猫のモモタ

緒方宗谷

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心配性の足長蜂の話

誰でもない誰かは自分のことじゃない?

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 モモタが遊んでいると、とても慌てた様子の叫び声が聞こえてきます。
 「大変だー大変だー、虫たちが蜜蜂の赤ちゃんを食べに来るぞー」
 いつものことだと思ったモモタでしたが、足長蜂の様子は、いつもと違いました。
 心配になったモモタが、何事があったのかと訊くと、足長蜂は気前よく教えてくれました。
 「蜜がたくさん貯まってくれれば、巣箱から蜜が溢れるでしょ?
  蜜が溢れれば、お腹を空かせた虫たちは、巣箱の下でたっぷり食べられるじゃない。
  そしたら、みんな満腹になるんだ。だから、虫たちはみんな、蜜を食べる蜜蜂が減ることを望んでいるらしいんだぞ」
 答え終わった足長蜂は、また「大変だー大変だー!虫たちが蜜蜂の赤ちゃんを食べに来るぞー」と叫びながら飛んで行きました。
 それは大変だと、モモタは急いで蜜蜂のところに行って教えてあげました。すると、キョトンとして顔を見合わせてから、1匹の蜜蜂が笑って言います。
 「蜜のしずくをなめたい虫たちが、赤ちゃんを襲うわけないのにね。
  だって蜜を好む虫は赤ちゃんを食べないもの」
 「本当、笑っちゃうわ」
 それを小耳にはさんだ足長蜂は、飛んで戻ってきて言いました。
 「そうじゃないよ。蜜のしずくをなめたい虫たちを増やすために、お肉大好き虫が押し寄せてくるんだよ」
 蜜蜂達が口々に言います。
 「押し寄せてきたら、巣箱に来る虫は怖がって来なくなっちゃうよ。
  そしたら、スズメバチたちも困るじゃない」
 「そもそも、蜜がたくさん溢れて、みんなお腹いっぱいになったら、ごはん探しにお出かけする虫が減るんだから、スズメバチはごはんを見つけられなくて困ると思う」
 モモタは、蜜蜂達の言うことの方が普通に思えましたので、足長蜂に言いました。
 「結局、今が一番いいんじゃない?だから今こうなんだよ」
 足長蜂は反論します。
 「それをだね、もっとよくしてやろうって言うんだよ」
 「誰が?」
 「誰でもないけど、いつか言うんだよ」
 モモタは肩にとまっていたにいた蜜蜂のルーク君に言いました。
 「誰でもない誰かが誰に言えるって言うんだろう?」
 首をかしげるモモタに、「確かにね」と笑います。 
 やって来た女の子が言いました。
 「昔から言っているのよ。でもこの心配ストーリー久しぶりに聞いたわね」
 みんなもう慣れっこです。
 足長蜂が、忠告だと言いたげな表情で言いました。
 「そう言われ時に、どうしようって思っても遅いんだぞ」

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