猫のモモタ

緒方宗谷

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満腹な町のお友達

弱さを武器に強きをくじく

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 モモタは、電線を埋め尽くすスズメの大群に出会いました。どこもかしこもスズメだらけです。
 こんなにも多くのスズメを見るのは初めてでした。
 モモタは、ちょっとお腹が空いていたので、抜き足差し足忍び足で、あるお家の植え込みに身をひそめます。
 私道を挟んだ向かいには、小鳥屋さんがあって、その店先にたくさんのスズメが集まって、ごはんを食べていました。
 近くには公園があったので、そこにお家があるのでしょう。
 ひっきりなしにスズメがやって来ては、交代交代ごはんを食べています。
 大きな広場ではないのですが、ときどきお店の人が出てきて、鳥かごを洗うので、いつも粟(あわ)という小さなごはんが、沢山落ちているのです。
 スズメたちは気が緩んでいました。モモタの気配に気がつきません。飛び出すために、ゆっくりとモモタが構えます。
 その時でした。バサバサバサっと大きな羽ばたく音が聞こえたかと思うと、真っ黒なカラスが広場におりてきて、1羽のスズメの女の子を捕まえました。
 その瞬間、ワーと逃げ出すスズメたちでしたが、すぐそばの塀や屋根にとまって、カラスのほうを見やります。
 そして、一斉に非難の嵐を浴びせかけました。
 「最っ低、あんなに大きな体して、こんなに小さなわたしたちを襲うなんて」
 「僕たちおんなじ鳥なんだよ。あいつの心は腐っているんだ」
 捕まったスズメの女の子が叫びます。
 「強いんだから、タカでもフクロウでも捕まえてればいいのに、なんでよりによってわたしなのよ、もう最低っ」
 周りのスズメも非難轟々。
 「あーあ、あの捕まった子、泣いてるよ」
 「あのカラス、ろくな死にかたしないだろうな」
 「見てろよ、羽をむしるぜ。そしてついばむんだ。
  ひどい光景だよ。普通カラスだからって、そんなひどいことしないだろうな」
 「そうさ、人間が食べ残すごはんが沢山あるんだから」
 「アイツだけだよ、こんなことするの」
 「そうだ、みんなに言いふらしてやろうよ。
  ハトにもコゲラにもジュウシマツにもシジュウカラにも」
 「カラスにもね」
 そして、スズメたちはみんな揃って、「最っ低、最っ低、最っ低」の大合唱を始めました。
 一羽のカラスを取り囲む数百羽のスズメたち。
 初めは散り散りに逃げていったはずなのに、いつの間にかじりじりとにじり寄っていました。
 カラスは、するどい爪で捕まえたスズメを離しません。ですが、食べることも躊躇していました。
 「あっ、飛んで逃げるぞ」一羽のスズメが叫びます。
 他のスズメたちも叫びました。
 「わたしたちに見られないところに行って、食べるんだわ」
 「ほんと最低だな、ばれなければ何してもいいのかよ」
 羽を開こうとしたカラスでしたが、途中でやめて、羽をたたみます。
 捕まったスズメが叫びます。
 「助けてー、助けてー、わたし何もしていないのに、このカラスがひどいことするー。
  お願い、わたしが食べられたら、一生このカラスの悪事をみんなに言いふらして―」
 カラス自体は、別に悪いことをしているわけではありません。
 今日は燃えないゴミの日でしたから、食べられるごはんは見つかりません。
 今日一日生きるためにスズメを捕まえたのは、当然のことです。
 それに、自分より小さなスズメを狙いに定めたのも仕方がありません。だって、大きな鳥を襲えば、返り討ちにされて、大怪我を負ってしまうかもしれないからです。
 モモタはスズメたちを見て、とても感心しました。
 スズメたちは、落ちている粟(あわ)を目当てに広場に集まってくる小さな虫もつついていましたから。
 ついにカラスは諦めて、スズメを放して飛んでいきました。



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