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モモタとママと虹の架け橋
第三十話 ホンドギツネ
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密かなキキの大脱出劇が繰り広げられてから、だいぶ時間が経ちました。もうそろそろ、太陽が真上にくる時刻です。
徹夜したキキは、村と山の境にある杉林でお寝坊さんをしていました。だって眠りについたのは、太陽が完全に顔を出した後でしたから。
モモタは人のお家の庭木として植えられた椿の木の根元に隠れて、やっぱりお寝坊さん。本当は、キキと一緒にいてあげたかったのですが、人里から離れると寝ている間にタヌキやキツネに狙われてしまうので、よく知らない土地ではキャンプは出来ません。
チュウ太とアゲハちゃんもおんなじ庭木にいます。モモタは、キキも一緒に、と誘いましたが、断られてしまいました。キキは、人間に捕まるという経験をしてしまったので、とても人間を警戒していたのです。
ようやくモモタの目が覚めて背伸びをすると、アゲハちゃんも目が覚めました。
モモタが、まだ寝ているチュウ太をくわえて日向に出て毛づくろいをしている間に、アゲハちゃんは、井戸の方に行って新鮮なお水で顔を洗って、のどを潤します。
天高くから、「ヒューイー」とキキの声が聞こえてきました。モモタが見上げると、翼を広げて旋回するキキが、出発を急かしてまた鳴きました。
完全に目の覚めたモモタが言いました。
「さあ、もうそろそろ行こうか」
戻ってきたアゲハちゃんが、「そうね」と言って、モモタの頭にとまって二度寝を始めます。
モモタは、チュウ太を起こしましたが、「あと少しー」と寝返りを打つばかりで起きてくれません。仕方がないのでくわえて行こうとしましたが、しびれを切らして舞い降りてきたキキが、チュウ太を鷹掴みにして舞い上がっていきます。
キキの爪の先でチクチクしたチュウ太が目覚めました。眼下に広がるのは、遠く離れた大地と、栗の実ほどしかない家々です。
あまりの高さに、チュウ太は驚いて「ぎょえぇぇぇ~」と叫びました。
大抵こういう時は、落ちそうになって危ない目に合うか、本当に落ちて地面すれすれでキキに助けられる、というオチなんですが、そうはなりません。チュウ太の体は、完全にキキの爪でロックされていたので、全く身動きが出来なかったのです。
モモタたちは、ぼた山のすそ野の雑木林で落ち合いました。
この村に来るまでに蝶々たちから聞いた話によると、虹の雫は、この村の近くのぼた山にあるらしいのです。ですが、ぼた山は三つあるようです。
落ち合ったぼた山はモモタとチュウ太が探して、アゲハちゃんを背中に乗せたキキが飛んでいって、他の二つを探すことになりました。
ですが、モモタがぼた山で出会ったお友達に訊いて回っても、誰も答えてはくれませんでした。みんなシドロモドロです。
戻ってきたキキが言いました。
「だめだな。誰も知らないって言うよ」
「うん」とアゲハちゃんも頷きます。「すそ野に咲いていたお花にヤマキ蝶がいたから訊いてみたのだけれど、なんかよそよそしいの」
「こっちもだよ」とモモタが答えると、
キキが、「何か隠しているんだろうな」と言いました。
「でも――」とチュウ太「緑の雫があった場所みたいに光っているところはないんだろ? 前に会ったアカシジミたちの話が間違っていたんじゃない? そもそも『おしゃぶりちゅっちゅー』ってなんなんだよ」
同じように思っていたモモタが笑います。
アゲハちゃんがチュウ太に言いました。
「だから、こっちの方にあるっていうことよ」
「どうしてそうなるのさ」
「それは当然でしょ。おしゃぶりちゅっちゅーだからそうなるの」
「わけわかんないよ」
「なるって言ったらなるのよ。どうして分からないの? これだからネズミはダメなのよ。みんな分かっているわよ。分からないほうがどうかしてるわ」
アゲハちゃんはひどい言いようですが、どうしてだかチュウ太がダメなような雰囲気です。
二匹のやり取りの間に、キキが、モモタたちが散策したぼた山を上空から見渡して戻ってきて言いました。
「このぼた山にも、光ってるところはないみたいだな」
「振り出しに戻っちゃったね」とモモタ。
それをキキが否定します。
「いや、むこうのヒモみたいに長い山の途中に、もう一つぼた山があったよ」
「もう一つ?」とみんなが声をそろえて言いました。
アゲハちゃんが、「みんな、ぼた山は三つだって言っているわよ」
「うん」キキが頷いて、「地上から見ているとそうだけど、空か見てみるともう一つあるよ。長細い山と隣り合っているからぼた山に見えないけど、上から見ると別々の山なんだ」
そこでモモタたちは、そのぼた山に行ってみることにしました。
連なる山山から、平野に向かっていくつもの長細い帯状の山が伸びています。その根元に、キキの言う四つ目のぼた山がありました。二本のヒモ山の根元に挟まれているので、大きな山の一部にしか見えません。
