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モモタとママと虹の架け橋
四十五話 眩しいほどに色鮮やかな花の楽園
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浜から草原に上がったモモタたちは、とても広大な風景を見渡して感嘆しました。優しい乙女のような丘陵地帯は、青々とした草に覆われていています。
それだけではありません。若さが弾けるような眩い黄色の菜の花が、目の前を下る坂いっぱいに広がっていました。その向こうにあるお淑やかな紫のラベンダーは、アゲハちゃんを誘うように心地よく芳香し、情熱に燃えるような赤のサルビアは、演武しているようです。
敢えて静かに赤いサルビアを引きたてているような控えめな紫のサルビア、ドレスを纏った若き貴婦人の様な美しさと可愛さを兼ね備えた赤と橙のマリーゴールド。快活に煌めくヒマワリは、満面の笑顔を湛えています。それぞれが整然と並んで咲き誇っていました。
そして、優しく温めてくれるように燃ゆる赤いコキアが、むこうの丘を縞模様に染めあげて、幻想的な世界を醸し出していました。まるで秋空の夕暮れのようです。なにか心をすき通っていく風の様に、色彩がすっとりと心に滲みわたりました。
自らの美しさを余すことなく優雅に見せる日輪のように咲き誇るダリアは、びっくりするほどの大輪の花。クリームイエローのキラカシは、菜の花の妹のようでとっても可愛らしく咲いています。
虹を彷彿とさせる極彩色で彩られた丘が幾重にも重なるさまは、この世のものとは思えない美しさでした。虹のような縞模様のお花畑の花々は、地平線の彼方まで咲き乱れています。それら以外にも色々な花が咲いていて、大地は喜びに満ち満ちているようでした。みんな感動せずにはいられません。
アゲハちゃんは、感動のあまり涙で瞳をたゆたえさせながら、気持ちを抑えきれない様子で飛び回ります。
「なんてすてきなのかしら。こんなにお花が咲き乱れているところなんて、見たことないわ。別荘の花壇だってとっても広いと思っていたのに、ここはなんてところなのかしら。もしかして花の楽園かしら」
モモタも、こんなに美しい光景を見たことはありません。田んぼの稲とか、菜の花畑は見たことありますが、こんなにも広々とした大地一面がお花畑になっている場所はありませんでした。
見たところ、馬や牛はいないようです。ですから、牧場ではないのでしょう。
アゲハちゃんがモモタの頭にとまって言いました。
「こんなにお花畑が広がっていたら、たくさんの蝶々がいるはずよ。すぐに虹の雫は見つかるでしょうね。じゃあ、さっそくわたしみんなに訊いてくるわ」
アゲハちゃんは、元気いっぱいに手を振って飛んでいきました。
※※※
――…それからだいぶ時間が過ぎました。菜の花畑の真ん中、モモタの頭の上にはしょげているアゲハちゃんがいました。
モモタがなぐさめるように声をかけます。
「アゲハちゃん、元気出してよ」
「うん・・・。でもたくさんの蝶々がいるのよ。なのに、なんで誰も知らないのかしら」
モモタが空一面を覆う黄色い菜の花を見上げました。確かにたくさんの蝶々が飛んでいます。みんなエゾヒメ紋白蝶です。モモタは、お家の近くに住む紋白蝶とお友だちでしたが、彼女とは少し違う紋白蝶のようでした。
白雪のように真っ白で、純白のドレスを身にまとったお姫様のようです。普通の紋白蝶のように、黒い模様があるのも綺麗なのですが、真っ白いのもとても可愛らしく思えます。オスは、シンメトリーな黒水玉模様があって、家紋を冠しているように見えました。
そこに、チュウ太が菜の花の種をご飯にしようと取って戻ってきました。チュウ太も情報を探しに行っていたのですが、何も得られなかったようです。
チュウ太が言いました。
「あとはキキだけか。まさかのアゲハちゃん空振り事件発生の事態だから、期待したいところだけれど、蝶々の情報網でもだめなんだから、タカの目がいくら凄くてもダメだろうな」
