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モモタとママと虹の架け橋
第六十七話 炎の石と怪しげの木
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みんなは、静かに媼を囲って、その唇がつむぎだす物語に聞き入りました。
「遠い遠い昔の出来事じゃ。その時代、植物は皆生きておって、わたしら蝶々のように家族を持って生活していたらしい。今のわたしらの生活と変わらない生活が、幸せの内に営まれていたそんなある日の夜。天から赤々と燃える石が降ってきた。皆が見守る中、地上に落ちてきたその燃える石は、地表に落ちた衝撃で赤い炎をまき散らしして、夜のとばりが下りた天を赤く染めた。不思議に思った木々が石の落ちた場所に行ってみると、石は辺りの土を光で満たしていたという。
恐る恐る近寄った木々は、すぐさま気がついた。地表を覆った光に根を踏みいれた途端に、精がみなぎるのが分かった。今正に精がみなぎったと感じられるほど、元気になった。その石の放つ光は、とても暖かくて根から吸われて葉を元気にして、実る時期でもないのに実や種を実らせてくれる光だったらしい。瞬く間に樹勢が旺盛になって生い茂った木々を見た者たちは、こぞって集まってきてその石を奪い合ったそうだ。
遠い昔の木や草花は、根を足のようにうねらせて歩けたらしくての。枝を伸ばして相手の葉を絡めて自分の葉で日差しに当らないようにしたり、根を絡ませて絞め殺したりしたそうだ。
なんと呼ばれる存在であったのかは分からぬ。今はそのような生きた木々はおらぬからの。すくなくとも、幼かったわたしにこのことを話してくれた旅蝶々は、“怪しげの木”と呼んでおった。
その燃える石を奪い合うために大挙して押し寄せた木々は、長いこと争いを繰り返しておった。しかし、集まってきた木々は、度重なる争いでほとんどが朽ちてしまい、辺りは大地が肥沃で太陽が燦々と照らしているにもかかわらず、この島の木々の様に大きく育てないでいた。燃える石のそばは木々が密集しているのに、その外側の木々はまばらであったのじゃ。なんせ、みながみな燃える石をこぞって欲しがって集まっておったからな。
来る日も来る日も木々が集まり、争って、そして朽ち果てていく。そんな中で、多くの種類の木が淘汰されて、数少ない種類の木だけが住む森ができた。確か蒲葵樹(びろうじゅ)という名だったと思う。
蒲葵樹は、他の木々が滅んだ後も、同じ蒲葵樹同士で争いを繰り返しておった。この木は細く長い木であったが大変根の強い木で、土の中に根を張ってお相撲をとるように相手と四つに構えると、力任せに相手をなぎ倒してしまうほどの強者であったらしい。
地響きが鳴り響くほどの投げ合いが長いこと続いた後、1本の蒲葵樹がふと気がついた。もうまわりには、自分たちしかいない。他の熱帯樹も他の木々もなにも生えていない、と。
ある意味そこは楽園であった。なんせ自分たちしかおらず、違うものは存在しないのじゃからな。
しばらく黙って戦いに明け暮れていたその蒲葵樹であったが、ある時争いに勝利して、赤く燃える石を根に絡めとることが出来た。その蒲葵樹は思うところがあった。だから言った。『みんな待て。周りを見て見ろ。もはや我ら以外に木々はいないではないか』、と。
皆は見た。確かにそうだった。争いをやめた蒲葵樹たちに、燃える石を持つ蒲葵樹が言った。
『他の木が来ると、また寝床にする土を争って休まらない日々か訪れると思わないか? 同じ蒲葵樹どうしで石一つを争っていないで、ここを私たちだけのものにしてしまおうではないか』
他の蒲葵樹が口々に言った。
『それはよい案だが、その燃える石はどうするのだ。それがあれば、他の強い木々が集まってくるだろう。この辺りに我らより強い木はいないが、遠くを見ると、いまだに多くの木々が集まってきている。中には見たこともない大きな木だっているではないか。もしかしたら、その木に石を奪われて、ここの土も奪われてしまうのではないか』
『そうならないように争いをやめるんだ。今、燃える石は我の手の内にある。私が一番強いということだ。私がこの石を預かろう。この石があれば、私はまだまだ大きく高く成長していけるだろう。見よ、我が身を。細く背高のっぽの蒲葵樹であるにもかかわらず、この幹の太さを。皆々よりも一回りも二回りも太いではないか。私は、このまま成長を続け、どんな木にも負けない立派な大木へと成長してみせる。そうして、みんなとここの土を守ってあげよう。だから、もっと私が成長するために、迫りくる木々をなぎ倒してくれまいか』
『それは妙案だ。そうしよう』
そうして、燃える石を持つ蒲葵樹を中心に、他の蒲葵樹が周りに居座った。だが、どうだ。それからしばらくして、大事変が起こった。
今我らの前にある屋久杉のように大きくなった蒲葵樹は急速に老いさらばれ、朽ちていった。そして、みるみる間に自分の枝葉も天を貫く幹も支えられなくなって崩れ落ちてきた。そして全てが燃えだし灰となった。仲間の木々を巻き込んでな。しかもその炎は、雨が降っても風が吹いても消えなんだ。
長いこと燃えくすぶり続けた大地であったが、火をも恐れない者が現れた。それが木であったのか他の何者かであったのかは分からぬ。だが、燃える大地を踏んでもなおその者は燃えなかった。
そして、その者は、燃える大地の中心にくると、灰の中に手を突っ込んで燃える石をつまみあげて言った。
『おお、これはなんと美しく燃える星であろうか。この地上に、これほどまでに美しい物があるわけがない。これはきっと天の宝物殿に納められるべき代物。決して地上の者が手にしてはならぬ物に違いない。これは、間違いなく我が主たる大王(おおきみ)様のご先祖様が落とされたものに違いない』
そう言って、燃える石を袋に入れて大事そうに持ち帰った。
すると間もなくして、燃える原因を失った大地は静かに焔をあげるのをやめた。それから悠久の時が流れると大地は冷め、ようやく種が落ちても焼け死ななくなって動物も訪れるようになった。だがそこは灰の大地。誰も住みつくことは出来なかった。
だが、ある時奇跡は起きたのじゃ。厚く積もった灰の中から、二本の苗が顔を出した。それは、蒲葵樹の若芽であった。灰の上に頭を出して萌え開いた若々しい新芽は、辺りを見渡して仰天した。なんせ、草一本すら生えない、灰の大地が広がっておったのだから。
二本の苗は、お互いの存在も知らずに、温く柔らかな灰の中でうたた寝しながら育っておったから、よもや地上がこのような命が根付かない大地だとは思ってもみなかったのじゃろう。
母の胸にいだかれるように心地よい地中に埋まっておった二つの種は、灰の底に埋まった大地から芽吹き灰の中を伸びる間、ずっと母親の落とした葉が堆積してできた腐葉土なるものの中におるとばかり思っておったのだ、と旅の蝶は言っておった。
地上に出てきて、ようやくそれが偽りであることに気がついた。偽りといっても騙されていたわけではない。我々のように生きた者のように育ててくれる者もおらず、動けずにただ埋まっておった蒲葵樹にとって、太陽は母なる存在。地上も母なる存在であった。我らと違って、木々は皆、陽を浴びて大地に根付いて成長することができたからじゃろう。
燃える大地にやってきて燃える石を拾っていった者が言っていた通り、天の宝物殿にあるべき宝石であったのだろう。天といえば太陽の世界。石といえば大地の産物。その両方を併せ持つ燃える石は、怪しげの木たちにとっては正に母なるものと言っても過言ではないからの。
わたしは、灰というものを見たことがないから分からぬが、とても渇いておって水を湛えないものであったらしい。だから、灰の上に落ちた種は芽吹くことができなかったが、灰の下で燃えずに生き延びたたった二つの種にとっては違った。
二つの種は土の中にあったから、水もごはんもお腹いっぱい吸って育つことが出来た。長い時の中を母の乳房の如き暖かさを持つ灰に包まれて、染み入ってくる恵の水の音を子守唄として聴いて育った。そして、灰の大地に唯一生える二本の蒲葵樹として成長していった。
二本の蒲葵樹は、背を伸ばす過程で一つの難題に直面したという。それは、お互いの距離が近すぎた、という難題じゃ。二本は、自分が生き残るために相手を倒さにゃらん。お互いの根は絡み合い争い、長いこと戦い続けた。
幸か不幸か、お互いどちらも相手を薙ぎ倒すことは出来なかった。どちらが優勢であったか分からぬ。だが、劣勢な方も逃げること叶わぬ。逃げてもよかったのじゃ。なんせ皆が欲した燃える石はもうないし、二本の蒲葵樹はそんな石があったことすら知らんからの。
だが逃げられなんだ。なんせ、下半身は灰に覆われて動けない。仮に根を抜いて歩こうとしようものなら、たちまちの内にごはんを得ることが叶わなくなり、たちどころに枯れて渇き朽ちてしまったじゃろう。
だから戦いは、長い時を経てなお決着がつかずに続いた。たぶん、戦う意味なんぞなかっただろうな。ただ本能から戦い続けておったのじゃと思う。
だがそんな長い時間の中で、絡み締め付けあっていたはずの蒲葵樹は、ぱたりと戦うのをやめた。お互いがお互いの存在を疎ましく思わなくなったのじゃ。そればかりか、なにも話さなくなった。ずっとお互いを罵りあっていたにもかかわらず。
それから悠久の時を経る中で、だんだんと灰は風に飛ばされてなくなっていった。そして、大地にまた木々が戻ってこられるようになると、この二本の木から生まれた子供たちは土に根ずくことができた。
だが、それっきり草木は動かなくなったらしい。もしかしたら、もし大地から根を抜くと、もう二度と土に植わることが出来なくなる、と怯えたのかもしれぬ。それからというもの、木々は、今のような動かぬ木々へと変化していき。わたしたちと同じような生き物とは変わってしまったのだという。
「遠い遠い昔の出来事じゃ。その時代、植物は皆生きておって、わたしら蝶々のように家族を持って生活していたらしい。今のわたしらの生活と変わらない生活が、幸せの内に営まれていたそんなある日の夜。天から赤々と燃える石が降ってきた。皆が見守る中、地上に落ちてきたその燃える石は、地表に落ちた衝撃で赤い炎をまき散らしして、夜のとばりが下りた天を赤く染めた。不思議に思った木々が石の落ちた場所に行ってみると、石は辺りの土を光で満たしていたという。
恐る恐る近寄った木々は、すぐさま気がついた。地表を覆った光に根を踏みいれた途端に、精がみなぎるのが分かった。今正に精がみなぎったと感じられるほど、元気になった。その石の放つ光は、とても暖かくて根から吸われて葉を元気にして、実る時期でもないのに実や種を実らせてくれる光だったらしい。瞬く間に樹勢が旺盛になって生い茂った木々を見た者たちは、こぞって集まってきてその石を奪い合ったそうだ。
遠い昔の木や草花は、根を足のようにうねらせて歩けたらしくての。枝を伸ばして相手の葉を絡めて自分の葉で日差しに当らないようにしたり、根を絡ませて絞め殺したりしたそうだ。
なんと呼ばれる存在であったのかは分からぬ。今はそのような生きた木々はおらぬからの。すくなくとも、幼かったわたしにこのことを話してくれた旅蝶々は、“怪しげの木”と呼んでおった。
その燃える石を奪い合うために大挙して押し寄せた木々は、長いこと争いを繰り返しておった。しかし、集まってきた木々は、度重なる争いでほとんどが朽ちてしまい、辺りは大地が肥沃で太陽が燦々と照らしているにもかかわらず、この島の木々の様に大きく育てないでいた。燃える石のそばは木々が密集しているのに、その外側の木々はまばらであったのじゃ。なんせ、みながみな燃える石をこぞって欲しがって集まっておったからな。
来る日も来る日も木々が集まり、争って、そして朽ち果てていく。そんな中で、多くの種類の木が淘汰されて、数少ない種類の木だけが住む森ができた。確か蒲葵樹(びろうじゅ)という名だったと思う。
蒲葵樹は、他の木々が滅んだ後も、同じ蒲葵樹同士で争いを繰り返しておった。この木は細く長い木であったが大変根の強い木で、土の中に根を張ってお相撲をとるように相手と四つに構えると、力任せに相手をなぎ倒してしまうほどの強者であったらしい。
地響きが鳴り響くほどの投げ合いが長いこと続いた後、1本の蒲葵樹がふと気がついた。もうまわりには、自分たちしかいない。他の熱帯樹も他の木々もなにも生えていない、と。
ある意味そこは楽園であった。なんせ自分たちしかおらず、違うものは存在しないのじゃからな。
しばらく黙って戦いに明け暮れていたその蒲葵樹であったが、ある時争いに勝利して、赤く燃える石を根に絡めとることが出来た。その蒲葵樹は思うところがあった。だから言った。『みんな待て。周りを見て見ろ。もはや我ら以外に木々はいないではないか』、と。
皆は見た。確かにそうだった。争いをやめた蒲葵樹たちに、燃える石を持つ蒲葵樹が言った。
『他の木が来ると、また寝床にする土を争って休まらない日々か訪れると思わないか? 同じ蒲葵樹どうしで石一つを争っていないで、ここを私たちだけのものにしてしまおうではないか』
他の蒲葵樹が口々に言った。
『それはよい案だが、その燃える石はどうするのだ。それがあれば、他の強い木々が集まってくるだろう。この辺りに我らより強い木はいないが、遠くを見ると、いまだに多くの木々が集まってきている。中には見たこともない大きな木だっているではないか。もしかしたら、その木に石を奪われて、ここの土も奪われてしまうのではないか』
『そうならないように争いをやめるんだ。今、燃える石は我の手の内にある。私が一番強いということだ。私がこの石を預かろう。この石があれば、私はまだまだ大きく高く成長していけるだろう。見よ、我が身を。細く背高のっぽの蒲葵樹であるにもかかわらず、この幹の太さを。皆々よりも一回りも二回りも太いではないか。私は、このまま成長を続け、どんな木にも負けない立派な大木へと成長してみせる。そうして、みんなとここの土を守ってあげよう。だから、もっと私が成長するために、迫りくる木々をなぎ倒してくれまいか』
『それは妙案だ。そうしよう』
そうして、燃える石を持つ蒲葵樹を中心に、他の蒲葵樹が周りに居座った。だが、どうだ。それからしばらくして、大事変が起こった。
今我らの前にある屋久杉のように大きくなった蒲葵樹は急速に老いさらばれ、朽ちていった。そして、みるみる間に自分の枝葉も天を貫く幹も支えられなくなって崩れ落ちてきた。そして全てが燃えだし灰となった。仲間の木々を巻き込んでな。しかもその炎は、雨が降っても風が吹いても消えなんだ。
長いこと燃えくすぶり続けた大地であったが、火をも恐れない者が現れた。それが木であったのか他の何者かであったのかは分からぬ。だが、燃える大地を踏んでもなおその者は燃えなかった。
そして、その者は、燃える大地の中心にくると、灰の中に手を突っ込んで燃える石をつまみあげて言った。
『おお、これはなんと美しく燃える星であろうか。この地上に、これほどまでに美しい物があるわけがない。これはきっと天の宝物殿に納められるべき代物。決して地上の者が手にしてはならぬ物に違いない。これは、間違いなく我が主たる大王(おおきみ)様のご先祖様が落とされたものに違いない』
そう言って、燃える石を袋に入れて大事そうに持ち帰った。
すると間もなくして、燃える原因を失った大地は静かに焔をあげるのをやめた。それから悠久の時が流れると大地は冷め、ようやく種が落ちても焼け死ななくなって動物も訪れるようになった。だがそこは灰の大地。誰も住みつくことは出来なかった。
だが、ある時奇跡は起きたのじゃ。厚く積もった灰の中から、二本の苗が顔を出した。それは、蒲葵樹の若芽であった。灰の上に頭を出して萌え開いた若々しい新芽は、辺りを見渡して仰天した。なんせ、草一本すら生えない、灰の大地が広がっておったのだから。
二本の苗は、お互いの存在も知らずに、温く柔らかな灰の中でうたた寝しながら育っておったから、よもや地上がこのような命が根付かない大地だとは思ってもみなかったのじゃろう。
母の胸にいだかれるように心地よい地中に埋まっておった二つの種は、灰の底に埋まった大地から芽吹き灰の中を伸びる間、ずっと母親の落とした葉が堆積してできた腐葉土なるものの中におるとばかり思っておったのだ、と旅の蝶は言っておった。
地上に出てきて、ようやくそれが偽りであることに気がついた。偽りといっても騙されていたわけではない。我々のように生きた者のように育ててくれる者もおらず、動けずにただ埋まっておった蒲葵樹にとって、太陽は母なる存在。地上も母なる存在であった。我らと違って、木々は皆、陽を浴びて大地に根付いて成長することができたからじゃろう。
燃える大地にやってきて燃える石を拾っていった者が言っていた通り、天の宝物殿にあるべき宝石であったのだろう。天といえば太陽の世界。石といえば大地の産物。その両方を併せ持つ燃える石は、怪しげの木たちにとっては正に母なるものと言っても過言ではないからの。
わたしは、灰というものを見たことがないから分からぬが、とても渇いておって水を湛えないものであったらしい。だから、灰の上に落ちた種は芽吹くことができなかったが、灰の下で燃えずに生き延びたたった二つの種にとっては違った。
二つの種は土の中にあったから、水もごはんもお腹いっぱい吸って育つことが出来た。長い時の中を母の乳房の如き暖かさを持つ灰に包まれて、染み入ってくる恵の水の音を子守唄として聴いて育った。そして、灰の大地に唯一生える二本の蒲葵樹として成長していった。
二本の蒲葵樹は、背を伸ばす過程で一つの難題に直面したという。それは、お互いの距離が近すぎた、という難題じゃ。二本は、自分が生き残るために相手を倒さにゃらん。お互いの根は絡み合い争い、長いこと戦い続けた。
幸か不幸か、お互いどちらも相手を薙ぎ倒すことは出来なかった。どちらが優勢であったか分からぬ。だが、劣勢な方も逃げること叶わぬ。逃げてもよかったのじゃ。なんせ皆が欲した燃える石はもうないし、二本の蒲葵樹はそんな石があったことすら知らんからの。
だが逃げられなんだ。なんせ、下半身は灰に覆われて動けない。仮に根を抜いて歩こうとしようものなら、たちまちの内にごはんを得ることが叶わなくなり、たちどころに枯れて渇き朽ちてしまったじゃろう。
だから戦いは、長い時を経てなお決着がつかずに続いた。たぶん、戦う意味なんぞなかっただろうな。ただ本能から戦い続けておったのじゃと思う。
だがそんな長い時間の中で、絡み締め付けあっていたはずの蒲葵樹は、ぱたりと戦うのをやめた。お互いがお互いの存在を疎ましく思わなくなったのじゃ。そればかりか、なにも話さなくなった。ずっとお互いを罵りあっていたにもかかわらず。
それから悠久の時を経る中で、だんだんと灰は風に飛ばされてなくなっていった。そして、大地にまた木々が戻ってこられるようになると、この二本の木から生まれた子供たちは土に根ずくことができた。
だが、それっきり草木は動かなくなったらしい。もしかしたら、もし大地から根を抜くと、もう二度と土に植わることが出来なくなる、と怯えたのかもしれぬ。それからというもの、木々は、今のような動かぬ木々へと変化していき。わたしたちと同じような生き物とは変わってしまったのだという。
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