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モモタとママと虹の架け橋
八十七話 大海原
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第三幕 真実の愛を探して
イルカの住むサンゴ礁の海。オーサンの寝床。箱庭風で海面に顔を出す岩に囲まれている。
第一景 旅立ち
(オーサンは一頭でいる)
オーサン「あの娘たちは、地上に咲く花のように可憐だけれど、
しかしその美しさは、誰のために花開いたのか。
少なくとも僕じゃない、美しいとは思うけれども、
心の奥深くまでは届かない。
呼び覚まさないのだ、一切何も、彼女らに対する愛する気持ち」
(岩の外側に向かって)
「誰かいるか?」
侍従A 「はいここに」
オーサン「キキを呼んでおくれ」
侍従A 「今すぐに」
(茶色いイルカのキキが入ってくる)
キキ (オーサンの寝床に入って来るなり)
「どーしたんだい僕を呼んで、空気の輪でもくぐりたいのかい?」
オーサン「いいところに来てくれたね、僕はもう準備万端」
キキ (オーサンの周りをぐるぐる泳ぎ回る)
「ああ、大海原に旅立とうと言うのか?
ここより深い海の彼方に…。
君はいつだってそうだ、君の心は海よりも青く、空よりも広く、
空気よりも澄み渡っている」
オーサン「そうさ、僕をとりこには出来ない、
飛び上がっても空に届かないように、
抱き込んでも胸びれに海が収まらないように、
空気の姿を見通せないように」
(キキと泳ぎだす)
「僕は希望に満ちている」
キキ 「そうさ」
オーサン「運命のイルカにきっと出会える」
キキ 「もちろん」
オーサン「長い旅になるかもしれない」
キキ 「いつまでだって待っているさ」
オーサン「だから君に話したんだ、唯一応援してくれると信じられたから。
固い友情で結ばれた、僕たちの関係はゆるぎない、
君の応援があったらればこそ、奮い立つ。
もしかしたらサンゴの向こう、外洋のさらに向こう、
この海のようなサンゴ礁、見渡す限りのサンゴ礁、
あるならそこに必ずいるはず、
僕と運命を共にする可憐な乙女が」
キキ 「そうさ、僕らは莫逆の友、行ってこいよ、飽くほどまでに。
イルカ生は長い冒険なのだから、伴侶も共に泳ぐのだから」
オーサン「ああ、行ってくるよ、どこまでだって、
平たい大地に囲まれた、丸い海を全て回るさ」
(景色が下手に向かって回り始める)
(オーサンは中央にいて、上手に向かって泳いでいる。一頭で色々なサンゴの海を回っていく。そして、上手へと姿を消す)
第二景 大嵐
(空はくすんだ鼠色の分厚い雲に覆われている。高々と上がる波は、シロナガスクジラよりも大きい。四方八方でぶつかり合って弾け砕ける。
青い海は濁ってしまっている)
波合唱 (オーサンに向かって)
「誰だお前はいつからいるのか、ここはお前の来るところではない。
どこで育ったのか? この荒海を乗り越えることはお前には無理、
クジラですら難しいのに、シャチですら難しいのに。
ホオジロザメすら深くに潜み、ジンベイザメすら浅瀬に逃げる」
オーサン(息継ぎすらままならず)
「ああ、これが大海の洗礼か、深く潜れば暗黒が広がる、
聞こえてくるのは、死へといざなう子守唄。
海面近くに浮上したなら、頭に響く波風の音、
まくしたてるように歌うその声は、死の淵へ送る送迎歌」
波合唱 「なにも知らないイルカの青年、これは命を育む讃美歌。
光の届かぬ深海にたまった命を呼び起こし、
光をいだいた赤子を深くへ沈めるための讃美歌ぞ。
