猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
4 / 499
大好きな家族の話

相手の気持ちになって想えるということ

しおりを挟む
 とてもお天気のいい朝でした。
 モモタは、祐ちゃんママが作ってくれたほぐし鮭の猫まんまを朝ごはんに食べてすぐに、お外へと遊びに行きました。
 マンションがたくさん並んだところにやってくると、何やら心に不安が湧いてくる何かが、一本道路の真ん中に落ちています。
 モモタは悲しい気持ちになりながら、それがなにか確かめようと近づきました。
 猫でした。夜の内に車にひかれたのでしょうか。牙を出して唸るように顔をしかめた、薄茶の猫でした。
 モモタは、少し離れたところの十字路のすみの歩道にお座りをして、見ていました。
 まだ朝早いので、沢山のサラリーマンが行き来しています。
 あの死んだ猫のことを、誰かが助けてくれるだろう、とモモタは思いましたが、誰も助けてくれません。
 ブレザー姿の女の子はよけて、離れたところを歩いていきます。
 少し後に来た同じ制服の女の子は、顔を背けました。
 学ランの男の子は、気にも留めない様子です。
 モモタはつらくて、その場を後にしました。
 お昼ご飯の時間も終わってしばらくした後、再びモモタはやってきました。そして、空を見上げました。
 突然お目目が握られたようになって、中の水がしみ出してきたような感覚がしたからです。
 みんなお仕事に行っている時間でしたから、誰も通りません。
 死んだ猫は1匹ぽっちで、冷たいアスファルトの上に横たわっています。
 モモタの後ろから、車が走ってきました。
 ひき潰される、とモモタは心配しましたが、車はスピードを落として、猫をひかないように走っていきます。
 何人かのサラリーマンや私服のおばさんが通りましたが、やはり知らんぷり。
 あたかも死んだ猫が、その場にいないかの様でした。
 あの猫を助けてあげたい、と思ったモモタですが、自分よりも大きな大人の猫のようでしたから、どうすることも出来ません。
 モモタは、その場にいるのがつらくて、遊びに行きました。
 このつらい気持ちを忘れてしまいたかったからです。
 陽が暮れてくると、モモタはもう一度あの場所に行きました。
 死んだ猫は、朝と同じ場所で同じ格好のまま横たわっています。
 たくさんのサラリーマンが、前から後ろからぞろぞろ歩いていきます。お仕事が終わったのでしょう。
 通る人通る人、みんな気がついているようでした。ですが、誰も死んだ猫を助けてくれません。
 ランドセルを背負った子供たちが、むこうからやってきました。
 でも期待できません。だってみんなは朝も死んだ猫を見たはずですから。
 子供たちは、「まだいるー、まだ落ちてるー」と騒いで、気持ち悪がります。
 モモタは、自分のことじゃないのに、言葉が心に刺さりました。
 陽が沈んでからだいぶ時間が経ちました。
 モモタは、もう長いこと道路と歩道をへだてる植え込みに座っています。
 たくさんの人が通りましたが、誰一人として、死んだ猫を見て悲しんではくれません。
 モモタは、諦めて帰ろうとしました。
 背を向けて、十字路を左に曲がろうとしたその時です。
 気配がしました。自転車に乗った男の子が、スイーと走ってやってきました。
 モモタは、瞳を見開いて、もう一度、死んだ猫のほうに向きなおります。
 なぜかそうせずにはいられませんでした。
 男の子は、急にスピードを落としていきます。
 右足で後ろのタイヤをまたいで、左のサドルの上に片足立ち。
 姿が見える距離になって、その男の子が誰だか分かりました。モモタはとても期待が湧いてきました。
 格好良いマウンテンバイクからおりた男の子は、ご主人様の祐ちゃんでした。
 祐ちゃんは、マウンテンバイクをおりてしゃがみ、死んだ猫を見ています。
 そして辺りを見渡して、マンションの植え込みに生えていた、人間の顔ほどもある大きな葉っぱを2枚ちぎって、手のひらに添えて、猫を抱き上げました。
 そして、歩道の植え込みに生えていた木の根元に寝かせます。そして、手のひらに添えた葉っぱを猫にかけました。
 モモタは、とても救われた気分になって、「にゃあにゃあ」鳴きながら、祐ちゃんのもとに駆けていきます。
 「モモタぁ」祐ちゃんは優しく答えてくれました。そして、モモタの脇に両手を添えて抱き上げて、続けて言いました。
 「この猫かわいそうにね。車にひかれて死んだのかな。
  本当は埋めてやりたいけれど、手じゃ硬い土を掘れないし・・・。
  でも土の上に寝かせてあげたからいいよね?だってかたい地面じゃないんだもん。それに、いつか土に帰っていけるから」
 モモタには難しくて、何を言っているか分かりません。ですが、祐ちゃんの猫への優しさが伝わってきます。
 モモタは、とっても幸せ者です。祐ちゃんに抱き上げられる時が一番大好きです。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

DEVIL FANGS

緒方宗谷
ファンタジー
下ネタ変態ファンタジー(こども向け)です。 主人公以外変態しか出てきません。 変態まみれのちん道中。 ㊗️いつの間にか、キャラ文芸からファンタジーにジャンル変更されてたみたい。ーーてことは、キャラの濃さより内容が勝ったってこと? ローゼ万歳、エミリアがっくし。 でも、自信をもって下ネタ変態小説を名乗ります。

小学生の働き方改革

芸州天邪鬼久時
児童書・童話
竹原 翔 は働いていた。彼の母は病院で病に伏せていて稼ぎは入院費に充てられている。ただそれはほんの少し。翔が働くきっかけ母はなのだがそれを勧めのたのは彼の父だった。彼は父に自分が母に対して何かできないかを聞いた。するとちちはこう言った。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

処理中です...