猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
384 / 505
モモタとママと虹の架け橋

第二十六話 オオタカのキキとクマハチのミーナ

しおりを挟む
 強い日差しが照りつける天空を切り裂くかのごとく、二羽のタカが舞い飛んでいます。

 とても広い空であるはずなのに、二羽の存在感が凄まじすぎて、他の鳥たちは畑から逃げ出しました。

 かろうじてカラスが残りましたが、みんな二羽のタカを刺激したくないのでしょう。キキたちを気にしながら、隅っこでごはんをついばんでいます。

 タカの女の子は、自分を追って舞い上がってきたキキを見やって言いました。

 「あらあなた、飛べたのね。あの子たちのお友だちのようだから、もしかして飛べないのかしらって思っていたのよ」

 キキは、言いました。

 「さっきなんで笑った。二回も僕を笑っただろう」

 「そうだったかしら。でも、笑うしかないわね。だって猫やネズミなんかと仲良くしているんですもの。食べずにいるなんておかしいものね」

 「モモタたちを悪く言うと、僕が許さないぞ」

 タカの女の子は、ツンとした表情でキキを見やります。

 キキは続けました。

 「見たところタカのようだけど、オオタカではないな。君はいったい何者だい?」

 「わたし? わたしはミーナ。空の王者クマハチのミーナよ」

 キキはびっくりして言いました。

 「王者? 空の王者だって? ちゃんちゃら可笑しいな。だってそうだろう。空の王者はオオタカさ。つまりはこの僕。クマハチなんて聞いたことないな」

 ミーナは笑います。

 「小さな体で元気なこと」

 キキは、ムスッとして言い返します。

 「大きければいいってもんじゃないさ。もしかして君は、オオタカを見たことがないのかい? 僕は、ずっと君が狩りをするところを見ていたけれど、僕には全く敵わないよ。だって、僕よりも飛ぶのは遅いし目もよくなさそうだからね。何より、くちばしだって小さいじゃないか」

 「うふふ、そうね、確かにそうだわ。でも慢心は禁物よ。だってそれは勘違いだもの」

 「勘違い? 僕より早く飛べるって言うのかい?」

 「そうではないわ。あなたがオオタカでいれるのは、逃げ足が速いからよ。わたしたちがいないところに逃げられるから。目がいいおかげで弱く小さいごはんを見つけられるから。だから、わたしたち強者が見向きもしないところでも生きていけるのでしょう?
  そう言う意味では、あなたたちは王者かもね。敗者の中の王者」

 「なにを!」

 キキは、勢いよく上方向に立旋回をしてミーナの上につき、その背に影を落としました。明らかに激怒しています。今まで誰にも見せたことがないほど、全身の羽が逆立っていました。

 キキは、大きく「ヒューーーイーーー」と鳴きました。その声は遠くまで響いて、畑に身をひそめていた小さな動物たちが身を縮ませます。カラスも身をかがめて見上げました。

 「“大”を冠する鷹である僕によくもそんなことを。勝負だ。どちらがすごい獲物を捕まえられるか勝負をしよう」

 「“大”を冠する?」ミーナは一瞬考える素振りを見せて言いました。

 「あはははは、可笑しいわね。あなたが冠しているのは“大”じゃないわ。冠しているのは“蒼”(あお)よ。光の加減で蒼ぽく見えるから、“蒼鷹(オオタカ)”っていうのよ。
  そうかぁ、“大”と勘違いしていたのね。だから自分が王者だって勘違いしちゃったのね」

 キキは、無理に言葉を吐こうとしましたが、なにも出せずにわなわな震えます。

 勝ち誇ったかのようにミーナが言いました。

 「わたし、何度かオオタカを見たことあるけれど、わたしがいる時にオオタカはここには出てこないわ。見てごらんなさい。大空にはわたし以外いないもの」

 言い終わって、ミーナがキキを見やります。
 「いいわ。勝負してあげましょう。あなたにここを飛ぶ資格がないってことを教えてあげるわ」

 そう言って、ミーナは持っていた獲物を持って下りていきます。その先には人間がいました。

 キキは、信じられない光景を目の当たりにしました。なんたることでしょう。高潔たるタカの一種であるミーナが、人間の腕にとまったのです。更には、せっかく仕留めたウサギを丸ごと渡してしまいました。キキには全く信じられません。

 上空を旋回しながらキキが見ていると、男の人は、ナイフでウサギの肉を削ぎ落して、ミーナに与えました。ミーナは、それを足で押さえつけて、美味しそうについばんでいます。

 王者だと豪語していたミーナは、自らの獲物を人間に渡し、小さな肉片を分け与えてもらっているばかりか、それに喜びを覚えているようでした。人間に頭を撫でられて、ミーナは手のひらにすり寄っています。

 しばらくすると、人間はミーナを乗せた手を高々と掲げました。一瞬の静寂が人間とミーナを包みます。そして、二人息を合わせてアクションを起こします。ミーナは再び大空へと飛び立ちました。

 舞い上がってきたミーナに、キキが訊きました。

 「なぜあんな大物を人間にあげたんだ。まさかとは思うけど、人間に飼われているのか?人間に飼われているなんて情けない」

 「飼われているわけじゃないわ。わたしたちは戦友よ。わたしとあの人間で協力し合って、狩りをしているの」

 キキには信じられません。

 天空を駆ける二羽のタカが、それぞれの存在を示すかのごとく声高々に咆哮を上げます。

 鋭い眼光を放つ黄色の虹彩を持つ目に睨まれて、カラスたちも逃げ出しました。キキの旋回範囲が広がって、カラスをも射程に収めたからです。

 カラスはくちばしも大きく爪も鋭いのですが、猛禽類には及びません。同じくらいの大きさのキキを相手にしても、力では全く敵わないのです。

 キキが自らを空の王者と称するだけのことはあります。キキには、カラスすら一撃で仕留めてごはんにしてしまうほどの、圧倒的な力がありました。

 キキとは違う軸で旋回していたミーナは、必死に獲物を選別しています。

 ミーナには勝算がありました。実は、飛び立つ前からすでにある程度の目星がついていたのです。今日一日何度も上空から獲物の位置を観察していましたし、人の腕から飛び立つときには、すでに目標をある程度定めていたからです。

 (ネズミ、トカゲ、カエル、どれも違うわ。――イタチ、あれだわ!)

 ミーナの瞳がイタチを捉えた瞬間、狙いを定めるために小さく左旋回して、照準が定まると同時に、イタチめがけて下降を開始しました。

 悠然と舞うキキは、ミーナの動きを鷹揚に見やってから、前を向きました。そして、突然右上方に弧を描いて舞い上がって背を下にしたかと思うと、ひらりと下方向にUターンして、そのまま地面へと一直線に突入していきます。

 弾丸のようなスピードです。ミーナの耳に風を切る音が聞こえたかと思うと、一瞬にして自分を追い越していくキキの背中が見えました。

 信じられない速さです。モモタたちでさえ、あんなにも早く飛ぶキキを見たことがありません。

 一生懸命走って逃げるイタチですが、もはや運命は決していました。姿を上空から捕えられてはなす術もありません。瞬く間に距離を縮められて、一瞬でキキに鷹掴みにされてしまいました。

 しかも、ミーナがウサギを捕まえた時のようにもんどりうって取っ組み合うことなく、飛行体勢を崩さず、高々と飛翔していきます。

 ミーナは、狩りにおいて全くキキの足元にも及びませんでした。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

バラの神と魔界の皇子

緒方宗谷
児童書・童話
 悪意を持って陥れようとする試みがどの様に行われるか学ぶことによって、気が付かない内に窮地に陥らないようにするための教養小説です。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...