陰と陽の理を知らぬのか?」
オーサン「僕は光り輝くサンゴの海の、その中心からやってきた。
光の射さぬことなど全く信じられないところから、
夜の闇さえ月と星々、どんな岩場の隙間でさえも、
漆黒に抱擁されることなどない海から」
(溺れもがきながら)
「闇など怖いだけではないか、今私を襲う恐怖そのもの、
沈んだ先には冥界がある、死者が住まう暗黒の海」
波合唱 「よもや何も知らずにやってきたのではあるまいな。
この雨風は、命を育む天の恵み、確かに恐れ慄くべきだけれども、
畏れ敬うべきでもあるもの。
世界は横に広がるだけに非ず、縦に広がる世界もあるのだ。
重きは沈んで軽きは浮かぶ、
魂と魄は二つに分かれ、恋い焦がれて互いを呼び合う」
波A 「大地は海と別れ別れに」
波B 「光は影と別れ別れに」
波C 「真水は海水と別れ別れに」
波合唱 「…嵐はそれらの嘆き集まり、膨れ上がった感情の果て。
噴き出すことによってのみ、願い事が成就される、
黙っていては腐っていくだけ…」
オーサン「ならば男と女も別れ別れか、僕は運命の女性を探しているのだ。
ゆえに僕の嘆きもこの中にあるはず、僕の陰はどこにあるのか」
波合唱 「陰と陽は二つで一つ、分かれていても二つで一つ、
どちらも陰で、どちらも陽、お前にとっての陰である陽が、
女であるとは限らない。
お前はこのまま藻屑と化して、深海の命を育む糧になる、
光をいだいた赤子と化して、深い海へと沈んでいくのだ」
オーサン「ああ、そのような恐ろしいこと、この身に起こってなるものか。
しかしここはこの世の海獄か、なんと恐ろしい荒れ狂う海よ。
幾万のウミヘビが、狂乱の宴を貪るかのごとく、
見渡す限りの大空を所狭しと埋め尽くす」
波合唱 「生と死とて陰と陽、生まれるから死があるのだから。
死は恐れるものに非ず、新しい命を育む神聖なるもの。
光しか知らぬイルカの青年、
闇に沈む心地良さを知ることが出来ればこの大海原の、
生まれ出る命の喜びの声が、余すことなく聞こえよう」
オーサン 「否、
そのようなこと、信じられない」
波A 「だが、それも真理の一つ」
波B 「お前が魚肉を喰らうことで、すこぶる幸せを得たように、
深海の命も幸せを得る。
お前が流した尿やふんが、皆をすこぶる幸せにしたように、
お前を糧にした喜びが、また新しい喜びを生んでいくのだ」
波C 「それで世界は輪廻している。
姿かたちは違うけれども、喜びも悲しみも覚えていないけれども、
皆いつの時代も生まれ変わる」
波A 「お前とてそれは同じこと」
波B 「悠久の時、お前は生まれ変わってきた」
波C 「そして永遠に生きていく、輪廻転生の輪の中で」
(徐々に暗転し幕が閉じる)
イルカの住むサンゴ礁の海。オーサンの寝床。箱庭風で海面に顔を出す岩に囲まれている。
第一景 旅立ち
(オーサンは一頭でいる)
オーサン「あの娘たちは、地上に咲く花のように可憐だけれど、
しかしその美しさは、誰のために花開いたのか。
少なくとも僕じゃない、美しいとは思うけれども、
心の奥深くまでは届かない。
呼び覚まさないのだ、一切何も、彼女らに対する愛する気持ち」
(岩の外側に向かって)
「誰かいるか?」
侍従A 「はいここに」
オーサン「キキを呼んでおくれ」
侍従A 「今すぐに」
(茶色いイルカのキキが入ってくる)
キキ (オーサンの寝床に入って来るなり)
「どーしたんだい僕を呼んで、空気の輪でもくぐりたいのかい?」
オーサン「いいところに来てくれたね、僕はもう準備万端」
キキ (オーサンの周りをぐるぐる泳ぎ回る)
「ああ、大海原に旅立とうと言うのか?
