猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第七十六話 サンゴ山

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 太陽が真上に昇りました。モモタたちは今日も日の出からずっと迷子探しをしています。そんな最中に、一匹のアカウミガメのおばさんが話しかけてきました。

 「あら? ネズミに猫に蝶々がいるのね。まるでチュウ太さんの一行みたいだわ」

 「僕を知ってるの?」とチュウ太が訊きます。

 「あら、チュウ太さんなの? わたし、ずっと西のほうの海であなたのことを聞いていつか会ってみたいって思っていたのよ。
  わたしの名前は、マリアジュリア。会えてとっても嬉しいわ」

 チュウ太の英雄伝は、海の亀界隈ではちょっと有名になりつつあるようです。チュウ太はとても照れて、頭を掻きました。

 「なにしているの?」とマリアジュリアおばさんがチュウ太に訊きました。

 「じつは、今イルカが一頭行方不明なんだ。それでみんなして探してるんだよ」

 アゲハちゃんが、一緒に探してくれないか、と頼みました。

 「大きなサンゴの下とか、洞穴とかも探したのだけれど見つからないの」

 「海底神殿の中は探したの?」

 みんなは、マリアジュリアおばさんの言葉を聞いてびっくり仰天。イルカでさえ初耳です。そばにいたちゅらが「キュイー、キュイー」と鳴いて、みんなを集めます。すぐさま集まってきたイルカたちによって、紺色の大地が生まれました。

 マリアジュリアおばさんを先頭にして、イルカの大行列です。途中で、クジラが入り込めないサンゴ礁の浅瀬に入ったので、モモタたちはイルカの背中に移動して、大行進を続けました。

 マリアジュリアおばさんが、サンゴ礁の浅瀬に囲まれた深くて広い海の上で止まって言いました。

 「ここよ。この下に海底神殿の入り口があるの」

 イルカたちは恐れ慄きながら、互いに顔を見合わせて色々と不安めいた会話を交わしています。

 モモタが海底を見やると、極彩色のサンゴ礁の山の麓がありました。周りはサンゴの崖に囲まれていています。サンゴの山をよく見ると、大きな横穴が空いています。切り出した岩を積んだ縦長の穴でした。自然に開いた海底洞窟というより、誰かが作った開口部のように見受けられます。

 わなわなと震えるちゅらが言いました。

 「ここはニライカナイといって、この辺りを縄張りにするホオジロザメの縄張りなの。そして正にあのサンゴ山が住処なのよ」

 そばにいた他のイルカたちも怯える瞳で頷きますが、マリアジュリアおばさんは意に介さずに言いました。

 「知っているわ。クークブアジハーでしょ? でもあの中広いから、もしかしたら迷子イルカはあの中にいるかもしれないわ」

 「あの穴の中、どうなっているのかしら」とちゅらが、マリアジュリアおばさんに訊きます。

 「とても広い通路になっていて、幾つか部屋があるわ。迷路みたいになっているから、出てこられないのかも」

 「でもそれなら、もう長い時間潜りっぱなしよ。息が続かないわ」

 「大丈夫よ。空気があるお部屋もあるの。だから、死んじゃうってことはないんじゃないかしら」

 鼻にかかった声の女の子イルカが、マリアジュリアおばさんに訊きます。

 「なんでそんなに詳しいの?」

 「クークブアジハーが寝床にする前は、わたし沖縄に行く前にいつもここに寄って疲れを癒していたの。温泉が湧いていて、疲労回復、打撲捻挫、切傷も癒してくれるのよ」

 モモタは、アゲハちゃんたちと互いに顔を見合わせます。

 世話好きそうな声のおじさんイルカが言いました。

 「もしかしたら、クークブアジハーもあの中にいるんじゃないか?」

 みんなが、もう迷子のウーマク君は食べられてしまったんじゃないか、と不安がります。世話好きおじさんが、みんなに向かって落ち着くように促します。

 「いや、食べられていたとしたら、クークブアジハーが出てこないってことないだろう。ウーマク君は、たぶん通路を逃げ回っているか、閉じ込められているかもしれない。まだ希望はあるよ」

 落ち着いた声の若者イルカが、真剣な眼差しを世話好きおじさんに向けました。

 「でも、どうやって助けるんです? 相手は巨大なクークブアジハーですよ。僕たち総がかりで戦っても勝てやしませんよ」

 「ああ、そうだな・・・」

 世話好きおじさんは、困ってしまいました。

 低い声が響いて、みんなが振り向きます。

 「ちょっとちょっかい出してみんなで逃げるのさ。大丈夫。我々のほうがクークブアジハーより速く泳げるんだから、逃げ切れるさ。やつがねぐらから出てきた隙に、中に閉じ込められた迷子イルカを救出するんだ」

 みんな、「それがいい」と褒めましたが、誰がつつく役を引き受けるんだという話になって、黙ってしまいました。

 泣き崩れる母親らしきイルカの声だけが海に響きます。目の垂れた老人イルカが泳ぎ出て言いました。

 「ここは、若くて早い者たちで行ってやるしかない。トゥルバル、イジイキガ、トイ、やってくれんか?」

 三頭は顔を見合わせました。ウーマクは弟のように可愛いお友だちです。三頭は互いを見やりながら言葉も交わさずに、しばらく逡巡していました。ですが、相当なためらいを見せながらも、渋々頷きます。

 モモタが言いました。

 「僕たちも連れてって。僕、マリアジュリアおばさんが言う温泉に用事があるんだ」

 「バカ言っちゃいけない」と世話好きおじさんが叫びます。「君たちは、長くは息が続かないだろう。とてもじゃないが、あの入口にまでだって行けやしないよ」

 そう言って、海底に揺らめく石の穴をくちばしで指します。

 モモタは、しばらく困った顔で悩みました。もともと濡れるのも嫌でしたが、それを押して頑張って頼んだものですから、諦めたい気持ちがいっぱいです。ですがモモタは、すぐに閃きました。

 「そうだ、息ができるところまで速く泳いで連れていってよ」

 世話好きおじさんは、首を横に振ります。

 「どこにクークブアジハーがいるか分からないのに、連れていけないよ。泳げない君を連れたイルカは、追いつかれて食べられてしまうからね。もちろん君も」

 アゲハちゃんが、ちゅらに訊きました。

 「クークブアジハーってそんなに恐ろしいの?」

 「とんでもないわよ」ちゅらは縮こまって震えます。「子クジラくらいはあるわよ。わたしたちの五、六倍はあるんじゃないかしら」

 「ひぇ~」とチュウ太が震えあがりました。

 世話好きおじさんは、一つの提案をしました。

 「まずは、我々が中を捜索しよう。それで、もしクークブアジハーがいなければ、温泉と息継ぎできる場所を確認して、君たちを連れていってあげよう」

 「本当?」モモタの顔が華やぎます。

 安全のために、モモタたちはクジラがいる深みまで返されました。モモタたちは、海底神殿がある方を見て、イルカたちの無事を祈るばかりです。


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