430 / 500
モモタとママと虹の架け橋
第七十七話 未知へと続く長いトンネル
しおりを挟む
幸い、海底神殿の中にクークブアジハーはいなかったようです。ですが、迷子のウーマクの姿もありませんでした。
世話好きおじさんの話によると、クークブアジハーはごはんを探しに外洋に出ている可能性が高い、とのことです。季節によりますが、外洋にはマグロとかカジキとかサバとか、大きな魚が群れを成して泳いでいるので、大きなクークブアジハーは度々出かけているのです。
ニライカナイはとても豊かな海でしたが、なんせ浅瀬が多いので、クークブアジハーは速く泳げません。ですから、小さな魚たちを捕まえるのは至難の業です。それに、海底はサンゴ礁に覆われていましたから、魚たちにとって、サメから身を隠すにはうってつけの場所だったのです。
ニライカナイの入り口真上に来たあたりで、チュウ太が言いました。
「ニライカナイに遊びに行ってる間に、クークブアジハーが帰ってきたらどうするのさ。僕たちずっと海底神殿暮らしかな」
「あはは」モモタがニッコリです。「そうしたら、毎日カラフルお魚三昧だね」
「まあ、考えようによっては楽しくもあるか」
海底を覗くと、モモタが乗せてもらっているイルカから海底神殿まで、何頭ものイルカが連なっています。
ちゅらが、「さあ、準備ができたわ」と言いました。
何の準備なのでしょう。モモタたちは、背中に乗せてもらって潜っていくと思っていたのですが、どうも違うようです。
「モモちゃんの無事を祈っているわ」アゲハちゃんが「わたしは翅がぬれてしまうから、ここで待っているわね」と、モモタのお鼻を撫でながら言いました。
すると、ちゅらが「大丈夫よ」と言って「水には濡れないわ。ちょっと湿気が高いけど、モモタ君と一緒に行けるわよ」とほほ笑みます。それから、海中に潜って「こっちは大丈夫よ。お願いしまーす」と、みんなに言いました。
モモタたちが、何が起こるのか、と見ていると、サンゴの山の麓にある海底神殿の入り口の中から、何やら浮かんできます。しばらく見ていると、それはたくさんの大きな気泡であることが分かりました。なんと、あぶくが集まって筒状になって昇ってくるのです。
海中の真ん中あたりのイルカが、背中にある鼻から気泡を出し始めました。みるみる間に、気泡は筒状に繋がってモモタたちの元まで到達しました。
ちゅらが言いました。
「さあ、モモタ君どーぞ。このあぶくトンネルの中だったら、海の中でも息ができるわ」
モモタは、恐る恐る気泡に猫パンチ。ぱちんと大きな気泡が割れました。
「ほんとに大丈夫?」モモタが怯えます。
ちゅらが笑いました。
「爪たてちゃダメよ」
モモタは、今度はゆっくりと前足を気泡の中に入れました。一歩一歩安全を確認しながらあぶくトンネルへと入っていきます。それれに続いて、チュウ太、アゲハちゃん、キキが入っていきます。
あぶくトンネルの中は、とても不思議な場所でした。気泡一つ一つに向こうの景色が透けて見えるのですが、みんな凹凸レンズを通したように歪んでいます。それに、泡は常に海面に向かって流れているので、景色も一緒に流れていました。
重力は感じるのに、中を歩くモモタたちは海底へと落ちていきません。あぶくトンネルはほとんど垂直なのにです。
アゲハちゃんは、あぶくに阻まれて羽ばたかせられない翅を触りながら言いました。
「飛べないけれど、殆ど地上と変わらないわね」
「もっと上にくると、うんとに地上に近いと思うよ」とキキが言います。「モモタのお尻くらいの高さを目指してごらん」
アゲハちゃんは、キキの言う通り、階段を上るように気泡を上っていきます。すると、気泡はなくなって地上と同じ環境になりました。気泡の壁越しに海の中を走る遊歩道のようです。
試しに飛んでみたアゲハちゃんが、キキに言いました。
「どういうことかしら?」
「前にモモタがいるから、あぶくが分かれるんだろうね。後ろを見てみると、またあぶくでふさがっていくから」
「じゃあ、わたし、当分モモちゃんのしっぽにいるわ」
アゲハちゃんはそう言って、モモタのしっぽに座りました。
クークブアジハーの住処の中は真っ暗です。
モモタの足元であぶくのトンネルを作っていた若そうな声のイルカが言いました。
