ないのが強さの証、他の海を泳げる証、
秘めた力が強すぎて、この谷を見向きもしないだけ」
シルチ 「あなた(タッチュー)は確かに大きいけれど、
クジラたちには敵いません。
ジンベイザメにも敵いません。
それなのになぜ言えるのですか? 自分が一番強いんだって。
それはあなたが弱いから、この谷から出られないから。
この谷にいる、
わたし一頭を餌食にできないサメしか従えられないから」
タッチュー
(激怒して)
「ええい、優しくすれば付け上がりやがって、
お前ら全員食べてやる! ジュゴンもイルカも食べてやる」
(タッチュー、ガッパイ、ワタブー、ボーチラ、クンジュン、トゥリトールが、イルカとジュゴンに襲い掛かる。大混乱)
(シルチを追いかけまわすタッチューと、オーサンを追いかけまわすボーチラ)
タッチュー
「俺はこのフカの谷を治める最強のサメだ。
外海広しといえども誰も奪えやしない、
クジラたちさえよけて通る」
シルチ 「おやめください、タッチュー様、
わたしはあなたを想っていません」
タッチュー
「お前の想いなど俺にとっては関係ない、
俺が思うことが全てなのだ」
シルチ 「なにバカをおっしゃるのですか、
わたしのことはわたしが決めます」
タッチュー
「いいや、違う、この谷では、そんな理(ことわり)は通用せん。
俺が決めたことが、お前のなすこと、
お前がすべきは我妻になること」
さまざまなサメたち合唱
「ここの掟を違える(たがえる)ならば、
かならず鮫誅が下るだろう。
もし力に従わなくていいのなら、見るも無残に朽ち果てる。
なんせ誰もが従わないから、勝手放題し放題」
(みんなでアオザメのガッパイとイタチザメのワタブーを仰いで)
「見ろ、アオザメとイタチザメの巨大なさまを、
もしタッチュー様の覇業がなければ、
我らは既に食い散らかって、無残な肉片。
クンジュンとトゥリトールとて同じこと、
ボーチラ様がおわしにならなかったなら、
既にジュゴンの姫は死んでいるだろうよ」
タッチュー
「そうさ、お前はこの谷の平和を乱してそれで平気なのか。
お前が俺に従いさえすれば、誰も死なずに済むというもの」
ボーチラ「オーサン様、このわたしが、あなたのことを迎えにきました。
わたしは、この谷の覇者、そこにいるタッチューの妹、
あなたにとって不足はないはず」
オーサン「麗しきサメの姫、その悠然なる、
冷たい美貌に代わるものなどどこにもないが、
僕はあのシルチを愛しているのだ」
ボーチラ「わたしとて同じこと、あなたのことを愛しています。
ならばあなたはわたしのものに、ならぬ道理がありません」
オーサン「愛とは互いに与え合うもの、相手のために払うもの。
僕がシルチを愛しているなら、緑の木々があるように、
あなたは静かに花咲かせず、葉を萌え芽吹かせるべき。
僕とシルチが結ばれて、その結晶が美しく、
見るも眩しく花開いたなら、それを優しく讃えてほしい」
ボーチラ「ですが愛は尽きるもの、花の命は短くて、
すぐに萎れて枯れるもの。
落ちて残った枯れ花は、見るも無残ななれの果て。
もしそのような出会いだったらどうするのです。
もし尽きたのならどうするのです。
あの者ではあなた様には、何も与えてくれぬでしょう。
ですがわたしは違います、わたしは覇者の妹ですから、
あなたに力を授けられます。
どんなに強いサメであっても、あなたに牙をむくことなんて、
微塵も思いつきません。
ご覧くださいわたしの口を、無数の牙が生えています。
あなたに痛みを与えられます、極上の痛みを存分に」
オーサン「痛みなど欲しいものか」
ボーチラ 「それはわたしを知らぬから。
痛みの強弱はつけられますの、弱い痛みはかゆみと言います。
あなたの肌は滑らかだから、わたしの牙先、
つまずくことなく引けるでしょう」
オーサン「それを望む者は多いだろうが、僕は望んでいないのだから、
誰も見ぬ花と同じ、咲いて、なおないのと同じこと」
ボーチラ「いいえそれは違います。
わたしが引く肌の傷が、あなたを幸せに導くのです。
甘噛みされて心地良い内に、イルカ生を全うできるのです。
もし愛を手に入れたとしても、あの者といれば全ては渡難、
越えられる波も越えられません」
タッチュー
「さあシルチ、お前は何を持っているというか、
何も持ってはいないだろう。
速く泳げる身の形も、海を切り裂く鋭い背びれも。
何より体に見合わぬその非力な命は、
ないない尽くしの表れだろう。
見よ俺の歯の大きさを、ジュゴンもイルカも一嚙みで千切れる。
二列、三列と並んでいるのは、折れてもすぐに生える証拠。
俺の強さを認めぬわけにはいかぬだろう」
シルチ 「いいえ、
海の覇者タッチュー様、あなたは確かにお強いけれども、
それは弱さの裏返し…」
タッチュー 「なにをバカな」
シルチ 「その歯がなかったとしたら、一体だれが、
あなたに従うものなのでしょう。
いいえ誰も従いはしません、だって食い殺られないのだから」
タッチュー
「それは世の理ではないか、
弱肉強食、牙と巨体は強者の証」
シルチ 「いいえ、
強さはしいたげることとは違います。
ジンベイザメは強者だけれど、小魚を虐げたりはいたしません。
マンタをご覧になったことは?
あの方たちは多くの美しい魚を従えた公子であって公女なのです。
従えたるも貴き者たち、それだけの徳がおありなのです」
タッチューと《ボーチラ》
(合唱)
「お前は《あなたは》目がくらんでいるだけ、
一時の衝動に惑わされているだけ。
冷静によく考えてみろ《みて》、
ジュゴンと《イルカと》何ができる? 力の前ではクラゲと同じ、
波間に漂い、カメに食われるがまま死んでいくだけ。
そもそもあれは生き物なのか? 無用の長物というものだろう」
オーサンと《シルチ》
(合唱)
「優しさだって強さの一つ、現にジンベイサメを襲ったことは?
マンタに襲い掛かったことは?」
タッチュー
「来ればみんな襲ってやるさ、来ないことが弱さの証」
オーサン「いいや違う、ここに来ないのが強さの証、他の海を泳げる証、
秘めた力が強すぎて、この谷を見向きもしないだけ」
シルチ 「あなた(タッチュー)は確かに大きいけれど、
クジラたちには敵いません。
ジンベイザメにも敵いません。
それなのになぜ言えるのですか? 自分が一番強いんだって。
それはあなたが弱いから、この谷から出られないから。
この谷にいる、
わたし一頭を餌食にできないサメしか従えられないから」
タッチュー
(激怒して)
「ええい、優しくすれば付け上がりやがって、
お前ら全員食べてやる! ジュゴンもイルカも食べてやる」
(タッチュー、ガッパイ、ワタブー、ボーチラ、クンジュン、トゥリトールが、イルカとジュゴンに襲い掛かる。大混乱)
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