猫のモモタ

緒方宗谷

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弱さを知って強くなれたオオタカのキキ

最後に残るのは持っていたものだけ

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 誇り高いオオタカのキキが、翼を大きく広げていました。もう痛くありません。傷は完全にいえています。
 前に巣を飛び出した時に一度だけ見た大空は、どこまでも続いているかのようでした。
 木の枝から地面を見遅すことしかしたことのないキキは、モモタの看病を受けながら、ずっとこの森を見渡すことを夢見てきました。
 キキは、看病してくれるモモタに感謝しながらも、ちょっと嫌な気持ちでいます。
 だって僕は空の王者。猫のモモタにごはんを恵んでもらっているなんて、他のタカたちにばれたら、いい笑いものです。 
 モモタから、「飛び立つときはお見送りするから、教えてね」と言われていましたが、キキは一羽で大空に挑戦することを思い立ちました。
 猫なんかに見守ってもらう必要はありません。だって僕は、この森に住む鳥の中で最強のオオタカなのです。
 ついこの間、モモタは顔を見せたばかりでしたから、今日ここには来ないでしょう。
 キキは、今なら飛べる、と何度か羽ばたきます。
 少し離れたところに、タヌキが隠れているのが見えました。
 タカの目はとても眼光が鋭いので、隠れている者もすぐに見つけられるのです。
 内心タヌキの事も、飛び立つことも、とても怖がっていましたが、そうと気取られまい、と平静を装います。
 音も立てずに、キキはスィーと飛び立ちました。それを合図にタヌキも駆け出しますが、キキの飛ぶ速さが早すぎて、全く追いつきません。
 とても速く飛んでいるキキでしたが、速いなんて感じません。木々の合間を縫うように飛んで行きます。
 ですが、傷も癒えたばかりですし、2度目の挑戦でしたから、まだ高く飛べません。
 低く飛びながら、幾つかの砂利道を通り過ぎたところで、ついに落ちてしまいました。
 すぐに飛び立とうとしたキキでしたが、動けません。お腹を仰向けになて両足の爪を構えています。
 飛び立ったばかりでまだ小さなオオタカは、カッコウのごはんでしたから、みんな虎視眈々と様子を窺っていたのです。
 イタチとキツネが挑戦しよう、と試みました。でもあの鋭いくちばしと爪を見て、うかつには襲えません。
 キキが落ちた場所は、運悪くカラスの縄張りの中にある砂利道でしたから、そこら中の木々にカラスが集まって、カアカア鳴いています。
 その中の1羽のカラスが偵察しに下りてきました。キキは目を見開いて足を向け、鋭い爪を見せつけます。クチバシも開いて、その鋭さでいかくしました。
 ですが、カラスも負けてはいません。フクロウやミミズクの寝ている昼間の森ではナンバー2。子供だと侮ってそばに寄ってきました。
 ぴょんぴょんよっては離れるを繰り返すカラスは、段々とキキとの距離を詰めていきます。キキは強がりを見せました。襲い掛かる勢いです。
 ですが、効果がありません。勇気のあるカラスがイタズラしてやろう、と近寄ってきます。
 キキは怖くて怖くて仕方ありませんでしたが、カラスに爪が届くとなった瞬間、何かを考える間もなく、突然襲いかかりました。
 カラスもみんなもびっくりです。キキ自身もびっくりでした。
 生まれ持ったものは、どんな時でも頼りになるのです。
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