ちょうどその頃、山の中で一羽のハトが遊んでいました。霧のように霞んだ青みがかった灰色のとても綺麗なハトでした。まだ子供のハトのようです。
北国北海道では、既に実りの秋が始まりつつありました。ですから、この子鳩はお腹いっぱいごはんを食べられて、とても力を余していました。
今年飛び立ったばかりでもありましたから、自由自在に飛び回れるのが嬉しくって、毎日毎日一日中飛び回っていました。
減速もせずに、たくさんの木々の間を行ったり来たりしています。とてもスリル満点です。
このハトの男の子は、飛ぶことにとても自信を持っていました。同じくらいのお友だちの中ではダントツに早く飛べましたから、そう思うのも無理はありません。実際、自分を捕まえようとするカラスも置いてけぼりにするほど、木々の間を飛ぶのが上手でした。
ですが、慢心は事故のもとです。急に落ちてきた枯枝で視界を遮られたハトの男の子は、飛び方を誤って左の翼を梢に引っ掛けて、バランスを崩してしまいました。
とても速く飛んでいたので、急には止まることが出来ません。そのままくるくると横に回転して樹幹にぶつかって、地面に落っこちてしまいました。
しばらく痛みを我慢してうずくまっていましたが、何とか堪えられるくらいまで治まったので飛び立とうとしますが、左の翼をうまく羽ばたかせることが出来ず、長く飛ぶことができません。
頑張って陽のあたるところに出てきましたが、お家まではまだまだだいぶ距離がありました。歩いて帰れる距離ではありません。そもそも、木の幹にぶつかって落ちた時に足も痛めていましたから、長い距離を歩くことは困難でした。
子鳩は寂しくなって「ママ、ママー」と呼びかけますが、誰も来てはくれません。
ガサガサと、草葉のすれる音がしました。風でしょうか。それとも何かいるのでしょうか。とても不安になった子鳩は、音がする度にその方向を見やります。
何かが迫ってきているように感じられました。ですが、いつまで経ってもなにも現れません。この時点で、子鳩のそばには怖い動物はいなかったのですが、いつ終わるともいえない不安な時間が続きます。言い知れぬ恐怖に苛まれた子鳩は、助けを呼んで叫びました。
鳥のさえずる声が当りに木霊ていましたから、子鳩はすぐに助けが来ると思っていました。ですが、一向に誰も現れません。
鳥の気配はたくさん感じられました。なのに何度呼んでも誰も助けてくれません。時々梢の向こうに小鳥が羽ばたく影が見受けられました。でも出てきてはくれません。終いには誰も綺麗な鳴き声を奏でてはくれなくなりました。そして、風で梢が揺らめく音がするだけとなりました。
こんな目に合っていなければ、心地良い静寂の中に流れるべくして流れた自然のメロディーを耳にして、心穏やかに楽しめたことでしょう。
ですが、この時の子鳩にとって、辺りを包むこの静寂は、恐怖以外の何物でもありませんでした。心地良いはずの森の囁きも、心安らぐ自然のしらべどころか、獣の舌舐めずりに聞こえるほどだったのす。
突然、鳥たちが警戒を伝える声で鳴き始めました。
子鳩は、心臓が発した全身を劈くような緊張が血管をほとばしって、筋肉という筋肉から躍動が消え失せます。声すら出せません。心では「助けてー」と叫んでいるのですが、くちばしから出てこないのです。
見上げた先には小鳥が隠れていました。子鳩は必死に助けてほしい、と目で訴えます。ですが、小鳥は迷惑そうに目を逸らして、身を隠しました。他の小鳥を見やってもみんな同じでした。誰も助けてくれようともせずに隠れてしまいます。
それもそのはず。そばにはイタチがいたからです。
鳩の子供を見つけたイタチは、抜き足差し足でその子鳩に近づいていきました。葉っぱを踏むかすかな音に気がついた子鳩が振り向くと、したり顔のイタチが舌なめずりをしたところでした。翼の怪我に気がついて、良い拾い物だと喜んでいるようです。
恐怖におののいた子鳩に向かって、十分距離を詰めたイタチがタタタッ、と駆け寄ってきます。
