猫のモモタ

緒方宗谷

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自分のことしか考えないノラ猫たちの話

群れをなしたらいい加減

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 モモタは、久しぶりに港町にやってきました。
 車に乗る、ということを覚えたモモタでしたから、どんなに遠くでもスイースイです。
 信号で止まったトラックの荷台から降りたモモタは、猫のみんなを探します。
 海から離れてだいぶ経ちましたから、そろそろ魚屋さんもみんなを許していることでしょう。
 モモタは、朝とれたばかりのお魚の味が忘れられなくて、またやって来たのでした。
 モモタがみんなを見つけて駆け寄ると、何だか少し不穏な空気です。
 野良のソリオが言いました。
 「俺達がこんなにお腹を空かせているのは、魚屋のせいだ。
  あいつらが魚を魚のままくれるからいけないんだ」
 以前に、お魚屋さんの足を引っ掻いて怒られた猫です。
 「そうだそうだ」とみんなは騒ぎ立てました。ソリオは続けます。
 「缶詰にしたり、ちゅるちゅるにしたりしてくれないからいけないんだ」
 興奮したハンキチが叫びます。
 「この間まで、お魚すらくれなかったんだ。
  だからこれからは、美味しくねこちゃんご飯にしたお魚をくれるべきなんだ」
 またも「そうだそうだ」とみんなが騒ぎます。
 「ちゅるちゅるにしろ!スープ仕立てにしろ!フレークにしろ!」
 みんな文句にゃあにゃあです。騒ぎ立てながら、みんなでお魚屋さんに詰めかけました。
 「わたしは干物が好きだわ。お味が濃くて美味しいのよ」
 「人間ばかりズルいぞ。僕たちにもよこせやい」
 「俺達は刺身が好きなんだ。一口サイズに切ってくれよ」
 モモタはそれを見ながら、久しぶりに再会して一緒にお散歩していた子猫に言いました。
 「自分で捕れもしないくせに、よく言えるよね」
 すると、子猫が訊きます。
 「お魚を自分で?取れっこないよ。だって海の中に沈んでいるんだもん」
 「沈んでる?」
 モモタは、びっくりして訊き返しました。
 子猫の話を聞くと、なんと、生きたお魚を見たことがないというのです。
 「お魚って生きてるの?」
 「そうだよ、生きて泳いでいるんだよ」
 泳いでいるということも良く分からない様子です。 
 「僕たちで言うと走ってるってことだよ」と教えてあげました。
 「じゃあ、よけい捕って来れないよ」
 モモタは、「そんなことないよ」と否定して言いました。
 「もちろん深いところにいるお魚や、とても大きいお魚は無理かもしれないけど、浅瀬や川にいるお魚は捕れなくもないよ。
  それに、空飛ぶ鳥が海に飛び込んでお魚を捕ったりもできるんだよ。
  空の鳥が出来て、陸の僕たちが出来ないはずないよ」
 それでも子猫は分からない様子です。
 モモタは思いました。
 もしこの子に、海のお友だちの素晴らしさを想像させてあげられたら、スイミング猫ちゃんの誕生だ。



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