「僕たちも何も見えないから、実は全貌は分からないんだ。道に迷ったら出てこれないから、奥まで探せないし」
キキが訊きます。
「それじゃあ、このあぶくトンネルはどこまで続いているの?」
「ずっと奥のほうにさ。最初に見つけた空気がある部屋までだよ」
まったく光が差し込まないので、モモタにも何も見えません。あぶくトンネルから出ないようにするだけで精一杯でした。暗闇は僕に任せて、と言わんばかりに、チュウ太が先頭に立ちます。「チュウチュウ」鳴きながら、モモタを先導しました。
どれだけ進んできたのでしょう。遠くに揺らめきながら薄緑色に燐光する海面が見えてきました。ついに空気で満たされた部屋に辿り着いたのです。そこは、正方形の部屋でした。
四面を水路に囲まれていて、殺風景な部屋でした。熊よりも大きく切り出された石を積み上げた石壁には、奥の一面にだけ大きな開口部があって、通路が繋がっています
床には、たくさんの苔が生えていました。その苔が淡く燐光していて、とても幻想的な風景を醸し出しています。
それは、ろうそくの灯りのように、灯のそばだけを強く照らすものではありません。なんせ、床ばかりでなく壁にも天井にも苔は生えていましたから、部屋全体が薄緑色に輝いていたのです。
アゲハちゃんが、宙へ舞いあがりながら言いました。
「不思議。とってもきれいだわ」
アゲハちゃんは、そのまま苔の先にとまって、その葉先の柔らかいところをかじって青汁を飲んでみます。
「美味しー。ちょっと塩味がきいていて、山で舐めるごはんと一味違うわ」
モモタたちも苔をなめてみます。確かに微かな塩味がしました。海水のように毟り千切られるようなしょっぱさではありません。
数頭のイルカが海面に顔を出して、その中の一頭が言いました。
「なるべく早く戻ってきてね。クークブアジハーが戻ってきたら、僕たちここにいられないから。苔がごはんになるのなら、ひもじい思いはしないだろうけど、彼がまた遠洋ごはんに出るまでここにいることになるからね」
「うん、分かったー。行ってきまーす」
モモタたちは元気にお返事をして、奥へと進んでいきました。
世話好きおじさんの話によると、クークブアジハーはごはんを探しに外洋に出ている可能性が高い、とのことです。季節によりますが、外洋にはマグロとかカジキとかサバとか、大きな魚が群れを成して泳いでいるので、大きなクークブアジハーは度々出かけているのです。
ニライカナイはとても豊かな海でしたが、なんせ浅瀬が多いので、クークブアジハーは速く泳げません。ですから、小さな魚たちを捕まえるのは至難の業です。それに、海底はサンゴ礁に覆われていましたから、魚たちにとって、サメから身を隠すにはうってつけの場所だったのです。
ニライカナイの入り口真上に来たあたりで、チュウ太が言いました。
「ニライカナイに遊びに行ってる間に、クークブアジハーが帰ってきたらどうするのさ。僕たちずっと海底神殿暮らしかな」
「あはは」モモタがニッコリです。「そうしたら、毎日カラフルお魚三昧だね」
「まあ、考えようによっては楽しくもあるか」
海底を覗くと、モモタが乗せてもらっているイルカから海底神殿まで、何頭ものイルカが連なっています。
ちゅらが、「さあ、準備ができたわ」と言いました。
何の準備なのでしょう。モモタたちは、背中に乗せてもらって潜っていくと思っていたのですが、どうも違うようです。
「モモちゃんの無事を祈っているわ」アゲハちゃんが「わたしは翅がぬれてしまうから、ここで待っているわね」と、モモタのお鼻を撫でながら言いました。
すると、ちゅらが「大丈夫よ」と言って「水には濡れないわ。ちょっと湿気が高いけど、モモタ君と一緒に行けるわよ」とほほ笑みます。それから、海中に潜って「こっちは大丈夫よ。お願いしまーす」と、みんなに言いました。
モモタたちが、何が起こるのか、と見ていると、サンゴの山の麓にある海底神殿の入り口の中から、何やら浮かんできます。しばらく見ていると、それはたくさんの大きな気泡であることが分かりました。なんと、あぶくが集まって筒状になって昇ってくるのです。
