猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
271 / 500
寂しがりやなウサギの話

寂しいと、痛いのだって求めちゃう

しおりを挟む
 「助けてー!助けてー!」
 樹海の中に、ウサギの声が響き渡りました。
 必死に逃げるうさぎの声の後ろから、「ワンワンワンワン」と、ビーグル犬たちの声も響きます。
 間一髪で逃れたウサギは、荒れた息を整えながら、木の上にいたモモタに声をかけました。
 「あーびっくりしたなーもー。
  いつも犬に追いかけられて困っちゃうなー。
  僕ってほら、きれいな白い毛皮に包まれていて、可愛いだろ? 
  大きさもちょうどいいじゃん、抱きしめたくなっちゃう。
  温もり求めてみんながよって来るんだ。
  それにとても美味しそうだし、どうしても捕まえちゃいたくなるんだよね。
  でも僕、そんな安っぽくないだ。
  ごはんにされるなんてまっぴらごめんさ。
  あーやだやだ、人気者はつらいなぁー」
 モモタは言いました。
 「僕たち可愛いから、人間はみんな抱っこしたくなるんだ。
  1匹で日向ぼっこしていたい時もお構いなしに。
  犬だってすごい勢いでしっぽを振って『遊んで~』って走ってくるよ」
 「ふーん、君、追っかけがいるようには見えないけどね。
  耳も短いし、美味しくもなさそうだし」
 遠くでビーグルたちの声が聞こえます。まだうさぎを探し回っているようでした。
 このウサギは、よくこの辺りにきては、「ごはんはないかなぁ、美味しいごはんはないかなぁ」と独り言を言いながら、ぴょこぴょこ歩いているので、お肉大好きっ子からしたら、良い獲物です。
 だからモモタは言いました。
 「あんまりこっちに来ない方がいいよ。だってカウボーイハウスがあるもの。
  すぐに見つかってまた追いかけられてしまうよ」
 「うん、そうなんだけどね、こっちの方には美味しい葉っぱやなんかがよく生えているんだ。
  だからどうしてもこっちのほうにきてしまうんだよ。
  特に、冬の時分には冬眠しなくっちゃいけないからね。
  たくさん食べておかないといけないし。
  特にほら、カウボーイハウスには、美味しそうなニンジンが生えているだろ?
  あの匂いにつられちゃうんだ」
 モモタは不思議に思いました。
 だってこのウサギは、カウボーイハウスに遊びに来たことがなかったからです。
 モモタは言いました。
 「ここら辺の葉っぱ美味しいの? 
  僕食べないから分からないけど、樹海の奥の方にも沢山生えてるのと一緒じゃないの?」
 うさぎが笑います。
 「違う違う、ぜんぜん違うよ。
  同じように見えても全然違うんだ。
  仮に同じでも、生えているところが違うからね」
 「ふーん」
 そういうこともあるかな、とモモタは思いました。
 うさぎは、自慢げに言いました。
 「僕追っかけが多いから大変。
  君も見たろ?僕を食べたがる犬の多さ。
  君、あんなたくさんの犬に追いかけられたことないだろうね」
 自慢しているようなのに、なぜかこまっちゃうなぁー、といった様子で言っています。
 でもモモタは気がついていました。
 このウサギは、自分から犬にちょっかいを出しているようなのです。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

ある公爵令嬢の生涯

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。 妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。 婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。 そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが… 気づくとエステルに転生していた。 再び前世繰り返すことになると思いきや。 エステルは家族を見限り自立を決意するのだが… *** タイトルを変更しました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...