猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第三十二話 みんなが口をつぐんだわけ

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 クロスズメバチが巣に戻っていったのを確認したモモタは、脱力した様子の熊のところに出ていって、離れたところから訊いてみました。

 「ねえ熊さん、なんでクロスズメバチの巣を襲うの? だって甘い蜜があるわけじゃないみたいだし、痛い思いしてまで襲わなくても色々な木の実がみのる頃じゃない」

 熊は、のっそり声で答えて言いました。

 「ん? んんー、ああ、あのクロスズメバチ、巣の奥に光り輝く果物を隠しているんだ。おいらはそれが食べてみたくてね」

 もしかしたら虹の雫かも、と思ったモモタたちが顔を見合わせます。

 熊は話を続けました。

 「何度も行ってはみるんだけれど、けっこう深くに巣を作っていてね。掘っても掘っても出てこないんだよ」

 そう言った熊は、残念そうにため息をついて、諦めて山に帰っていきました。

 下りてきたキキに熊の話をしてあげると、キキが言いました。

 「どうするのさ。熊でも逃げたすスズメバチ相手に、僕らじゃ奪えないぞ」

 アゲハちゃんが「熊が掘り出すのを待つのはどうかしら」と言ってみると、チュウ太が「すぐに食べて飲み込んじゃうよ」と言いました。そうなっては、もう手に入れようがなくなってしまいます。熊より先に手に入れるしかありません。

 モモタは、お家の土を剥がされて気が立っているクロスズメバチのところに行って、お願いしてみることにしました。

 近くまでやってくると、クロスズメバチの殺気立った雰囲気が、ありありと伝わってきます。

 キキとアゲハちゃんは遠くから見守っていますが、チュウ太だけはモモタについていきました。ですがしっぽにしがみついて目をつむっています。蜂たちの方にはお尻を向けていました。

 モモタに問われたクロスズメバチたちは、キッとモモタを睨みつけて言いました。

 「光る果実? そんなもの知らないわ。見ての通りわたしたちはクロスズメバチ。わたしたちの食べ物は虫のお団子だもの。そもそも果物よりお肉の方がこのみだわ」

 モモタは言いました。

 「でも、さっきの熊が、光る果実をクロスズメバチさんが持ってるって言っていたんだ。もしかしたら光らないかもしれないけれど、何かきれいな石ころみたいなのは持ってないかなぁ」

 「しつこいわね。わたしたちはそんなもの持ってはいないわ。誰か、あの子のことやっちゃてよ」

 メスのクロスズメバチに言われたオスたちは、お家を埋め直すかたわらモモタの上を飛び交います。

 「キャー助けてー」

 モモタたちは逃げますが、クロスズメバチたちは執拗に追いかけてきます。散々追い掛け回されたあげく、モモタはしっぽを、チュウ太は頭をかじられました。毒針で刺されなかっただけましですが、痛い思いをしてしまいました。

 何とか安全なところまで逃げてきたところで、キキとアゲハちゃんがやってきました。

 チュウ太が、蜂が飛び交う巣の方を見て、頭をさすりながらため息を吐きます。

 「キツネが言ってた『殺される』って、クロスズメバチのことか。すごいお宝だから、秘密にしておきたいんだな、きっと」

 アゲハちゃんが、モモタのしっぽとチュウ太の頭に、虫刺されに効く葉っぱの汁を塗ってあげながら言いました。

 「でも、あれじゃあ虹の雫は手に入らないわね」

 キキが翼を広げて言います。

 「今こそチュウ太の出番だぞ。大親友モモタのために突撃だ」

 「冗談よしてくれよ」チュウ太が返します。 

 「やれとは言わないよ。自分の意思でするのさ」

 「必死はダメだよ必死は。そういうこと言うのよしてくれよ」

 「そういうものかい?」 

 「じゃあ、キキがやれよ」

 「僕はそういうことしないよ。王者だからね。蜂なんかを相手にはしないのさ。大空の王者は、土の下に住む蜂に興味持たないもん。それに、無駄死には王者がすることじゃないからね」

 アゲハちゃんが割って話し始めました。

 「そうだわ。ニホンミツバチなら、クロスズメバチに勝てるかも」

モモタたちは、ミツバチの巣を探すことにしました。すると、探し始めて間もなく、簡単に見つかりました。

 虹の雫に関しては、クロスズメバチが口止めをしているようですし、彼らは毒を持っているし虫を食べるので、みんな怖がって教えてくれませんが、蜜食のミツバチたちは他の虫を食べたりしません。ですから、みんなすぐにミツバチのお家の場所を教えてくれました。

 モモタがアゲハちゃんに訊きました。

 「そういえば、僕、養蜂園に遊びにいったことあるけど、ミツバチって蜂なのに針ないよね。それなのに戦ってくれるかなぁ」

 「あら、あるわよ」とアゲハちゃん。「針がないのはセイヨウミツバチじゃないかしら。わたしも見たことないんだけれど、聞くと、セイヨウミツバチは人間と仲がいいから、一緒に住んでいるみたいね」

 モモタたちは、虫たちから教えてもらった一本の木に辿り着きました。木には縦一筋の割れ目があって、そこからミツバチたちが飛んでいったり戻ってきたりしています。木の中にあったので、巣の全容は分かりませんが、ぶら下がっているレンコンみたいなお家と違って大きそうです。お城なのかもしれません。

 針があるというので、モモタは少しドキドキしながら、クロスズメバチが持っている光る果実をもらえるように頼めないか、と訊きました。

 始めは快く話を聞いていたミツバチたちでしたが、クロスズメバチという言葉が出てきた途端、みんなが怯えだしました。

 「だめよ、ムリムリ」と女の子たちが言いました。

 「帰ってくれよ」と働き蜂たちも手を横に振ります。

 巣を守っていた強そうなミツバチたちに声をかけてみますが、どの蜂からもけんもほろろに断られてしまいました。

 アゲハちゃんがおかしく思って訊きました。

 「どうしてそんなに怯えているの? ニホンミツバチって言ったら、大スズメバチもやっつけちゃうくらい強いって聞いたことがあるのに、名前を聞いただけで震え上がるなんて意気地がないわね」

 ミツバチたちは言い返してきません。本当に怖がっている様子です。何があったのでしょうか。

 女王蜂のミチコが出てきて言いました。

 「あなたたちの言う光る果実というのは、もしかしたら黄色く輝く雫石のことかもしれません。わたしは女王になる前に、それを崖から出ていた根っこが抱え込んだ土の中から見つけて、宝物にしていたのです。

  とてもきれいだったので、ここをお家にして巣を作った時に、わたしの部屋に飾ることにしました。ミツバチのような黄色でしたし、形が蜜のしずくのようでもありましたし、サナギのようでもありましたから、とても愛着があって大切にしていたのに、噂を聞きつけたクロスズメバチが襲ってきて、巣を壊して奪っていってしまったのです」

 「へえ、すごいや」とチュウ太が言いました。「スズメバチ相手に、負けたとはいえ全滅しないんだから」

 ミツバチたちは、褒められてもうれしくなさそうです。それだけ怖い思いをしたのでしょう。

 ミチコは言いました。

 「大変申し訳ないとは思うのですけれど、わたしたちのことはもうそっとしておいてくれませんか? お城もようやく直すことができて、ようやく再出発できるのです。これから子供たちを増やそうと思っているところなのです」

キキが尋ねます。

 「取り戻そうとは思わないの?」

 「ええ、もういいのです。わたしたちがスズメバチに勝てると言っても、一対一で勝てるわけではありません。籠城して、お家の入り口にとりついたスズメバチを一匹一匹倒すのが精一杯です。現に、本気で襲ってきたクロスズメバチには、成す術なくお城の中心まで壊されてしまいましたから」

 モモタたちは、ミチコの心情を察して、その場を後にしました。

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