猫のモモタ

緒方宗谷

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ママになったパパの話

命の底力

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 久しぶりにモモタが、お父さんと赤ちゃんの住まいに、遊びに行きました。
 お部屋の中は大惨事。見るも無残に荒れています。
 洗濯したお洋服も、お仕事の書類も、新聞やチラシも、何もかもが散乱して、床を覆っていました。
 お家からは、赤ちゃんの鳴き声も、お父さんのあやす声も聞こえません。
 お部屋の様子を見てびっくりしたモモタが、慌てて赤ちゃんのお部屋に急行します。
 ですが、赤ちゃんはいませんでした。
 モモタが心配になって佇んでいると、別の部屋から気配がします。
 モモタが行ってみると、散らかって足の踏み場もないリビングの真ん中で、上半身裸のお父さんが、赤ちゃんを抱っこして、優しく揺れていました。
 安らかに眠る赤ちゃんを、とてもとても慈しむように見つめてほほ笑んでいます。
 なぜか、お母さんのような微笑みです。
 モモタに気がついたお父さんが、モモタをそばに呼んで言いました。
 「赤ちゃんは、神様からの授かりものって言うけれど、本当なんだなぁ。
  僕のことをこんなにも幸せにしてくれる。 
  だからモモタだって遊びにきてくれるのだろう?」
 モモタは「にゃあ」と鳴きました。
 「初めは、なんて大変なんだって思ったんだ。
  でも赤ちゃんの泣き声が聞こえたら、やらずにはいられないんだ。
  やりたくてやりたくてしょうがないんだよ。
  母親は、泣き声でおっぱいかおむつか分かるっていうけれど、僕は全然だめでさ。
  ミルクをやっても飲んでくれないし、おしめを見ても汚れていないし、あやしてやっても泣き止まないし。
  こんなの無理だって、泣いたよ。
  お母さんがいないと無理なんだって。助けて萌花って毎日願ったよ」
 弱音を吐いているようですが、モモタにはそのようには感じません。
 だって表情にも語気にも、とても愛情が満ち溢れていたからです。
 お父さんは語り続けました。
 「帆夏(ほのか)は、お腹が空くと、昼夜かまわずに泣き叫ぶんだ。
  仕事して家事して育児して、体力も限界だっていうのに、不思議とつらくないんだ。
  ばちっと目が覚めるんだよ。
  朝だってそうさ。夜何度も起こされるから、朝起きれなくってさ。
  目覚ましアラームや、仕事の電話が何度も鳴っているのに、僕爆睡。
  寝坊して慌てて起きてスマホを見ると、何件も着信がある。
  アラームにも着信音にも気がつけてないんだ。
  でも、帆夏の声は違う。鳴きだした瞬間、全身の細胞が覚醒して、全力疾走で動き出すんだ。眠気も疲れも吹っ飛ばして。
  赤ちゃんって、本当に神様が与えてくれる幸福の、最たるものだよ」
 モモタは言いました。
 「これだけ大変な経験なんだから、一生忘れないよ。
  お父さんがおじいちゃんになっても、幸せだった楽しい思い出として覚えているよ、きっと」
 モモタの声がお父さんに伝わったかは分かりません。
 ですが、お父さんは、微笑みで返してくれました。



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