ここより深い海の彼方に…。
君はいつだってそうだ、君の心は海よりも青く、空よりも広く、
空気よりも澄み渡っている」
オーサン「そうさ、僕をとりこには出来ない、
飛び上がっても空に届かないように、
抱き込んでも胸びれに海が収まらないように、
空気の姿を見通せないように」
(キキと泳ぎだす)
「僕は希望に満ちている」
キキ 「そうさ」
オーサン「運命のイルカにきっと出会える」
キキ 「もちろん」
オーサン「長い旅になるかもしれない」
キキ 「いつまでだって待っているさ」
オーサン「だから君に話したんだ、唯一応援してくれると信じられたから。
固い友情で結ばれた、僕たちの関係はゆるぎない、
君の応援があったらればこそ、奮い立つ。
もしかしたらサンゴの向こう、外洋のさらに向こう、
この海のようなサンゴ礁、見渡す限りのサンゴ礁、
あるならそこに必ずいるはず、
僕と運命を共にする可憐な乙女が」
キキ 「そうさ、僕らは莫逆の友、行ってこいよ、飽くほどまでに。
イルカ生は長い冒険なのだから、伴侶も共に泳ぐのだから」
オーサン「ああ、行ってくるよ、どこまでだって、
平たい大地に囲まれた、丸い海を全て回るさ」
(景色が下手に向かって回り始める)
(オーサンは中央にいて、上手に向かって泳いでいる。一頭で色々なサンゴの海を回っていく。そして、上手へと姿を消す)
第二景 大嵐
(空はくすんだ鼠色の分厚い雲に覆われている。高々と上がる波は、シロナガスクジラよりも大きい。四方八方でぶつかり合って弾け砕ける。
青い海は濁ってしまっている)
波合唱 (オーサンに向かって)
「誰だお前はいつからいるのか、ここはお前の来るところではない。
どこで育ったのか? この荒海を乗り越えることはお前には無理、
クジラですら難しいのに、シャチですら難しいのに。
ホオジロザメすら深くに潜み、ジンベイザメすら浅瀬に逃げる」
オーサン(息継ぎすらままならず)
「ああ、これが大海の洗礼か、深く潜れば暗黒が広がる、
聞こえてくるのは、死へといざなう子守唄。
海面近くに浮上したなら、頭に響く波風の音、
まくしたてるように歌うその声は、死の淵へ送る送迎歌」
波合唱 「なにも知らないイルカの青年、これは命を育む讃美歌。
光の届かぬ深海にたまった命を呼び起こし、
光をいだいた赤子を深くへ沈めるための讃美歌ぞ。
陰と陽の理を知らぬのか?」
オーサン「僕は光り輝くサンゴの海の、その中心からやってきた。
光の射さぬことなど全く信じられないところから、
夜の闇さえ月と星々、どんな岩場の隙間でさえも、
漆黒に抱擁されることなどない海から」
(溺れもがきながら)
「闇など怖いだけではないか、今私を襲う恐怖そのもの、
沈んだ先には冥界がある、死者が住まう暗黒の海」
波合唱 「よもや何も知らずにやってきたのではあるまいな。
この雨風は、命を育む天の恵み、確かに恐れ慄くべきだけれども、
畏れ敬うべきでもあるもの。
世界は横に広がるだけに非ず、縦に広がる世界もあるのだ。
重きは沈んで軽きは浮かぶ、
魂と魄は二つに分かれ、恋い焦がれて互いを呼び合う」
波A 「大地は海と別れ別れに」
波B 「光は影と別れ別れに」
波C 「真水は海水と別れ別れに」
波合唱 「…嵐はそれらの嘆き集まり、膨れ上がった感情の果て。
噴き出すことによってのみ、願い事が成就される、
黙っていては腐っていくだけ…」
オーサン「ならば男と女も別れ別れか、僕は運命の女性を探しているのだ。
ゆえに僕の嘆きもこの中にあるはず、僕の陰はどこにあるのか」
波合唱 「陰と陽は二つで一つ、分かれていても二つで一つ、
どちらも陰で、どちらも陽、お前にとっての陰である陽が、
女であるとは限らない。
お前はこのまま藻屑と化して、深海の命を育む糧になる、
光をいだいた赤子と化して、深い海へと沈んでいくのだ」
オーサン「ああ、そのような恐ろしいこと、この身に起こってなるものか。
しかしここはこの世の海獄か、なんと恐ろしい荒れ狂う海よ。
幾万のウミヘビが、狂乱の宴を貪るかのごとく、
見渡す限りの大空を所狭しと埋め尽くす」
波合唱 「生と死とて陰と陽、生まれるから死があるのだから。
死は恐れるものに非ず、新しい命を育む神聖なるもの。
光しか知らぬイルカの青年、
闇に沈む心地良さを知ることが出来ればこの大海原の、
生まれ出る命の喜びの声が、余すことなく聞こえよう」
オーサン 「否、
そのようなこと、信じられない」
波A 「だが、それも真理の一つ」
波B 「お前が魚肉を喰らうことで、すこぶる幸せを得たように、
深海の命も幸せを得る。
お前が流した尿やふんが、皆をすこぶる幸せにしたように、
お前を糧にした喜びが、また新しい喜びを生んでいくのだ」
波C 「それで世界は輪廻している。
姿かたちは違うけれども、喜びも悲しみも覚えていないけれども、
皆いつの時代も生まれ変わる」
波A 「お前とてそれは同じこと」
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