地を這うイタチにとって、ハト肉なんてとんでもないご馳走でしたから、どんなに命乞いをされても助ける気なんてありません。一発で仕留めようと、牙の生えた口を大きくあけて飛びかかってきました。
それだけではありません。若さが弾けるような眩い黄色の菜の花が、目の前を下る坂いっぱいに広がっていました。その向こうにあるお淑やかな紫のラベンダーは、アゲハちゃんを誘うように心地よく芳香し、情熱に燃えるような赤のサルビアは、演武しているようです。
敢えて静かに赤いサルビアを引きたてているような控えめな紫のサルビア、ドレスを纏った若き貴婦人の様な美しさと可愛さを兼ね備えた赤と橙のマリーゴールド。快活に煌めくヒマワリは、満面の笑顔を湛えています。それぞれが整然と並んで咲き誇っていました。
そして、優しく温めてくれるように燃ゆる赤いコキアが、むこうの丘を縞模様に染めあげて、幻想的な世界を醸し出していました。まるで秋空の夕暮れのようです。なにか心をすき通っていく風の様に、色彩がすっとりと心に滲みわたりました。
自らの美しさを余すことなく優雅に見せる日輪のように咲き誇るダリアは、びっくりするほどの大輪の花。クリームイエローのキラカシは、菜の花の妹のようでとっても可愛らしく咲いています。
虹を彷彿とさせる極彩色で彩られた丘が幾重にも重なるさまは、この世のものとは思えない美しさでした。虹のような縞模様のお花畑の花々は、地平線の彼方まで咲き乱れています。それら以外にも色々な花が咲いていて、大地は喜びに満ち満ちているようでした。みんな感動せずにはいられません。
アゲハちゃんは、感動のあまり涙で瞳をたゆたえさせながら、気持ちを抑えきれない様子で飛び回ります。
「なんてすてきなのかしら。こんなにお花が咲き乱れているところなんて、見たことないわ。別荘の花壇だってとっても広いと思っていたのに、ここはなんてところなのかしら。もしかして花の楽園かしら」
モモタも、こんなに美しい光景を見たことはありません。田んぼの稲とか、菜の花畑は見たことありますが、こんなにも広々とした大地一面がお花畑になっている場所はありませんでした。
見たところ、馬や牛はいないようです。ですから、牧場ではないのでしょう。
アゲハちゃんがモモタの頭にとまって言いました。
「こんなにお花畑が広がっていたら、たくさんの蝶々がいるはずよ。すぐに虹の雫は見つかるでしょうね。じゃあ、さっそくわたしみんなに訊いてくるわ」
アゲハちゃんは、元気いっぱいに手を振って飛んでいきました。
※※※
――…それからだいぶ時間が過ぎました。菜の花畑の真ん中、モモタの頭の上にはしょげているアゲハちゃんがいました。
モモタがなぐさめるように声をかけます。
「アゲハちゃん、元気出してよ」
「うん・・・。でもたくさんの蝶々がいるのよ。なのに、なんで誰も知らないのかしら」
モモタが空一面を覆う黄色い菜の花を見上げました。確かにたくさんの蝶々が飛んでいます。みんなエゾヒメ紋白蝶です。モモタは、お家の近くに住む紋白蝶とお友だちでしたが、彼女とは少し違う紋白蝶のようでした。
白雪のように真っ白で、純白のドレスを身にまとったお姫様のようです。普通の紋白蝶のように、黒い模様があるのも綺麗なのですが、真っ白いのもとても可愛らしく思えます。オスは、シンメトリーな黒水玉模様があって、家紋を冠しているように見えました。
そこに、チュウ太が菜の花の種をご飯にしようと取って戻ってきました。チュウ太も情報を探しに行っていたのですが、何も得られなかったようです。
チュウ太が言いました。
「あとはキキだけか。まさかのアゲハちゃん空振り事件発生の事態だから、期待したいところだけれど、蝶々の情報網でもだめなんだから、タカの目がいくら凄くてもダメだろうな」
ちょうどその頃、山の中で一羽のハトが遊んでいました。霧のように霞んだ青みがかった灰色のとても綺麗なハトでした。まだ子供のハトのようです。
北国北海道では、既に実りの秋が始まりつつありました。ですから、この子鳩はお腹いっぱいごはんを食べられて、とても力を余していました。