海中の真ん中あたりのイルカが、背中にある鼻から気泡を出し始めました。みるみる間に、気泡は筒状に繋がってモモタたちの元まで到達しました。
ちゅらが言いました。
「さあ、モモタ君どーぞ。このあぶくトンネルの中だったら、海の中でも息ができるわ」
モモタは、恐る恐る気泡に猫パンチ。ぱちんと大きな気泡が割れました。
「ほんとに大丈夫?」モモタが怯えます。
ちゅらが笑いました。
「爪たてちゃダメよ」
モモタは、今度はゆっくりと前足を気泡の中に入れました。一歩一歩安全を確認しながらあぶくトンネルへと入っていきます。それれに続いて、チュウ太、アゲハちゃん、キキが入っていきます。
あぶくトンネルの中は、とても不思議な場所でした。気泡一つ一つに向こうの景色が透けて見えるのですが、みんな凹凸レンズを通したように歪んでいます。それに、泡は常に海面に向かって流れているので、景色も一緒に流れていました。
重力は感じるのに、中を歩くモモタたちは海底へと落ちていきません。あぶくトンネルはほとんど垂直なのにです。
アゲハちゃんは、あぶくに阻まれて羽ばたかせられない翅を触りながら言いました。
「飛べないけれど、殆ど地上と変わらないわね」
「もっと上にくると、うんとに地上に近いと思うよ」とキキが言います。「モモタのお尻くらいの高さを目指してごらん」
アゲハちゃんは、キキの言う通り、階段を上るように気泡を上っていきます。すると、気泡はなくなって地上と同じ環境になりました。気泡の壁越しに海の中を走る遊歩道のようです。
試しに飛んでみたアゲハちゃんが、キキに言いました。
「どういうことかしら?」
「前にモモタがいるから、あぶくが分かれるんだろうね。後ろを見てみると、またあぶくでふさがっていくから」
「じゃあ、わたし、当分モモちゃんのしっぽにいるわ」
アゲハちゃんはそう言って、モモタのしっぽに座りました。
クークブアジハーの住処の中は真っ暗です。
モモタの足元であぶくのトンネルを作っていた若そうな声のイルカが言いました。
「僕たちも何も見えないから、実は全貌は分からないんだ。道に迷ったら出てこれないから、奥まで探せないし」
キキが訊きます。
「それじゃあ、このあぶくトンネルはどこまで続いているの?」
「ずっと奥のほうにさ。最初に見つけた空気がある部屋までだよ」
まったく光が差し込まないので、モモタにも何も見えません。あぶくトンネルから出ないようにするだけで精一杯でした。暗闇は僕に任せて、と言わんばかりに、チュウ太が先頭に立ちます。「チュウチュウ」鳴きながら、モモタを先導しました。
どれだけ進んできたのでしょう。遠くに揺らめきながら薄緑色に燐光する海面が見えてきました。ついに空気で満たされた部屋に辿り着いたのです。そこは、正方形の部屋でした。
四面を水路に囲まれていて、殺風景な部屋でした。熊よりも大きく切り出された石を積み上げた石壁には、奥の一面にだけ大きな開口部があって、通路が繋がっています
床には、たくさんの苔が生えていました。その苔が淡く燐光していて、とても幻想的な風景を醸し出しています。
それは、ろうそくの灯りのように、灯のそばだけを強く照らすものではありません。なんせ、床ばかりでなく壁にも天井にも苔は生えていましたから、部屋全体が薄緑色に輝いていたのです。
アゲハちゃんが、宙へ舞いあがりながら言いました。
「不思議。とってもきれいだわ」
アゲハちゃんは、そのまま苔の先にとまって、その葉先の柔らかいところをかじって青汁を飲んでみます。
「美味しー。ちょっと塩味がきいていて、山で舐めるごはんと一味違うわ」
モモタたちも苔をなめてみます。確かに微かな塩味がしました。海水のように毟り千切られるようなしょっぱさではありません。
数頭のイルカが海面に顔を出して、その中の一頭が言いました。
「なるべく早く戻ってきてね。クークブアジハーが戻ってきたら、僕たちここにいられないから。苔がごはんになるのなら、ひもじい思いはしないだろうけど、彼がまた遠洋ごはんに出るまでここにいることになるからね」
「うん、分かったー。行ってきまーす」
モモタたちは元気にお返事をして、奥へと進んでいきました。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる