猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第九十八話 ニライカナイの誕生

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 第二景 辿り着いた先

(豊かな海、浅瀬もあって深みもあり、サンゴ礁に囲まれている。
 星屑のような砂の海底の中央に、入り口のある巨大石段がある。
 下手中央寄りの海面近くに、大きな一つのあぶくの中にいるモモタが一匹)
(モモタの傍らにニーラがいるが、その姿は、霞の如く淡く燐光する紺色の光)

ニーラ 
(大きなあぶくの船に乗せたモモタを伴って、潜っていく)
    「そして辿りついたるは、今いる神殿、誰も住まない大きなお家」

モモタ 「どれだけの月日がたったのだろう、サンゴの山の本当の姿、
     深海の底から聳えて海面を刺す立派な台形、
     金字塔の巨大な遺跡」

ニーラ 
(海底に下りて)
    「いつ誰が作ったのか誰も知らない、深海からそびえ立つ、古の都。
     今、クークブアジハーが住まう入口とて、
     本当は最下層ではないのだから。
     わたしたちが今正にいるここが、二頭の愛の巣。
     …(やってきたオーサンとシルチを)見て、
     本当に仲睦まじい二頭、他に誰もいないというのに…。
     もしも世界が滅びさって、ここだけが残った海だとしても、
     二頭は幸せに暮らせるでしょう、お父様にはお母様が、
     お母様にはお父様が、互いに寄りそっているのですから」

モモタ 「ねえニーラ、あなたが二頭の子供なの? イルカとジュゴン、
     違うお友だちなのに…」

ニーラ            「信じられない?」

モモタ                    「ううん、信じたい」

(暗転、下手にいるモモタとニーラにスポットライトが上から照らす)

ニーラ 
(俯くモモタに対して)
    「ねえモモタ、モモタやモモタ、わたしの瞳を覗いてごらん」

モモタ 
(誰もいない宙を見やる)

ニーラ 「聞こえてくるでしょ愛の鼓動が、耳ではないわ、心で聞くの、
     ティンドンティンドンティンティンドン」

モモタ 「瞳の奥に見えるのは記憶、もしかしてパパとママの、
     愛し合った記憶?」

ニーラ 「確かに長い時が流れる間、二頭は子宝に恵まれなかった。
     でも二人は見ていたんだから、金色の空を見ていたんだから、
     あなた(モモタ)の瞳の奥にも見えるわ、
     二頭が見たのと同じ、金色の空。
     あなた(モモタ)だったら信じられるはず、
     今まで出会ったお友達は、そのほとんどが猫ではなかった。
     あの薄茶色のちゅうちゅうチュウ太も、あなたの大事なお友達。
     なんか見た感じごはんだけれど、あなたの大事なお友達」    

(上手上部、上方からのスポットライトに照らされて、オーサンとシルチが下りてくる。
 お互いを慈しみ愛でて包み込むように舞っている)

ニーラ 「ほらご覧なさい、奇跡が起こるわ、新しい命が誕生するの。
     そうここはまさに、人魚揺籃の海」

モモタ 「命を育むってこういうことなんだね、どうして命が愛おしいのか、
     幸せが大切なのか分かった気がする。
     ううん、分かりっこないね、僕はまだ子供だから」

ニーラ 「いいえ、あなたは分かっているわ、
     本当はみんなが分かっているの。  
     でも生まれてから大人になる時、大抵途中で忘れてしまうの。
     お父様とお母様が、真実の愛を見つけ、いだいて育み、慈しみ、
     永遠に忘れないまでに互いを愛せたから、
     わたしという結晶になって生まれてこれたの」

(明転。巨石の石段がだんだんとサンゴに覆われていく。
 しばらくしてスポットライトがモモタを照らす)

ニーラ 「わたしが生まれたのを皮切りに、多くの人魚が生まれ出たのよ。
     タイやカメやサメの人魚、その美しさといったら綺羅星の如く」

(色々な魚の人魚が現れる)

モモタ (たくさんの人魚を見上げながら)
    「北に行って南に来たの、長い間海を旅したの。
     だけれど人魚に出会えなかった。
     この海もそう、人魚はニーラ以外にいない、どうしなの?
     どうして滅んでしまったの?」

ニーラ 「愛が日常になると、皆が忘れてしまうのよ。
     それが当たり前だって思えてしまうと、誰も愛を語らなくなる、
     誰も愛を謳わなくなる、せっかく海で繋がっているのに。
     そうして真実の愛をなくした海のお友だちは、
     違う形の者を愛さなくなったの。
     それから人魚は生まれなくなった」
(暗転)





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