今年飛び立ったばかりでもありましたから、自由自在に飛び回れるのが嬉しくって、毎日毎日一日中飛び回っていました。
減速もせずに、たくさんの木々の間を行ったり来たりしています。とてもスリル満点です。
このハトの男の子は、飛ぶことにとても自信を持っていました。同じくらいのお友だちの中ではダントツに早く飛べましたから、そう思うのも無理はありません。実際、自分を捕まえようとするカラスも置いてけぼりにするほど、木々の間を飛ぶのが上手でした。
ですが、慢心は事故のもとです。急に落ちてきた枯枝で視界を遮られたハトの男の子は、飛び方を誤って左の翼を梢に引っ掛けて、バランスを崩してしまいました。
とても速く飛んでいたので、急には止まることが出来ません。そのままくるくると横に回転して樹幹にぶつかって、地面に落っこちてしまいました。
しばらく痛みを我慢してうずくまっていましたが、何とか堪えられるくらいまで治まったので飛び立とうとしますが、左の翼をうまく羽ばたかせることが出来ず、長く飛ぶことができません。
頑張って陽のあたるところに出てきましたが、お家まではまだまだだいぶ距離がありました。歩いて帰れる距離ではありません。そもそも、木の幹にぶつかって落ちた時に足も痛めていましたから、長い距離を歩くことは困難でした。
子鳩は寂しくなって「ママ、ママー」と呼びかけますが、誰も来てはくれません。
ガサガサと、草葉のすれる音がしました。風でしょうか。それとも何かいるのでしょうか。とても不安になった子鳩は、音がする度にその方向を見やります。
何かが迫ってきているように感じられました。ですが、いつまで経ってもなにも現れません。この時点で、子鳩のそばには怖い動物はいなかったのですが、いつ終わるともいえない不安な時間が続きます。言い知れぬ恐怖に苛まれた子鳩は、助けを呼んで叫びました。
鳥のさえずる声が当りに木霊ていましたから、子鳩はすぐに助けが来ると思っていました。ですが、一向に誰も現れません。
鳥の気配はたくさん感じられました。なのに何度呼んでも誰も助けてくれません。時々梢の向こうに小鳥が羽ばたく影が見受けられました。でも出てきてはくれません。終いには誰も綺麗な鳴き声を奏でてはくれなくなりました。そして、風で梢が揺らめく音がするだけとなりました。
こんな目に合っていなければ、心地良い静寂の中に流れるべくして流れた自然のメロディーを耳にして、心穏やかに楽しめたことでしょう。
ですが、この時の子鳩にとって、辺りを包むこの静寂は、恐怖以外の何物でもありませんでした。心地良いはずの森の囁きも、心安らぐ自然のしらべどころか、獣の舌舐めずりに聞こえるほどだったのす。
突然、鳥たちが警戒を伝える声で鳴き始めました。
子鳩は、心臓が発した全身を劈くような緊張が血管をほとばしって、筋肉という筋肉から躍動が消え失せます。声すら出せません。心では「助けてー」と叫んでいるのですが、くちばしから出てこないのです。
見上げた先には小鳥が隠れていました。子鳩は必死に助けてほしい、と目で訴えます。ですが、小鳥は迷惑そうに目を逸らして、身を隠しました。他の小鳥を見やってもみんな同じでした。誰も助けてくれようともせずに隠れてしまいます。
それもそのはず。そばにはイタチがいたからです。
鳩の子供を見つけたイタチは、抜き足差し足でその子鳩に近づいていきました。葉っぱを踏むかすかな音に気がついた子鳩が振り向くと、したり顔のイタチが舌なめずりをしたところでした。翼の怪我に気がついて、良い拾い物だと喜んでいるようです。
恐怖におののいた子鳩に向かって、十分距離を詰めたイタチがタタタッ、と駆け寄ってきます。
地を這うイタチにとって、ハト肉なんてとんでもないご馳走でしたから、どんなに命乞いをされても助ける気なんてありません。一発で仕留めようと、牙の生えた口を大きくあけて飛びかかってきました。
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