猫のモモタ

緒方宗谷

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牧場で出会ったお友達

消してしまえば、無くしてしまえる

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 今日は天気がいいのでお散歩日和。
 モモタは心ゆくまでお散歩することにしました。
 モモタが羊のお庭を囲う柵の上を歩いていると、集まって一つの塊になったみんなから離れて、1頭でピョンピョン遊ぶ羊がいいます。
 向こうからそばまで飛び跳ねながらやってきたので、モモタは話しかけました。
 「おはよう。元気いいね。
  でもみんなが呼んでるよ。帰らなくて大丈夫?」
 「んあ? 関係ないさ。
  僕はお尻を高くつき上げて遊ぶのが大好きなんだ」
 そう言いながら後ろ足で柵を飛び越えました。
 着地と同時に、勢いそのままに後ろ足をあげて、牛のお庭を飛び跳ねていきます。
 それに気がついた羊のみんなが呼びますが、おしりジャンプの羊はおしりぷりぷり知らんぷり。
 みんなが心配の声をあげたり怒鳴ったりしているのに、どこ吹く風です。
 お昼を過ぎてからやって来た牧場の人が呼んでも知らんぷり。
 陽が暮れ始めても、おしりジャンプの羊は戻ってきません。
 彼は誰時(朝焼け)に戻ってきたおしりジャンプの羊は、みんなを起こして言いました。
 「柵の向こうの柵の向こうの柵の向こうにある柵の向こうには、どんな柵があるんだろう?
 ねえみんな行ってみたいと思わない?
  想像するととても気になって楽しくなっちゃう」
 おしりジャンプの羊がそう言ったら、みんなは非難轟々です。
 「そんなことで僕たちを起こしたのか?
  何を考えているんだ!
  お前みたいなのがいると、みんなの安らぎが揺らいでしまうよ。
  僕たちは大人しくみんなで集まって、草をはむはむしているべきなのにさ」
 お家の中で寝ていたモモタは、お外からその騒ぎが聞こえて目をさまし、窓から見やりました。
 ですが、と照っても眠かったので、明日でいいや、と眠ってしまいました。
 次の日、モモタが見にいってみると、どこかに行ってみたい、と言い出す羊が何頭か出てきて、おしりジャンプの羊についていこう、としています。
 彼らは、一つに集まった羊たちから離れて、おしりジャンプをする者や、前後の足でスキップする者、ひっくり返って空を走ろうとする者など、色々な遊びをしています。
 中には、本当におしりジャンプの羊について、柵を飛び越えてしまう羊たちも現れました。
 遂には半分の羊が、あっちに行ったりこっちに行ったりして、バラバラの塊がいくつも出来ました。
 元の塊は、騒がしいみんなの中心で静かに草をはむはむしています。
 それを見ていた人間に、最初のおしりジャンプの羊は連れていかれてしまいました。
 おしりジャンプの羊がいなくなってからも、しばらくの間、数頭の羊は騒がしくしていました。
 ですが、柵を飛び越える羊は、かならず人間に連れていかれて、二度と帰ってはきません。
 そしてようやく、大人しく集まって、草をはむはむしている、もとの羊の群れに戻りました。
 そうやっておとなしい羊ばかり残していくんだなぁ。
 モモタも羊たちも、無意識の更に下で思いました。
 でも、思っていることには気が付けません。
 たくさんのお友達が住んでいるのに、牧場がとても静かなのは、そういうことだからです。



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