猫のモモタ

緒方宗谷

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ママになったパパの話

命の最優先

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 モモタは、毎日毎日赤ちゃんの泣き声につられて、赤ちゃんのところに遊びにいきます。
 お父さんは、おっきな子供のようでした。とっても不思議です。
 普段は立派な大人なのに、赤ちゃんの前では男の子。
 ある時モモタは、お父さんがパソコンでお仕事をしているのを見ました。
 お父さんの話し声が聞こえます。
 「うん、それはこうだよね、ああだよね。
  だからそうするべきだよね。
  よし、それでいこう。君に頼んだよ」
 と、心強い口調でお話しています。
  話し相手は誰だか分かりませんが、たぶん子分なのでしょう。
 でも席から離れた瞬間、お父さんの表情は変わります。
 「よちよち、いい子にしていまちたかぁ?」
 目じりは優しく垂れ下がり、ニッコリまったり満面の笑み。
 赤ちゃんを抱えて、踊るようにくるくる回ってあやし始めます。
 モモタは、お父さんの愛情に感心していましたが、心配もしていました。
 心なしか、お父さんかお疲れモードに見えてきたからです。
 そしてほどなくして、お父さんから気力も体力もなくなっていきました。
 赤ちゃんのお部屋にいる時以外は、たびたびため息をついたり、うな垂れるようになりました。
 モモタは心配になって、そばによってスネに身を摺り寄せ、慰めます。
 お父さんは言いました。
 「ああ、猫か。最近いつも家に遊びに来るね。
  そんなにうちの子が大好きかい?」
 モモタは、「にゃぁ」と鳴きました。
 お父さんは、顔を両手で覆って嘆き始めます。
 「何でこんなことになっちゃったんだろうな。
  これからが幸せだって時に萌花は死んでしまって。もう疲れたよ。
  テレワークだから、何とかなっているけど、テレワークだからつらくもなっているんだ。
  誰も助けてくれやしない。
  役所の人に相談したら、ここは教育の相談をするところで、育児の相談をするところではありませんだって」
 お父さんは、嗚咽を堪えながら話し続けました。
 「育児相談の窓口に行ったら、在宅なんだから育児と両立できるでしょう、だとさ。
  乳児を預かってくれるところは限られているし、あっても高くて払えないし。
  もうやだ。何もかも投げ出したいよ。
  お前はいいよな、お気楽な猫で――」
 ちょうどその時、赤ちゃんが泣き始めました。
 お父さんはすぐに飛んでいって、赤ちゃん言葉であやします。
 「おお、よちよち、おっぱいでちゅか? うんちでちゅか?」
 すごい愛情です。精も根も尽きた体なのに、赤ちゃんの泣き声を聞くと、無いはずのパワーも全開。イクメンに大変身。
 父性のスイッチってすごいですね。

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