山に入るまでの雑草林で、多くの虫たちに出会いましたが、どの虫たちも「知らない、知らない」の一点張り。他のぼた山の虫たち同様知っている様子でしたが、教えてくれません。
不意に、上空にいたキキが下りてきました。モモタたちに向かって高速滑空飛行で突っ込んできます。
モモタが、自分の身に隠れるチュウ太とアゲハちゃんと見ていると、キキは、その横をすり抜けてやぶの中に突っ込みました。その瞬間、「ぎゃー!」と誰かの叫び声がしました。
びっくりしたモモタたちが恐る恐る見ていると、キキと取っ組み合って出てきたのは、若いホンドギツネでした。
キキは羽ばたいて、自分よりも一回り大きなホンドギツネを持ち上げて、モモタの周りを飛び回ります。
ホンドギツネは足が地面についていないので、なす術がありません。ジタバタもがきますが、肉球が宙を切るばかりです。モモタたちと同様、まだ子供のようでした。ほんの少しだけお兄さんに見えます。
ホンドギツネが叫びました。
「助けてー! 離せー、離せー!」
キキが、ホンドギツネの重みで大きく上下にぶれながら飛び続け言いました。
「光る石のことを知っているだろう? それのことを教えてほしいんだ」
「光る石? 光る石って――あっ、知らないっ知らないよぅ」
ホンドギツネは、よけいに暴れ出しました。「いたたたたー」と叫びます。暴れすぎて、キキの爪が肉に食い込んだようです。
「許してー」と叫んで「暴力反対、暴力はんたーい」と訴えるホンドギツネに、キキが言いました。
「なにが許してー、だ。君はチュウ太のことを食べようと狙っていただろう。僕には見えていたぞ。駆けだした瞬間、僕に捕まったんだ」
「ええっ? 本当なのそれ!」とモモタがびっくりしました。
モモタが驚くのも無理がありません。ホンドギツネは息を殺して潜んでいたので、完全に気配を消せていたのです。ですからモモタは、狙われていることに全く気がつけていませんでした。
ホンドギツネは慌てました。
「あわわわわ、そこまで見られていたのか。ごめん、ごめんよー」
キキが言います。
「許してあげるから、光る何かで知っていることがあれば全部話すんだ」
「話せない、話せないよ。でも他のことだったら話せるよ。熊が、熊が住んでいるんだ。その熊がそれを狙っているらしいんだ」
キキが、ホンドギツネを振り回します。遠心力が加わって、ホンドギツネの目が回りました。
「話せないことも話すんだ」キキが凄みます。
「勘弁してよ。本当に話せないんだよ。殺されちゃうよ」
それを聞いたキキは、振りまわすのをやめてあげました。地面に下ろされたホンドギツネは、慌てて逃げていきます。
殺されるとは、一体どういうことなのでしょう。
徹夜したキキは、村と山の境にある杉林でお寝坊さんをしていました。だって眠りについたのは、太陽が完全に顔を出した後でしたから。
モモタは人のお家の庭木として植えられた椿の木の根元に隠れて、やっぱりお寝坊さん。本当は、キキと一緒にいてあげたかったのですが、人里から離れると寝ている間にタヌキやキツネに狙われてしまうので、よく知らない土地ではキャンプは出来ません。
チュウ太とアゲハちゃんもおんなじ庭木にいます。モモタは、キキも一緒に、と誘いましたが、断られてしまいました。キキは、人間に捕まるという経験をしてしまったので、とても人間を警戒していたのです。
ようやくモモタの目が覚めて背伸びをすると、アゲハちゃんも目が覚めました。
モモタが、まだ寝ているチュウ太をくわえて日向に出て毛づくろいをしている間に、アゲハちゃんは、井戸の方に行って新鮮なお水で顔を洗って、のどを潤します。
天高くから、「ヒューイー」とキキの声が聞こえてきました。モモタが見上げると、翼を広げて旋回するキキが、出発を急かしてまた鳴きました。
完全に目の覚めたモモタが言いました。
「さあ、もうそろそろ行こうか」
戻ってきたアゲハちゃんが、「そうね」と言って、モモタの頭にとまって二度寝を始めます。
モモタは、チュウ太を起こしましたが、「あと少しー」と寝返りを打つばかりで起きてくれません。仕方がないのでくわえて行こうとしましたが、しびれを切らして舞い降りてきたキキが、チュウ太を鷹掴みにして舞い上がっていきます。
キキの爪の先でチクチクしたチュウ太が目覚めました。眼下に広がるのは、遠く離れた大地と、栗の実ほどしかない家々です。
あまりの高さに、チュウ太は驚いて「ぎょえぇぇぇ~」と叫びました。
大抵こういう時は、落ちそうになって危ない目に合うか、本当に落ちて地面すれすれでキキに助けられる、というオチなんですが、そうはなりません。チュウ太の体は、完全にキキの爪でロックされていたので、全く身動きが出来なかったのです。
モモタたちは、ぼた山のすそ野の雑木林で落ち合いました。
この村に来るまでに蝶々たちから聞いた話によると、虹の雫は、この村の近くのぼた山にあるらしいのです。ですが、ぼた山は三つあるようです。
落ち合ったぼた山はモモタとチュウ太が探して、アゲハちゃんを背中に乗せたキキが飛んでいって、他の二つを探すことになりました。
ですが、モモタがぼた山で出会ったお友達に訊いて回っても、誰も答えてはくれませんでした。みんなシドロモドロです。
戻ってきたキキが言いました。
「だめだな。誰も知らないって言うよ」
「うん」とアゲハちゃんも頷きます。「すそ野に咲いていたお花にヤマキ蝶がいたから訊いてみたのだけれど、なんかよそよそしいの」
「こっちもだよ」とモモタが答えると、
キキが、「何か隠しているんだろうな」と言いました。
「でも――」とチュウ太「緑の雫があった場所みたいに光っているところはないんだろ? 前に会ったアカシジミたちの話が間違っていたんじゃない? そもそも『おしゃぶりちゅっちゅー』ってなんなんだよ」
同じように思っていたモモタが笑います。
アゲハちゃんがチュウ太に言いました。
「だから、こっちの方にあるっていうことよ」
「どうしてそうなるのさ」
「それは当然でしょ。おしゃぶりちゅっちゅーだからそうなるの」
「わけわかんないよ」
「なるって言ったらなるのよ。どうして分からないの? これだからネズミはダメなのよ。みんな分かっているわよ。分からないほうがどうかしてるわ」
アゲハちゃんはひどい言いようですが、どうしてだかチュウ太がダメなような雰囲気です。
二匹のやり取りの間に、キキが、モモタたちが散策したぼた山を上空から見渡して戻ってきて言いました。
「このぼた山にも、光ってるところはないみたいだな」
「振り出しに戻っちゃったね」とモモタ。
それをキキが否定します。
「いや、むこうのヒモみたいに長い山の途中に、もう一つぼた山があったよ」
「もう一つ?」とみんなが声をそろえて言いました。
アゲハちゃんが、「みんな、ぼた山は三つだって言っているわよ」
「うん」キキが頷いて、「地上から見ているとそうだけど、空か見てみるともう一つあるよ。長細い山と隣り合っているからぼた山に見えないけど、上から見ると別々の山なんだ」
そこでモモタたちは、そのぼた山に行ってみることにしました。
連なる山山から、平野に向かっていくつもの長細い帯状の山が伸びています。その根元に、キキの言う四つ目のぼた山がありました。二本のヒモ山の根元に挟まれているので、大きな山の一部にしか見えません。
山に入るまでの雑草林で、多くの虫たちに出会いましたが、どの虫たちも「知らない、知らない」の一点張り。他のぼた山の虫たち同様知っている様子でしたが、教えてくれません。
不意に、上空にいたキキが下りてきました。モモタたちに向かって高速滑空飛行で突っ込んできます。
モモタが、自分の身に隠れるチュウ太とアゲハちゃんと見ていると、キキは、その横をすり抜けてやぶの中に突っ込みました。その瞬間、「ぎゃー!」と誰かの叫び声がしました。
びっくりしたモモタたちが恐る恐る見ていると、キキと取っ組み合って出てきたのは、若いホンドギツネでした。
キキは羽ばたいて、自分よりも一回り大きなホンドギツネを持ち上げて、モモタの周りを飛び回ります。
ホンドギツネは足が地面についていないので、なす術がありません。ジタバタもがきますが、肉球が宙を切るばかりです。モモタたちと同様、まだ子供のようでした。ほんの少しだけお兄さんに見えます。
ホンドギツネが叫びました。
「助けてー! 離せー、離せー!」
キキが、ホンドギツネの重みで大きく上下にぶれながら飛び続け言いました。
「光る石のことを知っているだろう? それのことを教えてほしいんだ」
「光る石? 光る石って――あっ、知らないっ知らないよぅ」
ホンドギツネは、よけいに暴れ出しました。「いたたたたー」と叫びます。暴れすぎて、キキの爪が肉に食い込んだようです。
「許してー」と叫んで「暴力反対、暴力はんたーい」と訴えるホンドギツネに、キキが言いました。
「なにが許してー、だ。君はチュウ太のことを食べようと狙っていただろう。僕には見えていたぞ。駆けだした瞬間、僕に捕まったんだ」
「ええっ? 本当なのそれ!」とモモタがびっくりしました。
モモタが驚くのも無理がありません。ホンドギツネは息を殺して潜んでいたので、完全に気配を消せていたのです。ですからモモタは、狙われていることに全く気がつけていませんでした。
ホンドギツネは慌てました。
「あわわわわ、そこまで見られていたのか。ごめん、ごめんよー」
キキが言います。
「許してあげるから、光る何かで知っていることがあれば全部話すんだ」
「話せない、話せないよ。でも他のことだったら話せるよ。熊が、熊が住んでいるんだ。その熊がそれを狙っているらしいんだ」
キキが、ホンドギツネを振り回します。遠心力が加わって、ホンドギツネの目が回りました。
「話せないことも話すんだ」キキが凄みます。
「勘弁してよ。本当に話せないんだよ。殺されちゃうよ」
それを聞いたキキは、振りまわすのをやめてあげました。地面に下ろされたホンドギツネは、慌てて逃げていきます。
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